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被乗数と乗数の区別が厳密でない問題集

「かけ算」に限って言うと,この本には,「かけられる数」「かける数」が出現しません*1.被乗数と乗数の区別が厳密ではなく,「かけ算には順序がない」ことを背景とした問題集に見えます.
《BA型》の問題を,見てみましょう.

もんだい2
(い) 子どもが 7人います。色紙を 1人に 6まいずつ あげるには,ぜんぶで 何まい あればよいですか。
(p.103)

式と答えを書く欄があります.「答えは136ページ」とあるので,見に行くと,

(い) しき 7×6=42 42まい
(p.136)

です.数値の現れる順に書いて×を挟めばいい,というわけです.
ちなみにこの問題の一つ前は,

(あ) えんぴつが 2ダース(1ダースは 12本)と あと4本 あります。ぜんぶで 何本 ありますか。
(p.103)

で,こちらの解答は

(あ) しき 12×2+4=28 28本
(p.136)

となっており,問題文とかけ算の式とで,数の出現の順序が反転しています.
ページを前に戻しますが,かけ算の最初の説明も,ちょっと面白いのです.

3+3+3のように,同じ 数字の たし算の しきが あるとき,これを 3×3と かけ算の しきで あらわすことができます。×は かけると いいます。
(p.93)

この説明では,「3×3」の左の3と,右の3が,それぞれ何を表すのかが読み取れません.まあその後の例題で,8+8+8+8は8×4と表すので,そこで,被乗数と乗数の区別がつくわけですが.
被乗数・乗数がないので,乗法の交換法則も,出てきません.と言いたいのですが,例題の中に

れいだい5
丸3 9×10は 9×6と [4]×9に わけられます。
(p.102.「[4]」は原文では箱囲みの中に4)

とあります.「9×[4]」であれば,ちっとも驚かないのですが.
アレイ図はなく,その一方で,線分図が入っています.
交換法則のほか,「乗数が1増えれば積は被乗数分だけ増える」という性質も見当たらないこと,またp.101では「なんで かけ算を さきに するの?」*2という見出しになっていながらその「なんで」に答えていないことから*3,かけ算の学習参考書・問題集としては,おすすめできません.とはいえ,「したがって,学校ではあまり教えない,教科書から離れた考え方や,オリジナルな問題も取り入れているので,思考力がぐんぐんついてきます。」(p.2)と書いてあるのに加えて,上述のとおり《BA型》と思いきやA×B=Pの式を認めているので,まあ,かけ算の指導方法に関心のある人なら,一読する価値はあるのではないでしょうか.

関連

算数科では,整数の乗法は,一つ分の大きさが決まっているときに,その幾つ分かにあたる当たる大きさを求めるという場面で導入される.整数の世界では,その値を求めるためには,同数累加を行うことになる.つまり,乗法は同数累加の簡潔な表現として用いられることになる.この定義では,3×4=3+3+3+3,4×3=4+4+4となる.つまり,被乗数と乗数の順序に意味がある.(略)

ルールを決めればこっちのもの

《BA型》:文章題で,A,Bの順に数が現れ,B×A=Pの形でかけ算の式を立てることが期待される問題.

AB型とBA型

いくつかのグループがあって,各グループで同じ個数のモノがあるときというのが,子どもが最初にかけ算を用いる場面になる.例えば

3人の子どもが4つずつクッキーを持っている.全部合わせるとクッキーは何個か?

これをかけ算の式で表そうとするとき,2つの数は明らかに異なる役割を担っている.子どもの数は「乗数」であり,クッキーの数すなわち「被乗数」に作用して,答えとなる総数が得られる.

Greerによる,乗法・除法が用いられる場合

*2:「かけ算には,これまで子どもたちが学習してきたたし算やひき算とは大きく異なる点がある。それは,演算記号の前の数と後ろの数は,違う意味を表しているという点である。」

配り指向 *2

(例1) すべて6×9−3×5の式で白い部分の面積を求めることができるから。
平成19年度 全国学力・学習状況調査 解説資料 小学校 算数 p.40)

それで一つ,今後あり得そうな展開を思いつきました.
ある本の中に,《BA型》に見えるある問題なのですが,その解答はA×B=Pの形,すなわち数字を出現順に書いて,かけ算にしています.
そういう問題と解答のペアを見つけた,ある意図を持った誰かが,鬼の首を取ったように,現在ではもはや,順序を問われなくなったのだと,ネット上でアピールするのです.
とりあえず今年において,私がそういう事例を見かけたら,本を取り寄せて確認するかな.当雑記で取り上げますし,記載どおりであれば(そして序文やあとがきを含めすべて目を通し,A×B=Pとする意図を読み取れなかった場合に),出版社へ問い合わせをしたいところです.ネットでかけ算の順序をめぐる論争が存在し,そこで指摘されたことと,《AB型》と《BA型》の類型を背景として,当該箇所の解答は,B×A=Pの誤記ではないかと尋ねます.手紙文とし,郵送して,著者さん編集者さんが内容確認をされる間,待ちます.
あとは返事次第.誤記なら当雑記でそう報告しますし,そこに書かれていない編集方針があって,正解はA×B=Pなのだというなら,その編集方針の存在に対して,自分の身の振り方を決めることになるでしょう.

過去の誤記に目を閉ざす者は

*1:よく読み直してみると,p.98の「かけ算の九九のひょう」の中に,これらの語句がありました.

*2:例題の最初は,「4×6=2×6+[2]×6=24」です.なぜ2×6+2×6が24になるのか,このような分解が何に役立つのかあたりについて,気にはなりますが,そのヒントになるような情報も見当たりません.なお,「乗法,除法を加法,減法より先に計算すること」は4年の数量関係に属する指導項目ですが,2年で教えていけない理由はありません.ただ,分解式と総合式の解説は,あったほうがいいとも思います.

*3:もう一つ,気になった点を挙げると,p.89の「平行四へん形」の図では,どこが平行になるのかがよく分かりません.