わさっきhb

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問題と解答の展開

つぎの 2人の つくった もんだいは,2×6と 6×2の どちらの しきで もとめれば いいでしょう。

2つの ふでばこに えんぴつが 6本ずつ 入って います。
えんぴつは 何本 あるでしょう。
(つばさ)

えんぴつを 1人に 2本ずつ,6人に くばります。
えんぴつは 何本 いるでしょう。
(あおい)

(大日本図書 平成23年度版「たのしい算数 2年下」p.45)

つぎの 2つの もんだいの,しきと 答えを 考えましょう。

(1) えんぴつを 1人に 2本ずつ,5人に くばります。
えんぴつは,ぜんぶで 何本 いりますか。

(2) えんぴつを 2人に 5本ずつ くばります。
えんぴつは,ぜんぶで 何本 いりますか。

(東京書籍 平成23年度版「新しい算数 2年下」p.21)

大日本図書のほうは,本から学んだ「かけ算の順序」ツアーで引用しています.東京書籍のほうの引用は,今回が初めてです.参照方法は,ツアーで「(東京書籍 平成23年度版「新しい算数 2年下」p.16)」として引用した分の直後に書いています.
文章題を「2つ」で終わるのではなく,立てる式を含めて「8つ」に展開してみます.大日本図書の,つばさの問題から,次のように8つの文を作ることができます.

  • 《小被順》「鉛筆が2本ずつ,6つの筆箱に入っています.鉛筆は全部で何本あるでしょう」に対して,「2×6」と書く.
  • 《小被逆》「鉛筆が2本ずつ,6つの筆箱に入っています.鉛筆は全部で何本あるでしょう」に対して,「6×2」と書く.
  • 《小乗順》「2つの筆箱に鉛筆が6本ずつ入っています.鉛筆は全部で何本あるでしょう」に対して,「2×6」と書く.
  • 《小乗逆》「2つの筆箱に鉛筆が6本ずつ入っています.鉛筆は全部で何本あるでしょう」に対して,「6×2」と書く.
  • 《大被順》「鉛筆が6本ずつ,2つの筆箱に入っています.鉛筆は全部で何本あるでしょう」に対して,「6×2」と書く.
  • 《大被逆》「鉛筆が6本ずつ,2つの筆箱に入っています.鉛筆は全部で何本あるでしょう」に対して,「2×6」と書く.
  • 《大乗順》「6つの筆箱に鉛筆が2本ずつ入っています.鉛筆は全部で何本あるでしょう」に対して,「6×2」と書く.
  • 《大乗逆》「6つの筆箱に鉛筆が2本ずつ入っています.鉛筆は全部で何本あるでしょう」に対して,「2×6」と書く.

東京書籍の2つの問題から,同様に8つの文を作ります.

  • 《小被順》「鉛筆を1人に2本ずつ,5人に配ります.鉛筆は全部で何本いりますか」に対して,「2×5」と書く.
  • 《小被逆》「鉛筆を1人に2本ずつ,5人に配ります.鉛筆は全部で何本いりますか」に対して,「5×2」と書く.
  • 《小乗順》「鉛筆を2人に5本ずつ配ります.鉛筆は全部で何本いりますか」に対して,「2×5」と書く.
  • 《小乗逆》「鉛筆を2人に5本ずつ配ります.鉛筆は全部で何本いりますか」に対して,「5×2」と書く.
  • 《大被順》「鉛筆を1人に5本ずつ,2人に配ります.鉛筆は全部で何本いりますか」に対して,「5×2」と書く.
  • 《大被逆》「鉛筆を1人に5本ずつ,2人に配ります.鉛筆は全部で何本いりますか」に対して,「5×2」と書く.
  • 《大乗順》「鉛筆を5人に2本ずつ配ります.鉛筆は全部で何本いりますか」に対して,「5×2」と書く.
  • 《大乗逆》「鉛筆を5人に2本ずつ配ります.鉛筆は全部で何本いりますか」に対して,「2×5」と書く.

8つの文は,文章題が一つ(「もとの文章題」と呼びます)あれば,機械的に作ることができます.ただし前提条件があります.

  • 式は「a×b」で表すことが期待される文章題とします.
  • そして「a」「b」に相当する数が,文章題の中に出現するものとします.なお,「1人に」のような,「一つ分の大きさ」を特定するための修飾語は無視します(「数」とみなさないことにします).
  • a≠bとします.ここでの文章題は,「かけられる数とかける数を認識して,かけ算の式で表す」ことを通じた,乗法の意味理解を意図しており,a=bとなる文章題ではそのことが確認できないためです.

8つの生成ルールは,次のとおりです.

  • それぞれの文の基本構成は“《ABC》「文章題」に対して,「式」と書く.”です.A,B,Cはそれぞれ漢字,「文章題」は,もとの文章題とA,Bによって決まる文章題*1,「式」は作られた文章題とCによって決まるかけ算の式です.
    • 最初の漢字Aが「小」のとき,2つの数のうち,小さいほうが先に出現するよう,文章題を設定します.
    • 最初の漢字Aが「大」のとき,2つの数のうち,大きいほうが先に出現するよう,文章題を設定します.
    • 2番目の漢字Bが「被」のとき,2つの数のうち,かけられる数(被乗数,一つ分の大きさ)になるほうが先に出現するよう,文章題を設定します.
    • 2番目の漢字Bが「乗」のとき,2つの数のうち,かける数(乗数,いくつ分)になるほうが先に出現するよう,文章題を設定します.
    • 最後の漢字Cが「順」のとき,作られた文章題において,先に出現する数がかけられる数(「×」の左),後に出現する数がかける数(「×」の右)になるよう,式を書きます.
    • 最後の漢字Cが「逆」のとき,作られた文章題において,後に出現する数がかけられる数(「×」の左),先に出現する数がかける数(「×」の右)になるよう,式を書きます.

以下では,漢字3文字のうちの1文字や2文字も《 》で囲むことがあります.この表記法を使って,次のことが言えます.

  • 学校教育では,8つのうち,《被順》と《乗逆》になる4つだけを,正解としています.そしてこのことが,「かけ算の順序にこだわった指導」として,ネットを中心として批判の対象となっています.
  • “交換法則”や“トランプ配り”,“(囲い込みなしの)アレイ”を根拠とすると,8つすべてが正解となります.

さらに,これまでの出題のされ方をもとにすると,次のことも言えます.

  • 8つのうち,《小被》と《大乗》,《大被》と《小乗》がそれぞれ同じ場面を表します*2
  • 教科書では,《小被》と《小乗》を対比する*3問題を通じて,それぞれ式を書き分けることを意図しています.
  • 文章題をもとに,かけ算の式を書く授業やドリルでは,《乗》からではなく《被》から始まります.《乗》は,途中で意図的に出題されます.

個別の事例を,見ておきます.

  • 伊藤 剛 @GoITO 氏の「かけ算の順序にこだわる教え方は犯罪的」 - Togetterのコメント,先頭から3番目にある,「3グラムのおもりが5こ」は《小被》,「5この、3グラムのおもり」は《大乗》です.同じ場面です.学校教育では,両方を同時に見せるにせよ,これらの一方だけを出すにせよ,「一つ分の大きさになるのは,(3と5の)どっちかな?」を問うことで,期待される式にたどり着けます.
  • 6×4論争で書いた,「6個ずつ4人で,ぜんぶでいくつだ?」に「ろくし,にじゅうし」と答えるのは,《大被順》です.後半の「6人いてて4個ずつで,ぜんぶでいくつだ?」に「ろくし,にじゅうし」と答えるのは,《大逆順》です.状況が違っているわけです.

まとめるなら:「かけ算の式の順序にこだわった指導」「順序教」などといった批判は,問題文と式(予想される児童の反応,解答類型),考え方について,多面的な検討に到っていないように思われます.


ちょっと補足を.

  • 《ABC》によるラベルは全部で何種類あるか,というと,2×2×2=8なので「8つ」でいいと思います.直積であり,これは〈乗数と被乗数を区別しない文脈〉です.ここに,「2×4か,4×2か」を詳細に検討しても,あまりよい成果は得られないでしょう.
  • 大日本図書の文章題から《被》の文を作った際には,「1つの筆箱に鉛筆が2本ずつ」ではなく「鉛筆が2本ずつ」と書きました.それに対し,東京書籍のをもとにした《被》では,「1人に」を入れています.個人的にはこの種の,「一つ分の大きさ」を特定するための修飾語*4は,あってもなくても大差ないように感じていますが,有無による意味の違いは,いくつか思いつきます.
    • 「1つの筆箱に」「1人に」を入れることで,「一つ分の大きさ」をより明確にできます.《被順》が選ばれやすくなり,《被》の正答率が上がります.《乗》では省くことができます*5ので,《乗逆》が選ばれにくくなり,《乗》のタイプの正答率低下につながります.
    • 「1つの筆箱に」「1人に」を入れれば,文章題に出現する(子どもたちが目にする)数は3つになります.そこから2つの数を選んで,かけ算の式にすることになり,正答率が下がる*6可能性も一応はあります.
    • 「1つの筆箱に」「1人に」を入れないと,図にするとき,場面で現れるすべての筆箱,配る対象となる人を先にかき,「一つ分の大きさ」への意識がやや弱くなります.
  • 「かけ算」の論争は,乗法の意味づけ(累加か,加法と別の演算か)にせよ,いわゆる順序論争にせよ,一方を高く評価して他方をおとしめるのではなく,それぞれの候補についてメリット・デメリットを十分に明らかにした上で,論者ごとに自分はどれを選ぶ(どれにコミットする)と表明することを,提案したいと思います.私に関する表明は,ツアー学んだことで書いてあるとおりです.


翌日追記.

  • 補足のところにいくつか書き加えました.大意に変更はありません.
  • 「2つの ふでばこに えんぴつが 6本ずつ 入って います。えんぴつは 何本 あるでしょう。」から始まる8マス関係表を追加し,eightcell.pptxをアップデートしました.
  • 画像も作りました.


(最終更新日時:Thu May 24 06:35:28 2012ごろ)

*1:本文にうまく入れられなかったので,ここに書きますが,8マス関係表と密接な関係があります.

*2:より正確には,文章題がそうなるように,もとの文章題から作る必要がある,と言うべきでしょう.

*3:《大被》と《大乗》の対比というのも可能で,教科書の実例は見ていませんが,指導例は『小学校新卒教師に贈る算数科授業の基本技88』で確認しています.

*4:「全部で」も.

*5:「鉛筆を2人に,1人に5本ずつ配ります」と書くこともできますが,くどくなります.

*6:正答率を下げたいというニーズは,診断的評価と外在的評価に基づくテストで見られます.