わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

「×」から学んだこと・2012年秋冬モデル

Q: はじめに,概要を.
A: はい.本エントリは,これまで当ブログで書いてきた内容を見直し,一問一答の形で整理したものです.
思うところあってリンクは外部へ2か所だけ,出典も,ごくわずかに書名を挙げるのみとしています.気になる言葉は,ブログ内検索で確認いただけると幸いです.
もう一つ,本日の特徴を申し上げますと,いわゆるかけ算の順序論争において,「正しいか,間違いか」ではなく,答えや考え方が「受け入れられているか,いないか」という観点で,取りまとめるよう心がけました.
5×3カテゴリーへは,今後も書いてまいりますので,他のエントリと合わせまして,ご愛顧のほどよろしくお願い申し上げます.

出題

Q: 何が起こっているのか,説明してもらえますか?
A: はい,次の画像をご覧ください.

「さらが 5まい あります。1さらに りんごが 3こずつ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。」という文章題(《りんごの問題》と呼びます)と,「しき」と「こたえ」を書く欄があって,子どもは「しき」に「5×3=15」,「こたえ」に「15こ」と書いたところ,「こたえ」はマル(正解)だけれど,「しき」のほうがバツ(不正解)で,そばに「3×5=15」と赤で書かれました.
この正誤判定から知ることのできる,学校でのかけ算の指導が,議論の対象となっています.
Q: その指導には,賛成ですか,反対ですか?
A: はい,賛成です.かけ算の意味を確かめるための,算数教育ではよく知られたタイプの出題です.
Q: なぜそんな問題が出回っているのでしょうか?
A: 問題文から「一つ分の大きさ」と「いくつ分」を読み取って,かけ算の式にしましょうという意図です.
昭和20年代から現在まで,この種の出題を見ることができます.ある本では,「基準量が後に示された適用問題」と記しています.
Q: トランプ配りを使えば,「一つ分の大きさ」を5,「いくつ分」を3とすることができますけど?
A: 残念ながら,トランプ配りの乗法への適用は,学校では認められていないようです.「配る」のではなく,配られた後の状態をもとに,「一つ分の大きさ」と「いくつ分」を見つけています
Q: 交換法則から,「3×5=15」は「5×3=15」と書けませんか?
A: 書ける・書けないで言うと,その2つの等式,さらに「3×5=5×3」は,小学校でも認められています.しかしそこでいう交換法則は,3×5あるいは5×3という式から出発して,得ることのできる関係式です.なお,アレイ図を使った交換法則については,あとで取り上げます.
《りんごの問題》では,かけ算の式がない状態から,式を立てることが期待されているので,適用できません.
Q: 英語では逆順になりませんか?
A: ええ,算数教育に携わっている先生方には,それは周知のことです.その上で,日本式を採用しています.
「たされる数+たす数=和」「ひかれる数−ひく数=差」「かけられる数×かける数=積」「わられる数÷わる数=商」として四則演算を見ると,基準量となるものを,演算記号の左に書くことにすれば,統一がとれ,合理的です.
Q: 長方形に並べて考えれば,どちらでもいいのでは?
A: 批判としてよく見かけますが,直積によるアプローチであり,日本の算数では採用されていません.
もし児童が,《りんごの問題》に対しそのような図を描いたら,「それだと『3こ』『5まい』が分からないよ」と,先生または他の児童が指摘することになりそうです.
直積や,2つの因数によるかけ算の意味づけについては,フランスと中国で問題点が指摘されています.
日本の算数,とりわけ低学年(1年から)では,「まとめて数える」活動が入っています.そこで一つ分の大きさを意識し,たし算やかけ算の式で表すという流れになっています.
Q: 「3+3+3+3+3=15」は,間違いですか?
A: マルかバツかでいうと,マルになると思いますが,先生は「かけ算の意味を理解していない」と判断することになります.

用語

Q: 「積」と「答え」は,同じものですか?
A: ケースバイケースです.「3×5」というかけ算の式で考えるときは,15は積ですし,答えとも言います.ですが《りんごの問題》のように文章題だと,正解となる答えは「15こ」になり,「積は15個」とは言いません.
後ろの回答にも出てきますが,「倍(multiple)」と相対する概念として「積(product)」という言葉を使うこともあります.
「被乗数」は「かけられる数」,「乗数」は「かける数」,「乗法」は「かけ算」とそれぞれ同じです.

Q: 「かけられる数とかける数」ですか? 「かける数とかけられる数」ですか?
A: これまで読んできた記憶で言うと,「かけられる数とかける数」も「かける数とかけられる数」も「被乗数と乗数」も「乗数と被乗数」も見られ,どれが極端に多い/少ないというのは,ありませんでした.
私自身は,記事ごとに一貫するようにし,引用時には原文を尊重するよう努めています.

Q: 「1あたり」って何ですか?
A: かけ算・わり算の学習に関して,数学教育協議会(数教協)が提唱・活用している用語です.
分離量だと「1あたりの数」,連続量だと「1あたり量」と呼ばれ,かけられる数になるのが通例です.かける数に来るほうは,「いくつ分」または「いくら分」などと書かれます.「内包量×外延量」と書かれることもあります.
《りんごの問題》だと,1あたりの数は「1さらに りんごが 3こずつ」のところで,これを「3こ/さら」と書くことができます.「こ/さら」は,速度のkm/hと同様に,一つの単位となります.当ブログでは過去に「パー書き」と書いていました.

Q: 「分離量」「連続量」って何? これも数学教育協議会さんの言葉?
A: いえ,確かに数教協の出版物でよく見かけまして,学習指導要領やその解説には出てきませんが,数教協由来ではなさそうです.
分離量の典型的な例には「3個」「5枚」,連続量だと「3cm」「5kg」などがあります.
数が小数・分数にならないもの*1を分離量,小数・分数になってもいいものを連続量,と認識するのでもOKです.

Q: 「こ/さら」が,速度のkm/hと同じ?
A: 遠山が提唱した助数詞廃止論を踏まえての質問でしょうか.その場合,「3人」と書いたときの人は助数詞ですが,単位量当たりの大きさで学ぶ,「1m^2あたり3人」や「1人あたり3m^2」といった量を,どのように式の中で表せばいいのでしょうか.「人/m^2」「m^2/人」よりも良い,単位の表記や量の扱いは,ありますでしょうか.
小学校の算数で出てくる単位は,大人から見れば物理単位と助数詞に分けることができるとしても,ことさら区別をしないほうが良いように思います.
付記しておくと,「単位量当たりの大きさ」は学習指導要領で,また「単位量」「一人当たりの面積」などは同解説で,書かれています.5年で学習します.パー書きの量は数教協由来で,2年のかけ算で指導するものとなっています.

Q: 「一つ分の大きさ」「いくつ分」という言葉を,みんな使っているのですか?
A: いえ,当ブログでのスタンスのようなものです.この言葉は,学習指導要領解説にある「乗法は,一つ分の大きさが決まっているときに,その幾つ分かに当たる大きさを求める場合に用いられる。」に由来します.
パー書きでなければ,「一つ分の大きさ×いくつ分」は「1あたりの数×いくつ分」と同じとみなして差し支えありません.

Q: 「かけ算の順序」という考え方は,小学校で普及しているのでしょうか?
A: 調査すると面白いのですが,そんな調査,見たことありませんね.
小学校のかけ算で「順序」というと,結合法則((2×3)×4=2×(3×4))や乗除先行(3+2×3≠(3+2)×3)と関連する「計算の順序」という意味のほか,九九をどの段から学習するかといった話でもよく「順序」が使われています.

文章題を対象とした「かけ算の順序」の論争は,それらの指導を排除または軽視しているという点でも,まずいなあと思っています.

Q: かけ算の「順序」ですか? 「順番」ですか?
A: Web上の情報で,「順番」から「順序」へ変更していった事例が見られます.ともあれ現在も,語句には揺らぎがあるように思います.
かつてRuby正規表現として,

/((かけ算)|(掛け?算)|(乗法))(の(式の)?)?順[序番]/

と書いたことがあります.

かけ算の意味・式の意味

Q: 「式の意味」と「かけ算の意味」は違うのですか?
A: ええ,違います.
「式の意味」は,例えば「5×3」という式が,それを見た人(先生や他の児童など)にどのように伝わるか,に関する話です.
一方,「かけ算の意味」という言葉は,かけ算(乗法)という演算の意味を指すほか,「演算決定」というキーワードと関連して,かけ算がどのような場面で利用でき,どんな式で表されるかを指導する際にも出てきます.
Q: かけ算で「サンドイッチ」というのを聞いたことがあるのですが,これって何ですか?
A: はい,《りんごの問題》で正解とされる式「3×5=15」に対し,それぞれの数に単位を付けると,「3こ×5まい=15こ」となります.

「被乗数に乗数が作用して,答えとなる数量を得る」という立場で見るとき,「5まい」が「5倍」と解釈され,「3この5倍は15こ」となります.そして,かけられる数と答え(積)の単位は同じです.

これを,式の確かめに活用しているのが,サンドイッチの考え方です.
Q: どうして,サンドイッチなんていう珍妙な指導方法ができたのでしょうか?
A: サンドイッチは,倍概念における,被乗数・乗数・積の関係が根拠となっています.この関係については,海外文献からも知ることができます.
「珍妙」というのは,質問する人が「倍」の乗法になじめないからではないでしょうか.
Q: 「倍」の乗法って何?
A: 乗法の分類の一つです.ここで「倍」に相対するものは,「積」となります.
「倍」と「積」のほか,multipleとproduct,〈乗数と被乗数が区別される文脈〉と〈乗数と被乗数を区別しない文脈〉,“非対称問題”と“対称問題”,といった名称もあります.
「倍」のところをさらに分けて,3種類で意味づけるのも,国内外の書籍で見かけます.
Q: 「倍」のほうが「積」に勝るってこと?
A: 勝ち負けというよりは,日本では戦前から現在まで,「倍」に基づいた指導がなされています.
「積」に基づく意味づけが素晴らしいとお考えなら,学校の先生と連携して,教材を開発するのはいかがでしょうか.
Q: 倍の乗法って,大事なの?
A: はい,倍概念は,「累加」(「同数累加」とも)と密接な関係があります.累加の考え方は,学習指導要領解説にも書かれています.

実用面では,かけられる数が小数や分数でも,かける数が整数なら,累加で計算できる点がメリットになります.

面積を学習しない低学年の間は,かけ算にする対象は「何のいくつ分」になる(もしくはそこに帰着される)ことも,大きいと思います.
Q: 学校の教え方はそれでいいけど,子どもが「積」の考えだったら,「倍」に矯正するの?
A: 「倍」や「積」の考えというよりは,3×5と5×3は意味が違う,という形で学習することになると思います.
Q: 3×5と5×3って,意味が違うの? 計算したら,15になるんじゃないの!?
A: ええ,多くの事例を見る限り,意味は違います.「5×3」という式を見たときに,先生や(かけ算をきちんと学習した)子どもたちがどう認識するかというのは,「3×5」とは異なるのです.
計算したら15になるのは,「3×5と5×3は,答えは同じ」という言い方になります.「答え」は,「積」*2に置き換えることもできます.学習指導要領解説では,「乗数と被乗数を交換しても積は同じになる」とあります.
「乗数と被乗数を交換しても同じになる」もしくは「乗数と被乗数を交換しても意味は同じになる」としている出版物があれば,ご紹介ください.「3×5と5×3は同じ」とする,算数教育の書籍は,ごくわずかです*3
Q: 3×5と5×3の違いを,どんな風に教えるのですか?
A: 東京書籍の教科書では,「えんぴつを 1人に 2本ずつ,5人に くばります」と「えんぴつを 2人に 5本ずつ くばります」を横並びにして,それぞれ,鉛筆の総数を求める式と答えを考えさせています.
大日本図書の教科書だと,「2つの ふでばこに えんぴつが 6本ずつ 入って います」と「えんぴつを 1人に 2本ずつ,6人に くばります」で,こちらでは2×6,6×2という式も合わせて提示してあり,場面と式との対応づけを出題しています.
これらは,教科書の実物を見なくても,各Webサイトで読めるダイジェスト版の中に入っています.
Q: 乗数と被乗数を交換したら,どうなるの?
A: 「3×5」という式からスタートするなら,5が乗数,3が被乗数です.それらを交換すると,「5×3」という式になります(この式では,3が乗数,5が被乗数です).
3×5=15ですし,5×3=15ですよね.「積」という言葉を使うなら,「3と5の積は15,5と3の積も15」です.
といったわけで,3×5に関しては,「乗数と被乗数を交換しても積は同じになる」のです.
他の数についても同様に確かめることができ,結局,小学校の算数で扱う範囲の数では,「乗数と被乗数を交換しても積は同じになる」に至るのです.
Q: アレイ図を使って,交換法則を理解しているのでは?
A: その場合は,3行5列のアレイ図を出発点とします.
“「一つ分の大きさ」を3,「いくつ分」を5とする囲い込み方”により3×5=15,“「一つ分の大きさ」を5,「いくつ分」を3とする囲い込み方”により5×3=15を得て,3×5=5×3そして「乗数と被乗数を交換しても積は同じ」を導く,というのが代表的なアプローチです.
《りんごの問題》は,(囲い込みなしの)アレイ図を出発点としていないので,別の話となります.
Q: 交換法則を言葉の式に適用したら,「いくつ分×一つ分の大きさ」もかけ算の式として,認められるのでは?
A: 学校教育はその考え方を採用していません.
理由としては,かけられる数とかける数の区別が曖昧になり,かけ算の結果得られる数量(単位も)が何になるのかの説明がしにくくなるためと推測できます.
ところでその考え方は,一つの式(例えば「5×3」)で表せる対象を ,広くとることを意味します.「一つ分の大きさ×いくつ分」のみだと,一つの式で表せる対象が,より狭くなりますので,被乗数・乗数を交換した式との書き分けが行えます.
それぞれにメリット・デメリットがあるわけで,そのもとで採否あるいは取捨選択が行われ,教室内で運用されていることも,認識をしておきたいところです.
Q: 長方形の面積は,縦×横でも横×縦でもいい?
A: いいと思います.〈乗数と被乗数を区別しない文脈〉だからです.
《りんごの問題》をはじめ,論争の対象となっている文章題は,〈乗数と被乗数が区別される文脈〉なので,別物です.
Q: 小学校の算数で,面積はどのように教えているの?
A: 縦と横の長さが単位長の整数倍となるような長方形をもとに,単位正方形がいくつあるかを数えることで,長方形の面積の公式を導きます.平行四辺形や三角形の面積は,等積変形を用いています.
Q: 「5まい×3こ/まい=15こ」のように,式に単位を書かせたらいいのでは?

A: 「式は世界共通」という考え方((個人的には,除算の記号にはバリエーションがあるので,諸手をあげて賛成というわけでもないのですが.))との,勝負になるでしょうね.現状として,小学校の算数では,その種の式は採用されていません.

算数・数学(という科目)で,式に単位を付けないのは,結局のところ「決まり」です*4.式に単位を組み込むのは,組立単位や次元解析と合わせて,高校の物理・化学あたりで理解し活用するのがいいように思います.
Q: 「1あたり量×いくつ分」ではいけないの?
A: 中島健三が1968年に記した解説,および『数学教育学研究ハンドブック』によると,「意味の拡張」の教育的な価値を理由に,「同数累加」から「基準量×割合」へと乗法の意味づけを図ることが望まれています.
「1あたり量×いくつ分」では,その拡張を学ぶ機会が失われるのに加えて,「1あたり」という概念の理解が,2年では困難という指摘があります.

それから,結合法則に関する場面で配慮が増えます.「1こ60円のおかしが1はこに4つ入っています。このはこを2つ買うと,代金はいくらですか」に対し,「1はこに4つ」がいくつ分(外延量)にも1あたりの数(内包量,パー書きの量)にもなります.

これらを考慮すると,私は賛成できません.
Q: 3×5=15は,正しくは「3こ/まい×5まい=15こ」なんじゃないの?
A: 一つの解釈ですね.そして,学校でそれが受け入れられる保証もありません.
《りんごの問題》の式の解釈だけなら,それでもいいのですが,「3cmの5倍」や「3万人の5%」などをかけ算の式にするとき,困難になってきます.倍や割合がかける数だと,かけられる数の単位を,パー書きで表すのが厄介なのです.1あたりなどを推奨している数学教育協議会でも,倍概念あるいは率の用法という考え方で,別扱いにしています.
累加や倍概念に基づく学習だと,《りんごの問題》も「3cmの5倍」も,3×5=15となります*5.見かけの式だけでなく,「3が5つ」という構造も,共有しています.
1あたりのほうが扱いやすい例を,挙げることも可能でしょう.メリット・デメリットをきちんと並べた上で,算数はどうあるべきかを議論すればいいのです.
Q: 累加だと,かける数が0や小数・分数になったときに,計算できないのでは?
A: ええ,算数教育に携わっている先生方には,それは周知のことです.その上で,3年では「0×数」と別に「数×0」を取り扱っていますし,5年の小数のかけ算のところで「意味の拡張」を指導しているわけです.
「累加だと乗数が小数・分数になったときに対処できない」のは十分承知の上で,小数や分数でも使える(立式・計算できる)よう,どのように学習内容を配列し,また授業で指導していけばよいかが,検討・実践され,そして確立されています.
ご質問は,そういった算数教育の継続性や成果の蓄積に目を向けておらず,あるいはその継続性を断ち切ろうとしているように見えるのです.
Q: 包含除と等分除を区別するために,かけ算の順序があるってことですか?
A: いいえ.かけ算が1種類でわり算が2種類という式の表し方は,戦前の(もちろん日本の)算術からも,また海外の算数(例えば"Common Core State Standards for Mathematics")からも知ることができます.
かけ算とわり算の相互関係は,「連続量÷連続量」が分離量になる状況があることや,「分離量÷連続量=連続量」が非現実的なことを気づかせてくれます.
Q: 連続量÷連続量=連続量,じゃないの?
A: ええ,「13Lのショウユを3Lずつに分ける」場面を,遠山啓が指摘しています.
そこにある2つの数量が,小数や分数になっても,分けるといくつになるかという問題の答えは,整数であり,したがって分離量です.
このことは,「連続量×分離量=連続量」という関係によって理解できます.
Q: 行列が非可換なことは,この問題と関係ないのでは?
A: 私もその考え方には,乗り気がしません.あえて,関連づけるなら,スカラー量ではy=3×5×xとy=5×3×xは同等な式ですが,xやyをベクトル,3や5を行列に置き換え,アフィン変換の式にすると,2つの行列を逆に書くわけにはいきません*6
交換法則の可否を,行列で考えるのは妥当ではなく,ハミルトンの四元数に言及するのが良いように思います.そうすると,算数教育における「形式不易の原理」*7という概念,あるいは「どこまで『数』を拡張できるのか」「拡張する前に利用していた『演算』は,拡張してからも同じように使えるのか」という問題意識と関連してきます.*8
Q: 正しい式にバツをつけるのはよくないのでは?
A: 「正しい式」の定義次第でしょう.加えて,「その正しさはどの範囲で(どんな人々の間で)認められるのか」,またかけ算だと「かけられる数とかける数を逆にした式と,意味が同じとしていいか,異なるか」も,検討する必要がありそうです.
小学校でかけ算を学習する際に,子どもたちは,提示された(もしくは自分で絵や文章に表した)場面が,3×5という式で表せるか否かを判断できるようになっていきます.3×5と5×3は「答え(積)は同じ」だけれど「意味が違う」というのは,そのような活動の帰結とも言えます.
Q: やっぱり,3×5と5×3の意味が違うのは,納得できない!
A: こうお考えください.
優れた“目”(コンピュータビジョン)と“頭”(人工知能)を持った機械がありまして,「3×5」をインプットしておくと,それ以降,3×5で表されるものを見つけたら,「3×5です!」と言います.
もう一つ,同じ仕様の機械があるのですが,こちらには「5×3」がインプットされており,5×3で表されるものを見つけたら,「5×3です!」と言います.
この2体がそろって,教科書あるいは問題集を順に見ていくと,「3×5です!」と言うとき,「5×3です!」と言うときのほか,「3×5です!」「5×3です!」の両方が発せられるとき(例えば3行5列の囲い込みなしアレイ)も起こり得るのです*9
この話から何が言いたいかというと,3×5と5×3の意味が違うといっても,「3×5であるならば,5×3ではない」ということまでは主張していないのです.また,次のように言うこともできるでしょう.「3行5列の囲い込みなしアレイ」と同種の場面をいくら持ってきても,3×5と5×3の意味が同じか違うかの論証には寄与しません.
以上をもう少しきちんと検討するなら,「3×5という式で表せる場面の集合」などを定義することになります.

教育

Q: 数学は自由であるべきでは?
A: 数学ではなく,乗法の意味理解は,数学教育の課題です.
数学との連携はもちろん必要ですが,学習者(子どもたち)の発達に応じた指導の方法や,政策として算数・数学の教育内容がどうあるべきかというのは,数学だけで答えの出せるものではありません.
これまでの研究・実践の結果や,未来への展望などは,学会だと日本数学教育学会ほか,出版社だと東洋館出版社明治図書出版ほかから出されている,論文,解説,書籍を通じて読むことができます.
Q: 文科省の見解では,そのように教えるとはされていないと聞いたのですが,どうなっていますか?
A: 教え方は,各学校・各教師に任されています.もちろん完全に自由ということはなく,先生が休んでも代わりの先生が授業できるよう,また学年が上がってもそれまでの内容をもとに新たな事項を学べるよう,学習内容が配置されています.
マルかバツかの観点でいうと,自治*10や,日本国内の広い地域での(複数校の)学力調査で,《りんごの問題》の類題が見られます.それは子どもたちに「かけ算の意味」がどれくらい定着しているかを,外在的に評価するために使われています.
『かけ算には順序がないのか』に書かれている,文部科学省へ電話をしたエピソードは,かけた側の「俺理論」*11への理解を,文科省に求めようとしていると受けた側が判断し,言質を取られないよう「文科省としては,かけ算の式には順序があるという指導をしていないし,順序はどちらでもいいという指導もしていない」と回答したのではないかと考えています.
それと,学習指導要領解説を根拠とする場合,上の学年にも目を向ける必要があります.例えば小数×整数は第4学年,整数×小数は第5学年で学習することとなっています*12.現在の小学校の算数は,式計算だけではありませんので,それぞれのかけ算が用いられる場面,したがって「小数×整数」と「整数×小数」という2つのかけ算の意味が,異なっていると認識できます.
Q: 学習指導要領は,読んでおいたほうがいいですか?
A: ええ,いいと思いますよ.
文科省サイトから,学習指導要領解説のPDFファイルがダウンロードできます.通し読みして,分からない言葉は他の本で理解を図り,それからまた読み通すと,算数教育の面白さと難しさが見えてきます.
Q: 学習指導要領にも,2×6と6×2が同じことを表す図が載っているんでしょ?
A: 12個のおはじきを,2行6列に並べれば,それは2×6にも6×2にもなるという,学習指導要領解説にある件ですね.それは2×6と6×2が「同じ」というよりは,12を例として,「数についての感覚を豊かにする」ための活動となっています.
上でも書きましたが,《りんごの問題》に対してりんごを3行5列に並べたものは,その問題を適切に図示していない,とされます.何を出発点として,何を明らかにしようとしているのかには,注意を払いたいものです.
Q: 学習指導要領は,不磨の大典ですか?
A: 学習指導要領は,日本の初等中等教育における憲法のような役割があると言っていいでしょう.学習指導要領解説は,そのコンメンタールとなります*13.教科書は個々の法律,教科書検定は法案審査といったところでしょうか.
大日本帝国憲法日本国憲法との違いもあります.学習指導要領はこれまでの改訂履歴を見ると,およそ10年ごとに改訂がなされています.今後もそうなるでしょう.その間に,教育実践の成果が蓄積され,課題をもとに次の改訂となるわけです.
Q: いろいろな学力テストで,かけ算の文章題の正解率が低いのは,かけ算の順序を前提とする,現在のかけ算の指導方法の効果が低いことを意味しているのでは?
A: 《りんごの問題》と同種の出題で,正解率が低くなっている点には,同意します.
自治体の学力テスト・学力調査は,各解答者(児童)の学力把握よりも,教師や学校などへのフィードバックが主目的となっており,そこで,正解率の低い出題と改善案の提示がなされているのでしょう.
正解率の低い問題としては,低学年向けだと,《りんごの問題》の類題のほか,かける数が1増えたときに,積はかけられる数だけ増えることと問うものが挙げられます.高学年になると,かけ算・わり算の選択や,情報過多における平行四辺形の面積(隣り合う辺の長さをかけるという間違いが多い)がよく知られています.
なお,正答率は,テスト実施の前に類似問題を解かせればアップできるので,これを主要な(あるいは唯一の)尺度とすることには賛成できません.
Q:国学力テストの採点では,乗数と被乗数を逆にしても,バツにしていない.なぜ教育現場では,かけ算の順序にこだわるのか?
A: 簡単にいうとそれは,「2年のかけ算」と「高学年のかけ算」の違いです.
全国学力・学習状況調査は例年,6年生が解答しています.そしてご指摘のとおり,平成22年度以降の小学校算数の解説には,「乗数と被乗数を入れ替えた式なども許容する」という注意書きが入っています.
面積に代表される〈乗数と被乗数を区別しない文脈〉や,乗法の交換法則をはじめ二つの数量の関係を記号で表す,4〜5年あたりで,「順序にこだわらない」ようになっていると感じています.
その段階では,かけられる数とかける数の区別ではなく,かけ算かわり算かによって,演算の意味の理解を調査することが主となっています.
Q: 啓林館の教科書では,6年になってもかけ算に順序があるんですよね?
A: 「x×8」の件でしょうか.一つ分の大きさ×いくつ分による立式は,文字式でも同様に適用できるという意図だと思います.
中学校に上がれば,これを「8x」と書くことになります.その流れにおいて乗法の交換法則は,場面をx×8で表す段階ではなく,x×8を8xに置き換える段階で使用されます.
Q: 教育評価って,必要なのでしょうか?
A: はい,いまの小学校の教育において,授業やテストでどのような問題を解かせ,その結果をどのように理解・活用していくかを知るには,教育評価の概念は避けて通れません.
その中でも,診断的評価・形成的評価・総括的評価の考え方は,「いつ(どんな状況で)その出題をしたのか」を理解する,キーポイントになります.また近年では,パフォーマンス評価やルーブリックに基づく評価が活用されていますが,かけ算の単元でも,それらの評価法を組み合わせた授業の例があります.
定評のある本をご覧になり,“値踏みのためのテスト”という古い教育観から解放されることを,希望します.
Q: 交換法則は学習しないの?
A: 2年で学習する交換法則は,「児童が乗法九九の構成を通して「3×4」と「4×3」の答えが同じ12になることを見付ける」や「乗数と被乗数を交換しても積は同じになる」です.
4年で「□×△=△×□」となりますが,△と□はともに整数です.5年,6年と,数の対象が小数や分数になっても,交換法則ほかが成り立つことは,その都度確認されます.
文章題に対する交換法則の適用は,聞いたことがありませんね.一つの文章題から,ある考え方で□×△,別の考え方で△×□という式を立て,そこから□×△=△×□すなわち交換法則を学ぶという展開なら,あってもいいように思うのですが.
Q: 交換法則は重要視されないってこと?
A: 「計算の性質やきまり」の一つとして学習し,問題の解決に役立ててほしいのですが,「計算の性質やきまり」は,交換法則だけではありませんし,それに偏重するわけにもいきません.
こんな子のことを,思い浮かべてください.7×6の答えがすぐに出ないというのです(7の段は,九九で間違えやすい段といわれています).そこで,交換法則を使えば,7×6=6×7です.さてその子が,6×7=44(ろくしちしじゅうし)と間違って覚えていたら,どうなるでしょうか.7×6=44と答案に書いて,これは間違いですね.
小学校で学習する,かけ算の性質には,「乗数が1増えれば積は被乗数分だけ増える」があります.7×6に適用すると,7×5=35だから,それに7を足して,7×6=35+7=42とできます*14.分配法則を用いた求め方も,あります.
これらを,ときには一つ,またときには複数使えば,九九の穴埋め問題や,九九の範囲を超えたかけ算でも,答えが効率良く求められるわけです.求め方がいくつもあることは,間違いの可能性を減らすことができるとともに,数に対する見方をより豊かにしてくれます.

交換法則・結合法則・分配法則,そして「乗数が1増えれば積は被乗数分だけ増える」という性質について,それぞれそのままの言葉で,2年生に指導するのは困難かもしれません.あるWebページではそれぞれに「しきぎゃくほう(式逆法)」「だんかけほう(段かけ法)」「だんたしほう(段足し法)」そして「まえたしほう(前足し法)」という名前をつけ,教室に掲示したり,子どもたちがノートに書いたりしている事例を紹介しています.

Q: トランプ配りは,学校で出てこないの?
A: そうですね,「トランプ配りの乗法への適用」が,見当たりません.
等分除への適用なら,国内外で事例を知ることができます.
Q: 順序では,読み取りができているか判定できないのでは?
A: 《りんごの問題》の類題は,先に書いたとおり,いくつかの教科書に掲載されています.市販の問題集からも,見つけることができます.市販されていないドリルにも,きっとあるのでしょう.
論争の対象となっている文章題は,かけられる数とかける数との区別を授業で学習した上で,「一つ分の大きさ」と「いくつ分」を読み取り,かけ算の式で表すという知識・技能が,きちんと定着したかを測るために出されたと理解するのがよさそうです.
この出題は,学習中であれば形成的評価,単元や学年のまとめであれば総括的評価に,それぞれ関連します.
また3年になり,わり算またはより広い範囲のかけ算を学習する前に,2年のかけ算の理解度をチェックする際の出題(レディネステスト)も見られ,これは診断的評価です.
Q: 「一つ分の大きさ×いくつ分」の考え方しかできないのは,多面的にものを見る力がつかないのでは?
A: 「一つ分の大きさ×いくつ分」の考え方で,一つの場面に対して様々な式で表すという活動が,教育現場でなされています.
例えば3行4列に並んだおはじきの数を求める式は,直積だと「3×4」「4×3」の2つ*15ですが,一つ分の大きさを発見することを行えば,「3×4」「4×3」のほか「2×6」や「6×2」を得ることもできます.
なお,「一つ分の大きさ×いくつ分」は,小学校で学習するかけ算の基本ですが,すべてではありません.各学年で,どんな「かけ算の言葉の式」(または,かけ算の式で表される場面)があるかには,注意しておきたいところです.

Q: 順序にこだわらないような,かけ算の教え方は,ダメなのでしょうか?
A: ダメと認定されたわけではなく,やりがいのあるテーマだと思うのですけどね.批判はするけれど,順序にこだわらない教え方を提案したり紹介したりする試みが見られないのは,残念なことです.
一つ,知っていることを紹介しますと,数研出版の『学ぼう!算数低学年用準拠版ワーク 下 改訂版』は,その種のこだわりがなかった本でした.とはいえそのシリーズの中学年向けの本に,「全員で34人います。1人に15まいずつ半紙を配るとすると,全部で何まいいりますか」という出題が見つかるのですが.
Q: 外国で,かけ算の順序が反対だとバツにする事例はありましたか?

A: 坪田耕三のエピソードはいかがでしょうか(『坪田耕三の算数授業のつくり方』).ブラジルで,子どもたちに6の目のサイコロを見せ,目の数を式にしてもらったところ,ある子どもが「3個ずつのかたまりを作ってそれが2つ分」を認識した上で,3×2と書くのですが,仲間が違う違うと言う,という話です.

Q: たし算にも,順序があるのですか?
A: 加法は,増加(添加)と合併に大別できます.増加に基づくたし算は,たされる数とたす数に区別を必要とします.高木貞治が仮想鼎談の中で,「朝三暮四」を例にしてその区別の有無を解説しています.
とはいえ,「たし算の順序」で式がバツになる事例は,かけ算のそれよりも少ないですね.加法は合併を中心に学習している点が,関係しているように思います.
Q: 高木貞治が,かけ算の順序に関わっているのですか?
A: ええ,教師向けに書かれた『新式算術講義』では,乗法を累加で定義して,交換法則を証明しているほか,いろいろと展開しているのを読むことができます.交換法則と結合法則を合わせて「多くの数を加へ又は乗ずるに当りて、其順序を如何様に変更するとも結果は常に同一なり」と書いています.
Q: では高木貞治は非順序派?
A: いえ,その本の内容は,《りんごの問題》の式が3×5であるか5×3であるか,どちらでもいいかについて,何も言ってませんよ.
Q: ななめに置いた長方形に「縦」と「横」はあるの?
A: 「どちらが縦,どちらが横であるか」ではなく,「縦の長さをどれにするか」を決めることになるのではないでしょうか.
そうすると,横の長さも確定します.あとは縦×横の公式で,面積を求めることができます.
このとき「縦の長さ」の取り方は2種類ありますので,かけられる数とかける数を交換した2つのかけ算の式が,ともに正解となります.
Q: 2年生のかけ算って,九九のことじゃないの?
A: 九九からではなく,かけ算が用いられる場合を理解し,式で表すことから始まります.
そして九九(2の段,5の段,など)を学びながら,それぞれの段の九九が使える文章題を解きます.
ひととおり終わると,様々な形の応用問題に取り組みます.
こうして,かけ算の意味を理解するようになっています.
Q: どんなかけ算の文章題がありますか?
A: すでに書いていますので,「東京書籍」や「大日本図書」でお探しください.
個人的に試みている分類を紹介しますと,《AB型》《BA型》《B型》《複数解》です.《りんごの問題》は,「文章題で,A,Bの順に数が現れ,B×A(=P)の形で式に表すことが期待される」もの(あるいは先述の「基準量が後に示された適用問題」)で,《BA型》になります.
海外の事例だと,Greerによる分類は,小学校の範囲で,かけ算の式で表せる対象が海図のようになっています.これを持っていると,一見新たな出題を見つけたとき,どこに位置づけられるかが,理解しやすくなります.
Q: 「授業」とか「学校教育」とか書いているけど,実際に学校へ行って見ているの?
A: いえ,私は書籍や論文・論説から,数学教育学のいわば通説を知るとともに,Webで読める「学習指導案」を通じて,それぞれの授業がどのように計画され,成功・失敗を含めて実施されているかを,理解するようにしています.
学習指導案はある作法のもとで書かれています.プログラムのソースコードというよりは,計算機(ハードウェア,ソフトウェア)を使うための手順書のようなものです.また研究分野によっては実験に先立って作成・レビューのなされる,プロトコルに対応するものだと思っています.
なお,学校へ行って見ているかどうかは,よほど全国を飛び回って多数の授業などを見ている先生でなければ,論争に役立ちません.なぜなら,「ええ,学校で見ていますよ」と答えたところで,「あなたの知っているのは,ごく限られた範囲に過ぎないんじゃないの?」と返されるのが目に見えているからです.
Q: 日本の算数教育の水準って,世界的に見てどうなの?
A: 先進国と言っていいと思います.外国との交流では,「かけ算の順序」に注意した授業や教材作成の事例も,見ることができます.
日本の数学教育が海外で高く評価された,1冊の本があります.『The Teaching Gap』です.その訳書『日本の算数・数学教育に学べ』には,「米国の教科教育学者は大きな変化を比較的短期のうちに求めてきました。(略)日本の教科教育学者は,学習指導に関する長期にわたる漸進的,微小増加的改善が生じる方式を制度化してきました。この方式は明確な学習目標,全国的に共通なカリキュラム,および授業実践における漸進的改善に立ち向かう教師の勤勉,努力を含むものです。」とあり,教育制度や教師の活動をその要因に挙げています*16
Q: 算数教育に関わる各団体は,かけ算の順序についてどのような見解を出していますか?
A: 「かけ算の順序」という問題認識は,していないように思います.『算数授業研究 VOL.80』は,おそらく『かけ算には順序があるのか』の本に影響され,順序性について言及しています.
とはいえ,「順序」という言葉を使わないにしても,順序があることを暗黙の了解としているものばかりです.かけ算の式と,子どもが設定した場面(文章題,絵など)を子ども自身が照合し,式が合っていないと認識する話---そこから我々は,□×△と△×□は意味が違うことを読み取れます---が,向山型算数,筑波の算数,数教協&日教組と,まったく異なる算数教育の団体で活動する先生方の本に,それぞれ書かれています.
Q: かけ算の指導の,究極の目標って,何なのでしょうか?
A: 現実的な目標として…かけ算で計算できる場面を子どもが見つけたら,かけ算の式で表すことができ,計算して,数量(単位)にも注意しながら答えを出すこと,そして立式や計算において,どうしてそうなるのかを説明できるようになること,を挙げたいと思います.
Q: 今の学校教育は,その目標に向かって,進んでいるのでしょうか?
A: 多種多様な授業例や出題を見ていると,成果の蓄積と,緩やかな改良がなされています.
なので,「目標」と「支援体制」を学校の内外でうまく定めれば,その目標に至るのは,決して難しくないように映っています.
Q: お気に入りの文章題は,ありますか?
A: はい,いくつかあります.
真っ先に挙げたいのは,「ひもを4等分した一つ分を測ったら9cmあった。はじめのひもの長さは何cmか。」です.学習指導要領解説の第3学年に入っており,《りんごの問題》と同様に,一つ分の大きさが後に書かれていること,逆思考(除法逆の乗法)*17であること,長さ(量)に関しても式を立てて計算できるようになることが,この1問に込められています.
他ですが,出題への固定観念を取り除くことができたものとして,3×8という式を明示した上で,「( )グループでゲームをします。1チームは( )人です。ぜんぶで何人いるでしょう」のカッコに数を書かせる問題,あと自作では「いつも3人で手分けして,庭の水やりをします.11時30分に始め,11時42分に終わります.ある日,ひとりで,庭の水やりをすることになりました.12時ちょうどのお昼ごはんに,間に合うでしょうか.」を書いておくことにします.

教育の外

Q: かけ算の順序問題の本質って,何だと思いますか?
A: 「かけ算の順序」を旗印に,算数教育(あるいは数学教育学)の蓄積を恣意的に取り上げて批判する人々の存在,でしょうか.
Q: かけ算の順序問題に,学術的な蓄積って,あるのですか?
A: かけ算の導入―数の多面的な見方、定義、英語との相違―(布川論文)をご覧ください.「2年生の導入時では,被乗数と乗数を明確に区別して扱っている」「Students are required to clearly distinguish between multiplicands and multipliers at this stage」から始まる段落が,要所です.
その記述のみならず,解説全体は,著者の新たな提案ではなく,これまでの教育をもとにした,標準的な考え方であると理解してよさそうです.
Q: 「算数教育学」は,ないのですか?
A:数学教育学」に,算数教育が含まれています.日本数学教育学会では,奇数月に数学教育(中・高・高専・大学の数学教育が主な対象),偶数月に算数教育(幼・小の算数教育が主な対象)の会誌を発行しています.
算数と数学の教育を合わせて,「算数・数学教育」と書かれることもあります.
Q: 「かけ算の順序」の代わりに,何と呼べばいいのでしょうか?
A: 「乗法の意味」をお勧めします.
子ども向けには「かけ算の意味,分かっているかな」,文章題では「かけられる数とかける数(の区別)」でしょうかね.
Q: では,「乗法の意味」って,何ですか?
A: 一言では言い表せませんね.
「乗法の意味の理解」だったら,「累加と拡張」がそのエッセンスになると考えています.
Q: この件,保護者としてはどう理解すればいいでしょうか?
A: 「5×3=15」にバツをもらった子の保護者の方と想定して,小学生の子を持たない者が僭越ながらいくつかアドバイスをさせていただくと,

  • これは昔からある,意図された出題であること,また高い確率で,すでに授業で学習していること
  • 子どもの言葉に耳を傾け,考え方を共有すること
  • 先生を信頼すること
  • 教科書,ノート,プリントなどを一緒に見て,本人に思い出させること
  • それでも先生に照会するなら,落としどころも含めて入念な準備をしてから問い合わせること

あたりでしょうか.
Q: 遠山先生にケチをつけるの?
A: いえ,『遠山啓エッセンス』ほか著書を目にする限り,算数・数学教育の理論にも実践にも深く関わった人ですね.
「6×4,4×6論争にひそむ意味」が出されたのち,様々な人々による授業(実施・観察)や教材作成を通じて,乗法の意味の指導についてノウハウが蓄積され,氏の主張のいくらか(例えば,トランプ配りの乗法への適用)が「過去のもの」になったのだと,理解しています.
Q: 『かけ算には順序があるのか』は名著ですか?
A: ええ,名著だと思いますよ.とりわけ,かけ算の順序論争を手っ取り早く知るのには,いい本だと思います.ネット上の批判も,この本を読んだと思われる人,まったく読まずに書かれているもの,いろいろあって興味深いです.
とはいうものの,小学校の算数に関しては,乗法の意味の指導に限定したとしても,切り込めていないなあという印象も持っています.
Q: 『かけ算には順序があるのか』は読みました.次に読むといい本は,何ですか?
A: 通し読みをするものではありませんが,日本数学教育学会の編著による『算数教育指導用語辞典』を手元に置き,いまご覧のエントリでも他のところでも,気になる言葉があったら引いてみるのはいかがでしょうか.
Q: 『かけ算には順序があるのか』の「3km/(km/時)×4km/時」という式って,あれで納得してていいんですか?
A: いろいろ問題があるように感じます.外形的な注意点をいくつか挙げると,「1あたり量×いくら分」以外のかけ算,具体的には倍概念に基づくものには,適用できません.「私は“1あたり”は採用しない」*18と言われてしまえば,話がそこでおしまいです.あと,Wikipwdiaでも,その種の式や論法が掲載されていません.信頼性・説得力という点で,不十分なのでしょう.
式としてみたとき(いわば内的批判として),「3時間」は1あたり量ではないという前提で,「3km/(km/時)」は量としては「3時間」と等価,だけど量の分類においては1あたり量になるというのは,どういうことなのか,という課題があります.「3km/(km/時)」が,逆内包量や複内包量といった,数学教育協議会で詳細化されていった内包量のいずれにも当てはまらない点も,気になります.
ところで,著者ブログではこの式の解釈を「時速1kmで3km歩く道のりの時速4km分の道のり」としています.『かけ算には順序があるのか』の第1刷では「時速1kmあたりで3km歩く道のり(1あたり量)の時速4km分(いくら分)」,第3刷では「時速1kmあたりで3km歩く時間(1あたり量)の時速4km分(いくら分)」となっています.控えめに言っても,新しく得た情報をどのように判断し,公表するのかについて,注意が必要であることを示しているように思います.
Q: 時速4kmで3時間歩いた道のりは,必ず,4×3なのですか?
A: あえて「いいえ」と言ってみます.3×4で表していいことを示す,『かけ算には順序があるのか』とはまったく別の手段を紹介します.
時速□kmで△時間歩く道のり(○km)は,○=□×△で表せますね.速さが一定のとき,その道のりは,速さを固定すると時間に比例し,時間を固定すると速さに比例します.なので,道のりは,速さと時間に複比例すると言えます.
複比例と認識すれば,それぞれの独立変数を「かける順序はどっちでもいい」のです.単位を無視して考えたとき,複比例定数を,□倍してから△倍しても,△倍してから□倍しても,答えは同じになります.ということで,○=△×□そして「3×4」と書いてもいいという次第です.
複比例は,《りんごの問題》のような分離量に対しても適用できます.皿の枚数を△,1皿に置くりんごの数を□,りんごの総数を○とすればいいのです.
とはいえ,小学校のカリキュラムで複比例を取り上げるのは困難であり,これは大人の議論と言わざるを得ません.
Q: 「かけ算の順序」は,ニセ科学?
A: 数学教育学の成果を十分にレビューしていない状況での批判は,---あとは田母神・前空幕長の論文から思うこと: 石破茂(いしばしげる)ブログの言葉を使わせていただきましょう(一部改変しています)---“歯切れがよくて威勢がいいものだから,閉塞感のある時代においてはブームになる危険性を持ち,それに迎合する人々が現れるのが恐いところです.加えて,主張はそれなりに明快なのですが,それを実現させるための具体的・現実的な論考が全く無いのも特徴です.”
Q: かけ算の順序のロジックって,何なのでしょう?
A: 批判する側のロジックは,(1)ある出題と,バツがつけられている答案から,(2)そこで教師の期待する「かけ算の構造」を指摘し,(3)数学は,あるいは世の中は,そうではないよ(それだけではないよ)と主張する,でしょうか.
そうすると,対抗策としては,(a)出題には十分な根拠と実績があること,(b)指摘する「かけ算の構造」は,小学校6年間で学ぶ内容のうちほんの一部でしかないこと*19,あたりになりそうです.
強調しておきますが,「かけ算の順序を擁護・推進するロジック」を考えるから,おかしな議論になるのであって,問題解決(望ましい学校教育のあり方)を探るのに注目すべきなのは,「かけ算の順序を批判するロジック」のほうです.
Q: かけ算の順序にこだわる教育は古くさい,時代遅れだ.
A: 時代遅れなのは,どっちなんでしょうかね.
解説書や,Webの学習指導案を読んでいると,乗法の意味(批判者の言う「かけ算の順序」を含みますが,それ以外に関しても)を子どもたちにまずは分かってもらおう,そして定着させようと,先生方がさまざまな要素を取り入れ,工夫をしていることがうかがえます.学習指導要領の改訂への対応や,「オープンエンドアプローチ」「パフォーマンス評価」「ルーブリック」などの活用は,その最たるものです.
学習内容(出題例)や指導方法について,社会の要請によるダイナミックな変化も,教育実践における自省を通じた緩やかな変容も,見てとることができます.先生方の子どもをしっかりと観察する目,成長を喜び共感する姿勢,つまずいた子には(バツをつけて見放すのではなく)前に戻ることも含めた柔軟な態度,そしていろいろな形による教員ネットワークは,文字ベースで見ているだけの者ですら,安心感をもたらしてくれます.
そういった状況と比較すると,批判者のスタイルは,残念の一語です.「文章題を解かせる→子どもが式と答えを書く→かけ算の順序が反対のとき不正解とする」という流れに,とらわれており,言ってみれば1970年代の“遠山史観”から抜け出せていないように見えます.
正解にできる理由をどれだけロジカルに説明してみても,そのストーリーからは,子どもが1年から6年まで(中学,高校も入れていいでしょう),楽しんだり苦しんだりして理解を深めていくような学習の姿も,文章題(算数の問題)から離れた問題解決の場面において,どう行動すればいいかのヒントも,得られそうにないのです.
Q: 納得いかないのですが,世の中と学校とで,何が違うんですか?
A: 「世の中のかけ算」と「学校教育のかけ算」が違っているのに気づいたとき,その違いがどこにあるのかを探求する人々と,学校教育が間違いと主張する人々がいるように思います.
Q: あなたも,世の中と学校とのかけ算の違いをお認めで?
A: いやそこは,世の中の「×」の使用が無茶苦茶なんです.
記録を取れなかったのですが,「2時間×4か月」なんて,学校で書いたら大混乱になるんじゃないでしょうか.*20
Q: 世の中のかけ算って,どうなっていますか?
A: 事例収集をしてみましたが,とても多彩です.ともあれ「寸法」「もの×もの」「もの×数」「数量×数量」が代表的です.
数量×数量の形では,×の左右それぞれに単位が添えられ,積が明示されていない場合でもその単位は,×の左と同じになるのが大部分です.したがってそこに,サンドイッチの考え方を使うことができます.
Q: 数量×単価じゃないの?
A: 「数量×単価」という決め打ちでは,世の中,ないように思います.注意点を3つ挙げます.
まず,その書式で書くべきときは,確かにそうしないといけませんね.もし逆に書いたら,16千円のが500個という,単価も数量も中途半端な数字を相手に伝えることになるかもしれませんので.
次に,お店やレストランのレシートをかき集めて,見比べてみてください.あるいはレジの画面を見るのでもいいでしょう.「数量×単価」も「単価×数量」もあります.「@」や「¥」,あるいは「円」をつけ,単価と分かるようにした書き方もあります.そうして見ると,1枚のレシート,1軒の店舗として,いずれかで統一していればいいのであって,それを「どっちでもいい」と認識するのが,誤解を招く原因になるように思います.
最後に,小学校の算数,中学校の数学の,学習指導要領解説には,ともに「(単価)×(個数)」が見られます.これは,算数・数学(という教科)の一貫性として,留意すべきことだと思っています.
Q: 私は「かけ算には順序がある」なんて教育を受けさせたくないのですが.
A: そうですか.私は工学的観点から,自分の子が,「“5×3=15と書いても,3×5=15と書いても,よさそうだけど,バツにされないのは,3×5=15のほうよね”と,瞬時に比較して,1個の答えをさらさらと書く」ようになることを望んでいます.
かけ算の順序ではないのですが,式に単位を付けるよう,銀林浩が自分の子2人に指導した話が興味深いです.親として,我が子はどうあってほしいと願う権利がある一方で,学校や親の要求に対して自分なりに調整し,その都度「答えを出していく」のは子ども自身であるのがよく分かるエピソードです.
Q: 「かけ算の順序」の議論って,“あら探し”が多くない? どうして?
A: 数学教育学を一つの学問とするなら,その究極解,あるいは理想状態が見出せていない,ということだと思っています.といっても悲観する話ではなく,他の学問分野もこれは同様なのです.
「究極」「理想状態」を得るのが困難となると,妥当解を探ることになります.妥当解は,その状況におけるいわば局所最適解であり,時間の経過,社会情勢の変化により,最適解が変わり得ます.そういった変化に対応することも,教育に携わる人々には求められます.
以上を前提としたとき,そこに関わるそれぞれの人(先生,児童・生徒,ネットウォッチャー,など)が満足だとか納得を得るために,克服すべきものが何で,そのためにはどんな行動すればいいかが,人ごとに異なっているのが,実情なのではないでしょうか.

自分のこと

Q: あなたは,どういった立場で,この論争に関わっているのですか?
A: 大学教員です.《りんごの問題》を,授業中に話したこともあります.情報工学の分野ということもあり,仕事と趣味でプログラミングをしています.
家庭では4人の娘(うえの子・さきの子・あとの子・すえの子)と悪戦苦闘しています.いくつか,日常生活の問題解決を,かけ算の順序論争に結びつけて考察してきました.
Q: あなたはこれまで,この論争に関して何をしてきましたか?

A: 2年前の11月15日に,「0×3と3×0は違う」と題して最初のエントリを書きました.同月下旬に,2つの式を比べて答えを決めるプロセスを提案しました.その後2011年まで,書籍などをもとに,国内外のかけ算指導の状況について情報整備を図りました.

2012年は,検索エンジン経由でお越しの方向けに,「トランプ配り」「アレイ図」「サンドイッチ」など,かけ算の意味の理解をサポートするような俺流解説記事を書いています.
Q: これまで,どれだけ書いています?
A: 昨日(11月14日)までで,[5×3]カテゴリーのエントリは251個あります*21.総文字数は,はてなダイアリー記法で約3.3MB,144万字です.
Q: 長すぎません?
A: いやもう,ここまでご覧いただいて,おつかれさまでした.
とはいえ本日の内容は,「かけ算」を含む算数・数学教育の議論(で読める情報)のうち,ほんの一部でしかないのですよ.
Q: 正しく理解するためには,ネットの情報よりも,本や論文を読め,ということですか?
A: 現状を理解するためには,そして将来をどのように変えていけばよいかを判断するには,いまに残る先人の知恵,結局のところ本や論文を読んで頭に入れ,何か問題に当たったら立ち返れるようにすることを,おすすめします.
Q: 算数教育の専門家というのは,数学者が初等教育に携わるようになるパターンと,小学校教諭から大学教授になるパターンがあると思うのですが,あなたはどちらですか?
A: いや,私は,算数・数学教育の専門家ではありません.読んできた文書や刊行物は,この問題に関心を持つ人の中では多いほうなのを自覚していますが,児童や,教師の卵を相手に教えているわけでも,当ブログの内容を学会などで発表しているわけでもありませんので.
算数・数学教育の研究として,(1)教師を重視し,教師の行動の体系化を試みる「教育者の伝統」,(2)学習者を重視し,主に量的研究および質的研究によりその行動を明らかにする「経験的科学者の伝統」,(3)教師・学習者から距離を置き,論理的な分析に努める「学者的哲学者の伝統」,という分類を,ある本から学びました.自分自身はこの中のどれかに位置づける段階「以前」だと思っていますが,そういう者だからこそ,3つのうち一つに偏ることなく,バランスをとって学んでいく*22必要があるように思います.
Q: 過去のエントリでときどき見かける「ツアー」って,何ですか?
A: 当ブログ内外の情報や事例一つ一つをスポットに見立て,あるテーマで順路を決めて見ていってもらおうという試みを,ツアーと呼んできました.
私はガイドのようなものです.良いガイドをするには,情報の感度を高めることが欠かせません.今後も研鑽に励むとします.
Q: 回答の中の「別」「適用できない」「採用していない」が引っかかるんですけど
A: 《りんごの問題》や,2年で学習するかけ算の話に,私から見ると別の話を入れようとする形の批判があるとお考えください.
Q: 工学的観点?
A: 「一つの問題に対して,複数の解決法があるとき,どれを選んで,形にするか?」です.
付け加えるなら,神の視点だと,(一つに限らない)正解が見えているけれども,実際に問題を解く者からするとそうもいかず,正誤の判定者や,必ずしもその時点で明示されていない判定基準をもとに,最善解を提示すること*23が求められています.
Q: あなたの強みは何ですか? 文献?
A: 文献は,あまり強みと思っていません.
まず一つ,挙げるとするならやはり「工学」であり,もう一つ,書いてみるなら,「信念論理」だと思っています.「□×△と△×□は違うのか?」と「□×△と△×□は違うと,学校では指導しているのか?」と「□×△と△×□は違うと子どもたちが理解することを,小学校の教育は期待しているのか?」をそれぞれ異なる課題設定(命題)と認識しているのは,信念論理のおかげです.
Q: 子どもとエンジニアは,違うでしょう?
A: いえ,理想*24と異なる振る舞いがなされている現状において,どんな手立てで「それなりに成功させる」かを考え,実行したり,先人の実行した筋道をたどったりする営みは,工学と教育に大きく重なる要素だと思っています.
Q: 冒頭の「受け入れられているか,いないか」について,詳しく説明していただけますか?
A: はい.「正しい,間違い」だと,間違いをするのが良くないというメッセージを与えたり,いったん正しいと証明したら,正しいと言うための前提を超えたところでもその主張を振りかざす傾向がある*25ように,思えるのです.
代わりに「受け入れられているか,いないか」とすると,はじめは受け入れられていなくても,後に受け入れられるようになることや,その逆の可能性を,想起することができます.
さらに言うと,「『なぜ』正しい,『なぜ』間違い」という考え方から,「『どこで』受け入れられているか,『どこで』受け入れられていないか」への転換を目指しました.
ここで,トランプ配りの乗法への適用を例にとることにします.それは遠山啓が「6×4,4×6論争にひそむ意味」と題する記事の中で示したもので,私は1978年に出版された本で,全文を読みました.それが現在,どうなっているかというと,算数教育では採用されておらず,ネットでよく,根拠として使用されているのです.こうして,それぞれの「受け入れ状況」を明確にしやすいという効果が期待できます.
なお,「受け入れられている」という考え方に気づくきっかけとなったのは,布川論文の英語版で,「The amount of oranges in Figure 1 is expressed as 4×6=24 in Japan. The expression 6×4 is not usually allowed at the introductory stage.」と書かれていたことでした.*26
Q: 本日の内容,他の人に受け入れられますか?
A: ええ,そこも書きながら考えてみたのですが,自分の書いた文章をどうのこうのというよりも,「トランプ配りの乗法への適用」だとか,かけ算の「順序」の多様な使われ方だとか,そういった一つ一つの小さな情報や考え方について「『どこで』受け入れられているか」を,私と別に調査してくださる方が出てくればなあ,と期待しています.

(最終更新:2012-12-10 未明)

*1:「最小単位の決まっている量」という定義の仕方もあります.

*2:ここの「積」は,「倍」に相対するものではなく,かけ算の結果・答えの意味です.

*3:1冊だけ持っています.

*4:かさ(dLなど)や角度の計算で,「dL」「°」を添えている式を,問題集で見ることもできます.あと,学習指導要領解説には,「1m^2=10000cm^2」という等式が入っています.

*5:「3万人の5%」については,3万を30000,5%を0.05とそれぞれ変換した上で,30000×0.05=1500とします.

*6:「平行移動してから,(原点を中心に)拡大する」と「(原点を中心に)拡大してから,平行移動する」では,異なる結果をもたらします.

*7:「0.8mで1.2kgの鉄の棒,1mの重さは何kg?」に対して,整数に置き換えて「2mで4kgの鉄の棒,1mの重さは何kg?」なら「4÷2」とできるので,もとの問題は「1.2÷0.8」と書ける,という解き方はこの原理に基づいています.

*8:ここで,乗り気でない理由を書いておきます.そうして形式不易の原理を知ったところで,結論としては「小学校で学ぶ範囲では,かけ算は交換法則が成り立つよね」となるからです.

*9:「かける順序はどちらでもいい」という方針に基づく機械だと,「3×5です!」「5×3です!」の両方になるばかりで,一方だけが言う状況というのは,ないようにも思います.

*10:《りんごの問題》と同種と思われる出題が,平成19年の練馬区児童・生徒学力調査にあり,「6×15と立式するところを、問題文に出ている数字の順に15×6と立式した誤答が60.0%と圧倒的に多かった」とのこと.練馬区のWebサイトからは現在,参照できません.

*11:「俺理論」とは何物なのかという疑問には,「かけ算の順序」という言葉の使用が「俺理論」であると,回答したいと思います.

*12:「1メートルの長さが80円の布を2.5メートル買ったときの代金が何円になるか」のように,かけられる数を10の倍数,かける数を小数第一位までとし,答えは整数にするという導入が多く見られます.

*13:他の科目までは確認していませんが,小学校学習指導要領解説 算数編に限れば,学習指導要領に記された各事項は,この解説の中に箱囲みで入っています.

*14:7×5=35に対して7×6=35+5=40だとか7×6=35+6=41だとかする間違いも考えられます.これについては,次がどうなるかを見ていきます.7×7は,40たす,5でしょうか6でしょうか7でしょうか.41たす,6でしょうか7でしょうか.もしくは,7×7=49を間違いなく覚えているなら,そこから7を引けば,7×6=49−7=42とできます.このように,前後関係の中で九九の穴埋めや確かめができるという点で,ペアの入れ替えしかできない交換法則よりも,優れていると言えます.

*15:他の式を得るには,並べ替えが必要になります.

*16:乱暴に要約すると,「米国の教師は,教職着任時から指導能力向上は(本人が意識しない限り)されないが,日本では新米先生を育て,ベテラン先生にしていく,人的なつながりがある」といったところです.

*17:これらの用語になじみのない方は,「等分」とあるからといってわり算ではないよ,とご理解ください.加法逆の減法,減法逆の加法,乗法逆の除法の文章題も,学習指導要領解説に書かれています.

*18:様々な乗法の意味づけを比較した上で,採用しないという人々がいることも,考慮すべきでしょうね.

*19:高学年になれば,それとまた異なる「構造」に基づくかけ算を理解し,活用します.

*20:今朝の「みのもんたの朝ズバッ!」より.「毎日2時間,4か月」と言っていたと記憶します.

*21:これより数の多いカテゴリーには「親馬鹿」「本」「研究室」「computing」があります.

*22:この3分類を“行”,かけ算の順序への賛否を“列”とした表を作り,個々の情報をいずれかのマスに入れ,集積を図るのも面白そうです.

*23:もっと大きな話として,答えが解答者の手を離れるとどうなっていくかを,答えを作りながらよく意識し考慮すること,を挙げておくことにします.

*24:かけ算の学習において考えるべき「理想」は,かけ算に順序があるとかないとかいった状態ではなく,子どもたちがみな,かけ算の意味をきちんと理解し活用できることでしょう.

*25:「3km/(km/時)×4km/時」を理由に「どっちでもいい」という主張のほか,直積や面積を持ち出して(あるいはその構造を《りんごの問題》に乗せて)順序不要と言うものが,該当します.

*26:「受け入れられている」に対応する英語はallowedのほか,accepted, permitted, adopted, recognizedあたりが思い浮かびます.またfound, observed, availableも,類義語と言っていいと思います.