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デカルト積のピクトリアル

かけ算(乗法)のうち,デカルト積を連想できる図を集めてみました.

1. [Greer 1992] - 上下の服

  • Greer, B.: Multiplication and Division as Models of Situations, Handbook of Research on Mathematics Teaching and Learning, pp.276-295 (1992).


上の服は4着,下の服は3着,で上下の服の組み合わせは何通りありますか,という問題文を作ることができます.
図そのものはp.281ですが,説明文はp.279にあって,次のとおりです.

Figure 13.1e is a pictorial representation of Cartesian product (cf. Freudenthal, 1983, p. 62).

Figure 13.1は,各文献をもとにおそらく著者が作成した,かけ算で求めることのできる場面の図示です.(a)から(j)まであります.(a)はトランプ配りで,(f)は「12個パックの卵が6パック」という,倍の乗法の典型(原文では"a pictorial presentation of an equal-groups situation")です.

2. 板書で見る - ふしぎな花のさく木


板書で見る全単元・全時間の授業のすべて 小学校算数2年〈下〉』のp.49に,2つ(上は板書例,下は解説),「ふしぎな花のさく木」の絵があります.
ただしこの絵を教師が提示し,授業の中で2種類のかけ算の式を作ることが,授業の主目的ではありません.実際,「このような問題を扱うと,次のような場面を考えてくる子がいる。「4×5」でも「5×4」でもどちらでも答えが求められる場面である。」という解説がつけられています.
「4本の木に,5個ずつりんごがなっている」状況を理解し,図,言葉,式を通じて,4×5ではなく5×4が正しいことを学習(確認)するのがメインです.

3. ワクワク授業づくり - お菓子


誰もができる子どもに活用力をつけるワクワク授業づくり―第2回RISE授業実践セミナーの報告』p.69です.公開授業の「展開」として書かれたうちの一部で,授業前に作成しておく,学習指導案に似た記述です.
授業者は夏坂哲志氏で,一つ前の項目で挙げた書籍の監修者です.
図ですが,これもまた,枠を取り除けば,デカルト積が見えてきます.
このページで,考えさせられたのは,図と,最初に提示する「文」との対比です.問題文は「はこが、4はこあるよ。それぞれのはこには、あめが3こずつ入っているよ。」であり,合わせて,総数は12個であることを先に明示しています.総数を求めるのではなく,求めるための式を作る,という授業です.
当初は「図と言葉とで,表しているものが違う」という認識だったのですが,今ではその理由・区分けが明確です.その文は,倍の乗法です.それに対して図は,積の乗法です.ということでここにも,倍の乗法と積の乗法の混同が見られたのです*1
問題文に対して,「4×3」ではいけない,「3×4」と書けるよう指導することの議論は,p.70からの授業協議会*2で,諸氏の発言から読むことができます.アメリカでは4×3になるという発言もあって,これについては「一種の約束事ですよね」(p.77)によって区切りをつけ,公開授業に話を戻しています.

4. [Freudenthal 1983] - 男女

  • Freudenthal, H.: Didactical phenomenology of mathematical structures, Reidel (1983).

[Greer 1992]のところで引用されている文献です.幸いにもGoogle booksで読めます.

そしてp.62に,図があります.

図の意味は,Greerの文献のうち,〈乗数と被乗数を区別しない文脈〉の説明文と同じように見えます.ただし男女の人数は違いますし,[Freudenthal 1983]では「どちらでもいい」ではなく,集合演算として,デカルト積でm・nになることを表しているように読めます.

5. 中国の教科書 - 風船


p.181より.9月5日に書いた件とあわせてどうぞ.

6. 動く素材 - チョコ


初期状態は乱雑な配置ですが,整理した上で,式で表すと,5×3とも3×5とも表せて,ここから,「かけ算の交換法則」を得るという流れです.
ページ全体を見て気づくのは,「どちらでもよい」ではないという点です.「同じ」で検索して一つ一つ見ていくと,「同じ」になるのは,式(の意味)ではなく,答えであることが確認できます.
合わせて,指導上の留意点には,「図と式とがあっていない児童はかけ算の仕組みがよくわかっていないので、個別に指導する」という指示が入っています.この文の「図」は,2次元に配置した状態ではなく,一つ分の大きさと幾つ分とが分かるよう,囲い込みをした状態を指すのでしょう.

*1:この混同が---「倍の乗法」「積の乗法」が普及していない点はさておき---最初に記されたのは,「トランプを配るときのやり方」と合わせて,遠山啓が1972年に書いた件でしょう.先月13日に,取り上げました.

*2:パネルディスカッション形式で行われたことが,同ページの写真から分かります.