わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

批判の基本形〜Wikipedia「かけ算の順序問題」より

wikipedia:かけ算の順序問題の最新版を読み直しました.今月の特色は,次の2つでしょうか.

  1. 「学習指導要領・学習指導要領解説の記述」が充実した.
  2. はてなブックマーク - かけ算の順序問題 - Wikipediaのブックマーク数が増えた.

「学習指導要領・学習指導要領解説の記述」の内容ですが,まあ結局これが批判の基本形なのだなと思いました.「順序」にとらわれてしまっており,また第2学年の記述しか見ていません.
現実の,2年のかけ算の指導として,意識されているのは,かけられる数とかける数の「区別」です.これについては,例えば布川和彦の論説(和英)で明快に述べられています.
かけられる数とかける数の「区別」への認識がないと,次の疑問が生じます.Wikipediaでは「長方形に並べたおはじき」の2例はなぜ,「2×6または6×2」,「3×4または4×3」という式で表せるのでしょうか.そうなることを,どのように学級の中で共有し,他の形状や,文章題で活用すればいいのでしょうか.
これについて,3行4列の長方形配置から,かけ算の導入を図っている書籍があります(『新版 小学校算数 板書で見る全単元・全時間の授業のすべて 2年下』p.21;アレイ図).

「□の△個分」という分け方を理解した上で,次時で□×△というかけ算の式に表すことを学習します.
分け方については,「具体物をまとめて数えたり等分したりし,それを整理して表す活動」として,学習指導要領の第1学年にも記載があります.「□の△個分」という2つの数で表し,それをもとにかけ算の式にするのは,もちろん第2学年です.
「3こずつ4つ分」と「4こずつ3つ分」との違いも,図にすれば明瞭で,さらにこれが,「3×4と4×3,答えは同じだけど,意味が違う」という考え方につながっていきます.
2年より上の学年について,被乗数と乗数の区別(あるいはかけ算の順序)で押さえておくべき箇所には,「0×3=0になる理由と,3×0=0になる理由が異なる」「小数の乗法(5年)のうち,小数×整数を4年で学習する」があります.後者は,現行(2009年度より先行実施)の学習指導要領からです.なお,その一つ前の解説では,同じ学年ですが計算の仕方(したがって授業の進め方や児童の理解)は別となっていました.
「小数×整数」を,他の小数のかけ算と区別することの意図あるいは実用性は,次の写真から見ることができます.

「1.5kg×4箱」は,「1.5kg(のもの)が4箱」と読めばいいのでしょう.このように,日本語ではかけられる数が先,かける数が後になるのが自然なのは,筆算の順序で見てきたとおりです.
この数量表記のうち,「1.5」(かけられる数)のほうは,整数になっても差し支えありません.しかし「4」(かける数)のほうは,小数や分数にするわけにいきません.
たまたまこの商品だけ,というのではなく,「何の幾つ分」という,物品の数え方では,「何」は分離量でも連続量でもよいが,「幾つ分」は整数値すなわち分離量にせざるを得ないのです(分離量・連続量という言葉が嫌いなら,海外のある文献では,そのタイプのかけ算にEqual measuresという名称をつけています).これが,大人も小学生も,かけられる数とかける数との違いを確認できる例となっています.


あとははてブのコメントで気になったところを書いておきます.

id:Lhankor_Mhy 教育 これ「x個をyつ分」を表現する記号×と、算術記号×が、同じ記号で表されてるのが問題なのかもね。両者は全く違うものなんだと思う

その違いを意識している人と言えば,宮下英明氏でしょう.積の立式の論理を見れば,「量×数」と「数×数」で,乗算記号を別にしているのが確認できます.
同様のロジックで数や量の精密化を図っている『量と数の理論 (1978年)』では,「量×数」と「数×数」で記号に区別は見られませんでした.
学外における「×」の使われ方や,記号のバリエーションは,wikipedia:×で整理されています.

id:tanakaBox math 両者の主張はよくわかるが、引っかけ問題が不要。掛け算に順序があるならば、問題にも順序があるべき。引っ掛け問題こそが、矛盾に満ちている。

はい,かけ算を学習する際の文章題は,“かけられる数が先,かける数が後”というのをある程度こなしてから,“かける数が先,かけられる数が後”が出現しています.Wikipediaで引用されている中で,「そろそろ式は反対に書かなきゃいけないころだ」と2年生の子が言ったこととも,関わってきます.
その種の出題を意図的に行い,かけられる数とかける数の「区別」を定着させようとするのは,『小学校新卒教師に贈る算数科授業の基本技88』『小二教育技術 2012年11月号』などにも記されています.教科書でも,啓林館,東京書籍,大日本図書に入っています(「向山型算数」読み足し(2. 向山型算数授業法事典 小学2年),かけ算・資料集3).
なお,トランプ配りや長方形で考えることによって,かけられる数とかける数を反対にする式も正解だという主張に関しては,りんごのかけ算「タイル×タイル」もご覧ください.

id:ElizaAcolyte 素朴な疑問なのだけど、彼らにとって人月計算はどちらが正しいのだろうか? / 2人×3ヶ月=6人月 or 3ヶ月×2人=6ヶ月

「小学校では人月計算を扱わない」だと思います.人月は,仕事量(物理の電力量)に関わる話です.「人×月=人月」によって,新たな単位をつくるという意味では,面積に近いのですが,「2人×3か月」と「3人×2か月」は意味上異なるわけで,2つの因数は別の役割となります.
別の点でも注意が必要です.というのも,「人月」を「人日」に置き換えれば,想像できると思いますが,「延べ」の概念と関係があります.「延べ」は,平成元年改訂の学習指導要領から,扱われなくなりました.
とはいえ,人数と日数のかけ算には事例があります.「のべ」の文章題は,どのように考えるのによると,「3日間働いた人が5人いれば,3×5=15で,のべ15日の仕事です。」「逆に,5×3=15のように,人数をもとにして考えると,のべ15人の仕事です。」となっています.


当記事に対して,はてブありがとうございます.

id:tanakaBox math idトラバ貰った。掛算に順序があるならば、問題にも順序があるべきである。つまり、問題にバツを付けるべきで、答える必要性がない。というのが僕の主張です。

おっしゃりたいことは十分に理解できるのですが,現実には,教科書で「えんぴつを 1人に 2本ずつ,5人に くばります」と「えんぴつを 2人に 5本ずつ くばります」を並べていたり,ここで引用したように「6×8の文章題をつくりましょう」に対して「ねこが8ぴきいます。1ぴきにすずを6こつけると,すずは何こいりますか」といった文章題をつくる子どもがいたりするわけです.
数の出現に注意した文章題の分類は,当ブログで「《AB型》」や「《BA型》」といったラベリングをしています.簡単にいうと,かける数が先に現れる《BA型》は,2年のかけ算学習の途中で出現します.そして,上の学年のテストなどでも問われています.
大人の議論としては,「3に5をかける」と「3を5にかける」と「3と5をかける」とで違いを認めるか否かの話なのかなと思っています.

(最終更新:2012-12-31 深夜)