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被乗数先唱 俺流まとめ

  • 名称の分類
    • 被乗数先唱:「さんしじゅうに」と言うとき,「さん」「し」「じゅうに」がそれぞれ被乗数・乗数・積になるという方式です.「さんしじゅうに」と「しさんじゅうに」が区別されます.
    • 乗数先唱:「さんしじゅうに」と言うとき,「さん」「し」「じゅうに」がそれぞれ乗数・被乗数・積になるという方式です.「さんしじゅうに」と「しさんじゅうに」が区別されます.
    • 被乗数先書:「3×4=12」と書いたとき,「3」「4」「12」がそれぞれ被乗数・乗数・積になるという方式です.「3×4=12」と「4×3=12」が区別されます.
    • 乗数先書:「3×4=12」と書いたとき,「3」「4」「12」がそれぞれ乗数・被乗数・積になるという方式です.「3×4=12」と「4×3=12」が区別されます.
    • 半九九:「さんしじゅうに」を,「3×4=12」および「4×3=12」の両方を表すものとする方式です.制限九九とも言います.このとき,最初に言う数は,次に言う数よりも大きくなりません.たとえば,「さざんがく」は含まれますが,「しさんじゅうに」はなく,代わりに「さんしじゅうに」と言います.
    • 総九九:最初に言う数と次に言う数の間で,大小関係の制約がない九九のことです.総九九では81個の式を暗唱することになります(半九九では45個だけです).
  • どこで採用されているか
    • 日本では,黒表紙教科書のある時点までが制限九九,第三期改訂版(1925年)は乗数先唱,緑表紙教科書(1935年)以降は被乗数先唱と思われます.乗数先唱になってからは,被乗数先書の総九九です.
    • 中国の現在の教科書でも,半九九,乗数先唱,被乗数先唱の3種類が見られます.
    • 英語では,「3×4=12」を"3 times 4 equals 12"(3倍の4は12と等しい)と読みますので,乗数先書であり,乗数先唱です.なお,"3 multiplied by 4 equals 12"(3に4をかけたものは12と等しい)と解釈すれば,被乗数先書・被乗数先唱となります.
  • 参照したもの

「緑表紙教科書」編纂に見る,被乗数先唱のメリット

(ア)乗法九九の段の意味
乗法九九は,通常これを二の段,三の段,…,九の段に分ける。そして,たとえば五の段の九九は,
5×1=5  5×2=10  5×3=15
5×4=20  5×5=25  5×6=30
5×7=35  5×8=40  5×9=45
に対する九九としてまとめたものである。他の場合も同様である。
かように,被乗数5であるものを五の段の九九としたのは,次の理由による。
a. 掛算九九とは最初は同数累加の簡便法であるとの考え方を基本とする。
b. 乗数九九を具体的なものから指導するときに,各段それぞれ,ただ一種のものを準備すればよい。
c. 累加で結果を求めるときに,一定の数を順次1個ずつ附加して,つぎつぎに進むことができて,指導が容易で,かつ進行が速かである。たとえば,5の段の構成では,
5×2=10  5+5=10
5×3=15  10+5=15
5×4=20  15+5=20
5×5=25  20+5=25
5×6=30  25+5=30
5×7=35  30+5=35
5×8=40  35+5=40
5×9=45  40+5=45
8回のたし算で構成できる。他の九九についても同様である。
ところが,黒表紙教科書採用の乗数先唱の九九の構成では,
2×5=10  2+2+2+2+2=10
3×5=15  3+3+3+3+3=15
4×5=20  4+4+4+4+4=20
5×5=25  5+5+5+5+5=25
6×5=30  6+6+6+6+6=30
7×5=35  7+7+7+7+7=35
8×5=40  8+8+8+8+8=40
9×5=45  9+9+9+9+9=45
となり,たし算の回数も32回を必要とする。九の段の九九になると,たし算の回数は64回にもなる。
d. 被乗数一定の九九によると,中途で九九を忘れた時も,その前後何れかを知っていれば,すぐ構成することができる。
(『「小学算術」の研究』pp.245-246)

上記は,被乗数先書を前提として,乗数先唱よりも被乗数先唱のほうが合理的であることを,理由を挙げて説明しています.この中のcに関連して,スペイン語と日本式とで,乗数先書と被乗数先書の比較をしているものがあります.


(磯田正美「我々は,何を,なぜ,いかに教えるか」,『算数授業研究 VOL.80』p.11)

この図の「スペイン語における工夫」を,五の段に適用すると,次のようになります.
5×2=10  2+2+2+2+2=10
5×3=15  3+3+3+3+3=15
5×4=20  4+4+4+4+4=20
5×5=25  5+5+5+5+5=25
5×6=30  6+6+6+6+6=30
5×7=35  7+7+7+7+7=35
5×8=40  8+8+8+8+8=40
5×9=45  9+9+9+9+9=45
上の「乗数先唱の九九の構成」と,被乗数・乗数の配置が異なります.ですがたし算の式は同じですので,そこでのたし算の回数は,乗数先唱と同じ32となり,九の段だと64回になります.
ドミニカ共和国での同様の事例が,一教師の呟き Multiplicacionに記されています.

ちょっとだけQ&A

  • Q: 海外では,かけられる数とかける数が日本と反対になります.日本の算数も,「かける数×かけられる数」になっていくのでは?
    • A: 「たされる数+たす数=和」「ひかれる数−ひく数=差」「かけられる数×かける数=積」「わられる数÷わる数=商」として四則演算を見ると,基準量となるものを,演算記号の左に書くことにすれば統一がとれ,合理的です.なので,「かけられる数×かける数」を支持します.算数を離れると,「年月日」の表記が日本と海外とで違うこと,そして,国際規格(ISO8601)やインターネットの技術仕様(RFC3339)では,日本式の「年,月,日」に基づいていること(日付の順番がややこしい件 - エキサイトニュース(1/3))については,いかがお考えでしょうか?
  • Q: 3×4も4×3も,答えは12なんだから,どっちだっていいじゃんじゃないの?
    • A: 交換法則を学習する際には,3×4も4×3も,「答えは同じ」(または「積は同じ」)と理解します.このとき,3×4と4×3とで,その式が意味するものが同じであるとは限らない,と考えるべきでしょうし,実際,それらの区別を意図した出題が,直近の教科書に見られます.教科書以外からだと,「3組のカップルが映画館へ行ったとき「ペアシートが3席」と「3人用シートが2席ある」のでは違いますね」(『オトナのための算数・数学やりなおしドリル』p.14)が最も明快です.
  • Q: 累加では,かけ算がいろいろな意味で使われるのに対応できないのでは?
    • A: 乗法意味指導のキーワードは,「累加」と「拡張」です.乗法の意味の拡張については,上に記した中島健三の文献で解説されています.かけ算がどのような場面で使われるかについては,Greerによる分類がもっとも詳しいと思います.この人物名で文献を探して,ご確認ください.

(最終更新日時:Wed Jul 4 06:41:14 2012ごろ.いくつか積を修正しました)

*1:「I recently saw a facsimile of a 19th-century text that defined the multiplier as the SMALLER of the two numbers, regardless of the order.」という,なかなか興味深い記述も見られます.

*2:「統一的」「合理的」と,算数教育に携わった人が記している文献を一つずつ持っていますが,本エントリでは差し控えることにします.ここでは,この考え方は私の独自見解ではないとご理解いただけると幸いです.