わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

「7+5=12は△,正解は5+7=12」の件

「ケーキが あります。その うち 7こ 食べたので,のこりは 5こに なりました。はじめは 何こ ありましたか。」という文章題です.挿絵とテープ図もあります.テープ図には「のこりの 数 □こ」「食べた 数 □こ」とあり,2つの□にはおそらく子どもの字で,「5」「7」と書いています.
しきは「7+5=12」,答えは「12こ」と,黒鉛筆で書かれています.答えには赤ペンで,マルがついています.式にはいったん,マルがついたものの,訂正の2本線と,「△ -5」が入っています.式を書く欄の右に,これも子どもが,赤鉛筆で「5+7=12」と書き,赤ペンによるマルがあります.
はてブのコメントでは,この採点に批判的な意見がずいぶんと多いです.
私がコメントをつけてはてブすると,はてなスターを多くいただき(「かけ算の順序」論争で見かけたIDの方々からも),少々戸惑っています.

出題と採点について

この問題は,算数教育においては「逆思考」の問題と呼ばれます.「のこりは」とあるけれども,ひき算ではなく,たし算の式を書いて求めるのですよ,というものです.
小学校学習指導要領解説 算数編(《算数解説》)では,以下のとおり,これに関連する例題が記載されています.

  • 「はじめにリンゴが幾つかあって,その中から5個食べたら7個残った。はじめに幾つあったか」(p.96,第2学年)
  • 「はじめにリンゴが幾つかあって,5個もらったら12個になった。はじめに幾つあったか」(p.97,第2学年)
  • 「ひもを4等分した一つ分を測ったら9cmあった。はじめのひもの長さは何cmか。」(p.107,第3学年)

期待される式はそれぞれ,7+5=12,12−5=7,9×4=36です.2番目に現れる数が,式では最初(被加数,被減数,被乗数)に来る,という規則があるわけではなく,文章題で書けばそういう流れになるのが自然なのでしょう.
(某日追記:わり算についても,「黄色のリボンの長さは72mで,白いリボンの長さの4倍です。白いリボンの長さは何mでしょう。」(p.138,第4学年)があるのに気づきました.ただし式は72÷4=18と,先に現れる数が被除数になります.)
算数教育指導用語辞典』では,p.200の脚注に,「ひき算の逆のたし算」と題して,数直線と解説が載っています.

さて,ケーキの問題について,テープ図をもとに,たし算で求めるのを確認したとして,その式は,どうあるべきでしょうか.
「5+7のみが正解」とする考え方と,「7+5でも5+7でもよい」とする考え方があります.
「5+7のみが正解」の根拠は,これがたし算の中でも“増加”に基づくという点です.増加については,基準量(たされる数,被加数)と増加量(たす数,加数)の区別ができます.ケーキの問題に当てはめると,「のこりの数」が基準量で,そこに「食べた数」を足し合わせることで,「はじめの数」が出ます.「基準量+増加量=総量」という,たし算の関係式は,「基準量'−減少量=減少後の量」という,ひき算の関係式と呼応します.
その一方で,「7+5でも5+7でもよい」についても,根拠を挙げて説明することができます.まず,加法は,被加数と加数が区別されない“合併”から指導を始めるのが一般的である,というのを指摘できます.これは,増加も合併で説明できることを示唆します.
それから,先に示した『算数教育指導用語辞典』でも,次のp.201では「ざりがにを12ひきあげました。まだ23びきのこっています。はじめに何びきいたのでしょう」という出題に対して,「12+23としなければならない」を結論としています.
昨日見かけた第2学年2組 算数科学習指導案では,「減法逆の加法(x−b=a、x=b+c)」*1と記されています.本時に入る前,実態調査の中に,未学習ながらも逆思考(減法逆の加法)の問題があり,文章題と3つの式を提示して,場面に合った式を選ばせているのですが,「18+14」があるものの「14+18」は見られません.これは,児童の混乱を避けるための配慮と考えられます.
以上から,式の整合性を重視するのなら,「7+5のみが正解」となり,合併という加法の考え方*2をベースとするなら,「7+5でも5+7でもよい」と言ってよさそうです.
かけ算の話との違いについて,簡単に確認しておきます.2〜3年あたりの文章題で,5×7が正解とするときに,7×5が正解にならないのは,加法の合併に対応する,「被乗数と乗数が区別されない」文脈というのを,学習していない点が大きいように思います.アレイ図から数える問題もありますが,それは文章題にはしにくく,またアレイ図からかけ算の式を作らせる場合にも,「一つ分の大きさ」の発見・表現が重視されています(関連:(『新版 小学校算数 板書で見る全単元・全時間の授業のすべて 2年下』p.21,p.23)).トランプ配りの乗法への適用については,1971年の遠山啓による解説記事と,近年のネット上での賑わいは承知していますが,算数・数学教育においてまともに相手にされていません.

先生は今年採用された人?

tsatie 何だかとっても嫌な気分。 #掛算の順序 と同根?しかもプリントがまた、帯に記された項目の順序の必然性が皆目分からない。もしかして体育会系系のノリ?ルールを決めたら従えっていう。因みにうちの娘のプリント。先生は今年採用された人らしい。

ついっぷる

「今年採用された人」だとしたら…スーパーバイザー的な先生*3が,ついていないでしょうか?
担任の先生は,「7+5でも5+7でも,どっちでもいい」と判断して,マルにしたけれど,スーパーバイザー的な先生(あるいは,算数を専門とする他の先生)から,「マルにしちゃいけないよ」と指導を受け,△になった,という可能性です.
どうしても納得がいかないなら,学校の先生に尋ねるのも一つの手ですが,「逆思考(その中でも,減法逆の加法)を通じて,こういった場合でもたし算だと判断(演算決定)できるようになってほしい」「加法には合併と増加がある」という,“数学教育の知見”と,お子さん・学級・教える側がそれぞれ今後,どうあってほしいかという“要望”をご確認の上で,相談することを,おすすめしたいと思います.
もし,ここまでの内容をご覧になって,「難しいことは分からないが,おかしい」というのであれば…次のブログ記事だけでもご覧ください.

その上で,あなたの直感や信念に合わないというのなら,残念ですが仕方ありません.ご面倒をおかけしました.

*1:原文ママ.式として書きたかったのは,「x−b=a、x=b+a」と思われます.なお,増加に基づくなら,「x−b=a、x=a+b」と書くことになります.

*2:当然,加法の交換法則が暗黙のうちに含まれます.

*3:初任者研修にある「拠点校指導教員」「校内指導教員」です.