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親野智可等メソッド

1. 読んだ本

親野智可等の頭がよくなる「算数力」教室 (別冊宝島) (別冊宝島 1736 スタディー)

親野智可等の頭がよくなる「算数力」教室 (別冊宝島) (別冊宝島 1736 スタディー)

9歳までで決まる! 算数が得意な子になる本

9歳までで決まる! 算数が得意な子になる本

これら2冊の本を,以下では『算数力』『9歳』と略記します.
wikipedia:親野智可等親力 | 教育評論家・親野智可等のホームページにも,目を通しました.
子どもを見守る「親」に焦点を当て,親をサポートする著述や活動をされています.
専門用語をできるだけ使わないようにしていること,参考文献・出典を示さないことが,これまで読んできた教育書と異なる特徴と言えそうです.

2. 《BA型》への対応

2冊に,類似した文章題があります.

問題1
「子どもたちが3台のバスで動物園に行きました。どのバスにも37人ずつ乗りました。子どもは全部で何人ですか?」
(『算数力』p.100)


(『算数力』p.102)


[問題] 4台のバスで遠足に行きました。どのバスにも15人ずつ子どもが乗りました。子どもは全部で何人ですか?
(『9歳』p.101)

ともに,3年向けでしょうか.
なのですがこれらは,乗法の意味理解だとかかけ算の順序だとかではなく,数直線への批判・対案として,説明されています.
かけられる数・かける数の両方が分離量で,しかもかける数にあたるほうが「3台」「4台」といった,比較的小さめなら,この手法が効果的でしょう.ですが,かける数が大きくなった場合や,小数・分数になるようなとき(乗法の意味の拡張)にも,同様に図にできるのかが気になってきます.
小数・分数の場合は,『算数力』p.43で,「数字置き換え法」を提案しています*1.数直線は「使うな」ではなく,『9歳』p.100に「ですから、数直線がまったくわからないと損をしてしまいますので、教科書や授業で数直線が出てきたらそれも理解するように努めて欲しいと思います」と書かれています.
3年向けに数直線が使われるのか,調べてみますか…といっても,教科書は参照できないので,とりあえず小学校学習指導要領解説 算数編《算数解説》です.2重数直線が現れるのはp.166で,これは第5学年です.1本の数直線の上下に,2つの異なる数を書き添えるのは,第3学年に入っていまして,例えばp.116なのですが,これは,0.1と10分の1が同じ数であることを含め,分数の大きさをとらえるために使用されています.
小学校新卒教師に贈る算数科授業の基本技88』p.32に,3年向けの文章題で2重数直線を用いている事例を見つけました.出題は「問題4 あめが何こかありました。6人で同じ数ずつ分けたら,1人分はちょうど8こでした。あめは全部で何こありましたか」で,最終的な式は「8×6=48」です.実際の授業でも,3年のうちから活用されているのかな,とぼんやり感じています.
それで親野氏の2つの出題を振り返るのですが…これまで「文章題で,A,Bの順に数が現れ,B×A=Pの形でかけ算の式を立てることが期待される問題」すなわち《BA型》と書いてきたタイプです.それに対し,いずれも乗法的構造の図示で終わっており,式や答えが見当たらないのが,残念に思います.

3. 表にする

『算数力』では,割合に関して「く・も・わ」(その別名として「ぶ・ぜ・わ」),速さでは「み・は・じ」が紹介されています.表を用いた解法も,あります.
表の具体的な利用例をここに示す前に,表であらわすことの意図・意義について,自他のブログを引いておきます.

数学のツールも同じです。あせって解けることだけを先行して教えようとするから
形式化するのです。これは教える側の姿勢が原因。
よく引き合いに出される速さの公式をおぼえる「はじき」の表とはまったく意味が違います。
4マスの関係表は、比例の表であり、比の表現方法そのものなんですから。
高学年の算数を担当する先生が、活用できないでどうするのだろうと・・・。


ただこれまでの反省から
4マス関係表で解く文章題では、
テープ図に色塗りをして、イメージ化すること
数値の関係の表から場面の問題作りをする活動
を前半は取り入れてます。
票(原文ママ)が独り歩きするのではなく、具体的な場面と結び付けられるかを常に意識しています。

「たとえば」を使える子どもを育てること:田中博史(筑波大学附属小学校)のレッツ算数2:So-netブログ

(略)行の(言い換えると左右で)単位を揃えます.その一方で,「1」の位置はどこかに固定というわけではなく,上記は典型的なものにすぎません.B×P=Aとなるものでも,P<1なら,テープ図などをもとに表にする際,P[d1]が左,1[d1]が右に来て,まったく問題にならないのです.
問題にならない,言い換えると混乱しにくいのは,おそらく,2×2の表だけで見るのではなく,そこに,矢印と「×数」「÷数」を添える点にあるようです.(略)

4マス関係表

表を用いた解法を,親野氏を含む別々の著者あわせて3人から,取り出してみます.


(『算数力』p.77)


(『筑波大学附属小学校田中先生の算数4マス関係表で解く文章題―小学4・5年生 (有名小学校メソッド)』p.12)


(『田の字の解き方―算数の文章題が簡単に解ける』p.42.問題文は「水でうすめて使う薬があって、これは薬の量の3.5倍の水でうすめるそうです。この薬を18Lつくるには、何Lの薬を何Lの水でうすめるとよいでしょう。」)

それぞれ,少しずつ違いがあります.はんば氏の「田の字」では,表の内外に矢印と演算を添えません.なお,「1」になる数の位置はさまざまです.表にする前に,関係をテープ図や数直線として描くのも,いくつかのページで見られます.
田中氏の4マス関係表について,その特徴は,先ほど挙げた当雑記エントリのとおりです.
それらと比べると,親野氏のメソッドは,劣化しているように思えてなりません.
『算数力』で,この種の表が使用されているところではいずれも,問題文から表を作ることを勧めています.そのプロセスには,数量の関係をチェックする作業が抜けており,4つのマスのいずれにも同じ単位が入る場合や,反比例が隠されているケースでも,間違って適用してしまう子が出てしまうかもしれません.
いや,「間違って適用してしまう」のは人間誰しもあり得るものです.重要なのは,間違えないことよりもむしろ,「間違いと認識できる」ことのほうだと思います.そして親野氏の表作りメソッドには,そのことへの配慮が見られないわけです.
もう一つの驚きは,親野氏の表に見られる,矢印に添える情報です.上記では「8倍」「1.5倍」「1.5で割る」です.他のページの表でも,かけ算のほうは「〜倍」です.わり算になるほうは,「\frac{1}{6}」「\frac{1}{50}」のように,単位分数を用いています.
分数を用いるほうが,解く見通しがよくなるとか,中学などの数学への接続に優れているのなら,納得もいきますが,決してそうには見えません.数学との連携を考えるなら,かけ算に「倍」と書くのが,不自然・非効率です.
この点については,今のところ,次の仮説を立てています.親野氏は,田の字にせよ,中世ヨーロッパの三数法にせよ,また田中氏の4マス関係図(後に4マス関係表)も含めた,表を用いた解法を熟知なさっています.しかし親向け教育メソッドを提案・推進していく立場上,それらを明記できず,またそっくりそのままというわけにはいかないとお考えになり,「矢印は入れ(させ)ても入れ(させ)なくてもいい」「矢印に添える数は,乗法なら“〜倍”,除法なら“〜で割る”“1/〜”」を採用した,という次第です.

4. 親野智可等メソッド・親野智可等ライフになじめない理由

冒頭の2冊の本を,他の文書と読み比べていく中で,私自身の行動様式にはどうやら,次の特徴があることが,分かってきました.

  • 真新しそうな情報にも,元ネタ・出典があるのではないかと考える.そしてそれを示す.
  • うまくいく事例の紹介だけでなく,うまくいかない事例,また実際の失敗例や泥臭い話も出す.
  • メソッド化は,人に使ってもらうよりも,コンピュータ上で実行できる(RubyやCで記述できる)ことを目指す.

親野氏の著書から離れ,再び,大学教育,情報教育,算数・数学教育の世界をさまようとします.

*1:「形式不易の原理」ですね.