わさっきhb

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4マス関係表

いきなりですが問題です.

アヤコ,カナコ,サワコの3人で手分けして,庭の水やりをします.
いつも11時30分に始めます.そして11時42分に終わります.
ある日,カナコひとりで,庭の水やりをすることになりました.
12時ちょうどのお昼ごはんに,間に合うでしょうか.

さっそくですが誤答です.この問題,エッセンスを取り出せば,次のことを問うているわけです.

  • 3人で水やりをすると,12分かかります.1人だと何分かかりますか.

最近手に入れた,

をもとに,4マス関係表を作ります.

3人 1人
12分 ?分

3人を1人にするのは「÷3」です.下の段も,「÷3」しましょう.式は12÷3=4です.11時30分に水やりを始めると,11時34分に終わります.12時のお昼ごはんなんて,余裕です♪
んなアホな…


ここからしばらくは毒ですので,嫌気を催した方は読み飛ばしてください.
4マス関係表について,『かけ算には順序があるのか』の著者で,いわゆる非順序派*1の中でもっとも多くの資料をお持ちとおぼしきメタメタさんが,調査をなさっています.

僭越ながら補足をすると,先行する書籍としては次の2冊が不可欠ですし,

関連メソッドにはTOSSの面積図も挙げるべきでしょう.

手持ちの英語文献だと,Vergnaudにも見られます.

あと,田中博史氏の本をいくつか読んだ限りでは,「比例」よりも「演算決定」を重視しています.『4マス関係表で解く文章題』の表紙右上に「小学4・5年生」とあることやp.25の解説から,比例の学習はまだという子ども向けなのが確認できます.
そう,「かけ算に順序はない」と主張する人が「演算決定」という言葉を使う光景を見たことがないのですよね.「かけ算の意味」よりもずっと,問題が解けるようになってほしいと願う子ども向けの言葉に見えるのですが*2
この用語の妥当性・普及度は,CiNiiで検索して63件ヒットすること,一つ前の小学校学習指導要領解説算数編にも入っていること,算数教育ワールドでは,「かけ算の式には正しい順序がある」ことが前提になっている実例 | メタメタの日に貼られている画像にも含まれていることから,「かけ算の順序」の比ではないと理解しています.


4マス関係表を,《算数解説》の「小数の乗法の意味」「小数の除法の意味」(pp.166-167)と結びつけてみます.準備として,「[d1]」と「[d2]」はそれぞれ単位(次元,dimension)とします(実際の表記では,"[","]"はつけません).B=基準にする大きさ(base),P=割合(proportion),A=割合に当たる大きさ(amount),という3つの文字を使用します.
まず

1[d1] P[d1]
B[d2] ?[d2]

という4マス関係表をつくることができれば,?のところをAとして,B×P=Aとなります.
次に

P[d1] 1[d1]
A[d2] ?[d2]

という関係表であれば,?のところをBとして,A÷P=Bです.Pから1になるのが「÷P」,なのでAから?になるのも「÷P」とすればいい,と考えます.
最後に

B[d1] A[d1]
1[d2] ?[d2]

という関係表になるときは,?のところをPとして,A÷B=Pです.このときは縦方向に見ます.Bから1になるのが「÷B」,なのでAから?になるのも「÷B」,ということです.
3つの表を見て分かるように,行の(言い換えると左右で)単位を揃えます.その一方で,「1」の位置はどこかに固定というわけではなく*3,上記は典型的なものにすぎません.B×P=Aとなるものでも,P<1なら,テープ図などをもとに表にする際,P[d1]が左,1[d1]が右に来て,まったく問題にならないのです.
問題にならない,言い換えると混乱しにくいのは,おそらく,2×2の表だけで見るのではなく,そこに,矢印と「×数」「÷数」を添える点にあるようです.本日は都合により,本にある図を貼り付けませんので,かわりに,見かけたブログ記事にリンクすることにします.

黒板授業のメリットを生かし,「×1.3」「×0.6」と矢印が,黄色になっています.
それから,『4マス関係表で解く文章題』では,B×P=Aのタイプ,A÷P=Bのタイプ,A÷B=Pのタイプの順に問題セットがあって,解きながら習熟を図っていきます.《算数解説》では,B×P=A,P=A÷B,B=A÷Pの順に記載があり,「多くの児童にとっては,P=A÷Bの場合に比べ,B=A÷Pのほうがとらえにくい」としています.言ってみれば田中方式は,難しいと思われているほうから先に手をつけ,それでもうまくいくんだよと,提案しているわけです.
乗法・除法の関係や順番を,表にしてみます.

《算数解説》 『4マス』 三用法 整数のとき
B×P=A さいしょ さいしょ 第2用法 乗法
A÷B=P つぎ さいご 第1用法 包含除
A÷P=B さいご つぎ 第3用法 等分除

4マス関係表で,A÷B=Pにする場合には,矢印を上下方向に適用します.そして「÷数」を添えます.上下方向で,かつ「×数」としているのが1箇所だけあるのですが,それはp.74で,小数の割合を百分率に変換するというものです.Greerの分類でいうと,「単位の変換」をしているようです.
最後に,「かけ算の順序」についても記しておきます.先ほどの1番目の表から,P×B=Aと書いてはいけないのかという疑問を持つ人もいるかもしれません.それに対し,この本では次のように「かけ算の式の意味」を定めています.

例題1 重さ0.4kgの本が6さつあります。重さは全部で何kgになりますか。
(略)
(式) 0.4×6=2.4 答え2.4kg
この式は,ことばの式で書くと,ふつう 1さつの重さ×さっ数=全部の重さ と表します。
でも,この式の意味をもっと正確に書くと,0.4(kg)×6(さつ)ではなく,0.4kgの6倍という意味だということを理解しておきましょう。
(p.12)

これを踏まえるのであれば,P×B=Aは,ひどく考えにくいですね.
あと,長方形の面積のような,2つの数の区別が実質的になされない出題も収録されています.関心のある人は,購入して探してみてはいかがでしょうか.


アレイ図と同様に,4マス関係表の「限界」を探っておきます*4.もちろん乗除算で扱えないのは除外です.割引き・割増しの問題のように,加減算を伴うものは大丈夫で,pp.84-85では,下ごしらえをしてから4マス関係表で調理し,答えを求めています.
前々から,式は「a×b」または「a÷b」になる文章題だけれども,4マス関係表の適用が要注意な問題のタイプを思い描いています.一つは,4マスに入る数量の単位がすべて同じ場合で,もう一つは,反比例の関係になる出題です.
4マスに入る数量の単位がすべて同じになる文章題を,作ってみました.

ウサギとカメが競走を始めました.
カメがスタート地点から0.2kmのところに着くと,ウサギは0.6km先にいます.
ウサギとカメがそのまま進んで,ウサギがスタート地点から1kmのところに着くと,カメとはどれだけ離れているでしょうか.

「km」だけを見ると,少々混乱しますが,線分図にするもよし,「カメの道のり」と「ウサギの道のり」をそれぞれ同じ行にするもよしで,4マス関係表は次のようにできます.

0.2km ?km
0.8km 1km

0.8kmを1kmにするのは「÷0.8」です.上の行も同じですから,式は0.2÷0.8=0.25です.これは,カメがスタート地点から0.25kmのところにいることを意味します.「どれだけ離れているでしょうか」ですから,1-0.25=0.75として,答え 0.75kmです.
と思って本を見ていくと,ありました.

1mの高さから落とすと,0.4mの高さまではね上がるボールがあります。このボールを0.7mの高さから落とすと,何mの高さまではね上がりますか。
(p.21)

でもあれ? 高さの2乗に比例する速度が入るんだけど大丈夫なの? と思い,高校時代の記憶を頼りに式を立ててみました.落とすときの高さをh_1,はね上がった最高位をh_2,ボールと床の衝突に関するはねかえり係数をe,その他もろもろ,とすると,h_2=e^2h_1を得ました.eを固定とすれば,たしかに比例の関係です.
ボールのはね上がる問題はp.91にも見られますが,こちらは,割合を使った問題で,単位は行ごとに異なってきます.
反比例になるのは,冒頭の問題です.水やりをする面積が一定のとき,(手分けして)水やりをする人数と,水やりに要する時間には,反比例の関係があるというのを前提としています.
ということで,テープ図を描くなど,4マス関係表にする前の段階で「いつもと違う(比例ではない)」と見抜けますし,3人で12分,4人だと1分と求めてから,「あれ,おかしいぞ」と気づけるよう,数量の感覚を養っておけばいいわけです.
ここで,4マス関係表から離れます.あの問題で期待される式は,12×3=36です.そして,11時30分から36分経過すると,12時06分になります.「一人で水やりをすると,お昼ごはんに間に合わない」を導けるよう,仕事量や時間の感覚を子どもたち身につけたいという意図で,考案しました.
しかし日常生活への適用となると,これで終わるわけにはいきません.「3人が1人になった以外は,いつものように水やりをすると,12時を回ってしまう」ことを認識した上で,「12時(お昼ごはんの時間)までに終わらせるには,どうすればいいか」まで考えられるようになってほしいものです.その方法として,開始時刻を早めるだとか,事情を言って協力者を見つけるというのが思いつきます.
どこまでが算数か,算数の問題だとするとこれは何年生向けなのかは,容易には判断できません.「仕事算」という表現をしてしまえば6年か,小学校の範囲を超えてしまうようにも見えますが,1人の仕事をテープで表せば,2年生でも,終了予定時刻は算出できるように思います.12時までに終わらせるために行う,既存の条件の変更も然りです.

*1:しかしこれも死語になった感が.

*2:授業で「演算決定」と言え,という主張ではありません.授業や対話では,「〜算の意味」のほうが自然でしょうし,より平たく言うなら「たし算かな? ひき算かな?」「かけ算かな? わり算かな?」になります.用語の言い換え例としては,等分除=にこにこわり算,包含除=どきどきわり算,のほうが有名でしょう.

*3:二重数直線とTOSSの面積図では,「1」は左下になります.

*4:ケチをつけたいためではなく,このメソッドがどこまで適用可能なのかを知っておきたいからです.工学的な関心とも言えます.