
- 作者: 筑波大学附属小学校算数研究部
- 出版社/メーカー: 東洋館出版社
- 発売日: 2012/02/21
- メディア: 単行本
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通し読みして,気になったことを並べます.
- 「まとめて数える活動」への言及がない.「かけ算」から「かけ算」が始まっているようなもの.
- 「4×1は4+4になってしまうのではないか」「4×0は累加で計算できない」といった,数学教育協議会の批判を取り上げていない.
- 「トランプ配り」を取り上げていない.
- 「かけ算の順序」という言葉の歴史・経緯を調べていない.
いずれも,算数・数学教育という大きな枠組の中では,取るに足らないこととも言えます.ともあれこれらに関心を持って,本や文献に目を通したり,自分なりに作題したり解いたりしてきました.過去に書いたことを挙げておきます.
- まとめて数える
- 累加への批判
- アレイ図(4. 乗法の性質 (c) 分配法則の入口)
- 0×3と3×0は違う
- トランプ配り
- 「かけ算の順序」
- 聞いた見た書いた(「かけ算の順序」に関する学術研究)
- プラス5分で「乗法の意味理解」
本の中から,3つ.まず提起文の中に「かつて,裁判にまでなったかけ算の順序についての問題は,やはり見過ごすわけにはいかない」(p.3)とあるものの,どんな裁判が行われ,結果はどうなったのか,あとのページを見ても情報が見当たりません.「論争」かな,と思ったものの,論争の対象は「かけ算の意味」であったように見えます.
次に,「かけ算のイメージを育てたい」と題する*1,pp.52-53の記事には,がっかり感でいっぱいです.この論旨でいけば,http://www18.atwiki.jp/kakezan/pages/16.htmlに書かれているアレイ・グリッド(AG)モデルや,トランプ配りの考え方でしか,乗法的構造を認識できない子どもを認めることにつながります.それから,演算決定の根拠に関する子どもの言い方について,良くない例だけでなく,こう言える(アウトプットする)ようになってほしいという例もほしいところ.
補足1:「イメージ」または「モデル」について.AGモデルやトランプ配り,また他のモデル化が子どもたちの頭の中に入っていて,場面・出題に応じて適切なものを一つ選べるようになるのなら,異論は唱えません.ですが,学校教育で解き方・考え方の多様性に配慮できても,モデルやイメージの多様性となると,容易ではないだろうなあとも感じています.そしてますます,効率・効果の面で最も“まし”なものが求められています.共通理解のための手段,とも言えます.先生と子ども,子どもどうし,親子の間で適切にコミュニケーションがとれ,かつ忘れてもあとで思い出せる*2ような教え(学び)とは何だろう,となります.そして,最も“まし”なのは,《算数解説》で「乗法が用いられる場合とその意味」に書かれていることだと,認識しています.記事は「(子どもに持たせたい)イメージ」を重視していると理解していますが,それでもなお,イメージは人それぞれであっても,情報として発する(式であらわすのもその一つです)際に,形を伴うことは,無視するわけにいかないでしょう.
補足2:与えられた問題文から言葉を拾って言うのは,たぶん普通の人.問題文に隠されていること(かけ算の文章題には例えば「一つ分の大きさ×幾つ分」)を認知し,そこから発言を始めるのが,時代を切り拓くことのできる人ではないかと考えます.かく言う私は,普通の人です.
補足3:「トランプ配りの考え方でしか,乗法的構造を認識できない子ども」は,2010年11月28日および26日に書いた「c」に該当します.cより“上”があることは,いずれのエントリでも指摘しています.
最後に,海外のかけ算の指導に関して,p.55下にある,乗法と除法に関する表に目が行きました.「アレー,面積」にも,包含除に近いものと,等分除に近いものがあるのに,驚きを覚えました.
原文に当たります.Home | Common Core State Standards Initiativeの中の「》Mathematics Standards」がリンクになっていて,http://www.corestandards.org/assets/CCSSI_Math%20Standards.pdfなのですが,確かにp.89に表があります.
表注の4,"The language in the array examples shows the easiest form of array problems. A harder form is to use the terms rows and columns: The apples in the grocery window are in 3 rows and 6 columns. How many apples are in there? Both forms are valuable."が重要なのでしょう.訳してみると「(表に書いた)例題は,アレイの問題の中で最も簡単なタイプである.行・列を使えば,難しくなる.“お店の陳列窓に,リンゴが3行6列で並んでいる.リンゴはいくつあるか”.どちらのタイプも有益である」.
"3 rows of apples with 6 apples in each row"(6個ずつ3れつにならんだリンゴ)と書けば,3と6の意味が明確に異なり,6 applesのほうを被乗数,3 rowsのほうを乗数に対応づけられます.しかし"apples are in 3 rows and 6 columns"となると,そこからは,3と6のどちらが被乗数・乗数か,特定することはできない,ということですね.
ごちゃごちゃ書きましたが,この1冊もまた,学習者か,批判者か(今月,去年)を見定める試金石であるように思います.
(最終更新日時:Sat Feb 25 20:24:07 2012ごろ.「補足3」を追加しました.)