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発見,創造,修正を繰り返す人間

ことばの発達の謎を解く (ちくまプリマー新書)

ことばの発達の謎を解く (ちくまプリマー新書)

「■発見、創造、修正を繰り返す人間」と題した文章が,目を引きました.p.178から始まるのですが,途中から書き出します.

赤ちゃんはこのように、わかりやすい手がかりを見つけたら、たとえ時には間違いになっても、それを使ってどんどん新しい要素(単語)の学習を進めていきます。今聞こえてくる声の中に、すでに前に切り出して「知っている」単語があれば、今聞いている声を単語に区切っていく作業がずいぶん楽になります。前に出した例ですが、「カワイイアカチャン」を区切るのに、「アカチャン」がひとまとまりだと知っていれば、「カワイイ」をまとまりとして取り出すのはぐっと易しくなりますね。既に切り出した単語の数が増えると、単語の音声的な特徴をさらに分析します。すると、一つの音のかたまり(単語)の中ではこの音の次にこの音が来やすい。この二つの音は同じかたまりの中で続いて現れることがない、というようなパターンにさらに気がつきます。するとまた、その知識はその先の学習に使うことができます。これがさらに、単語の切り出しをスピードアップさせます。そうやって記憶に貯まった単語の数が増えれば増えるほど、知っている単語を使って聞こえてくる人の声の中から新しい単語を見つけ、取り出すのは楽にできるようになるのです。もちろん、その過程で間違って切り出してしまった単語があればそれを修正し、手がかり自体も修正の必要があれば修正します。
つまり、赤ちゃんはここでも、要素を学習しながらシステム自体を発見し、創造し、修正していくということをしています。一歳の誕生日前の赤ちゃんがそういうことができる。これはとりもなおさず私たち人間という生き物が、この過程を繰り返して学習を続けていくように生まれた生きものだということを示しています。システムの構造や機能、全体像はわかりようがなくても、今学習していることは、それよりも大きいまとまり、つまりシステムの一部であると最初から想定し、システムの仕組みや構造を探そうとし、それによって自分でシステムを創造していく。語彙の全体像(システム)が分からないと単語(要素)の意味が学べない、単語の意味が学べないと語彙はつくれない、というジレンマを子どもはこのようにして解消し、語彙という巨大なシステムを、大人の手を借りながらも自分の力で創り上げているのです。
(pp.179-181)

本全体から見ると,大詰めのところです.第5章の中に書かれており,第6章と終章もあるのですが,第5章のタイトルが「ことばの発達の謎を解く――発見、創造、修正」となっていることからも,「まとめ」なのがうかがえます.
「一歳の誕生日前の赤ちゃん」が我が家にはおります.「すえの子」という名前で,当ブログで何度か書いています.彼女の頭の中は分かりませんが,親その他の刺激に対する反応を見ていると,大人には見えない,システムの構築をしているのだろうなと思わずにはいられません.
なお,単語の切り出しや想像/創造,間違いの修正は,「プログラミング*1」や,担当科目(情報セキュリティ)で例年,ゴールデンウィークの前後に解いてもらっている「単一換字暗号の解読」にも大いに役立つ話です.


分析はいいが,言葉や発達の「非専門家」は,さて何をすればいいのだろうか…
終章で,提言がなされています.数学についてです.また引用します.

数学や科学の能力の成長に、大人が子どもに話をする時の言語の質が大きな影響を及ぼすことが報告されています。アメリカの研究チームは二六の保育園のクラスで二〇〇人近い四歳児を対象に、クラスを担当する先生(保育士さん)と、子どもの数学能力の関係を調査しました。
先生たちは幼児に数学の授業をしていたわけではありません。食事場面や遊び、体操など、保育のあらゆる場面で、先生たちがどれだけ数や量について語り、数学の基礎になる概念について日常的に語っているかという、いわば「数学語り」の量と質を調べました。そして「数学語り」の質が六か月後の子どもの数学能力とどれだけ関係するかが統計的に算出されました。すると、子どもの親の経済力や教育背景、子どものもともとのIQなど、数学力に影響を与えると思われる要因をすべて差し引いても、先生の「数学語り」が子どもの数学力に無視することができない影響を及ぼしているということがわかったのです。
この研究結果は、子どもは数学の授業を通してだけではなく、日常生活の中から数学の基礎概念を学んでいること、そこにおいて、教育者の言語の質が非常に大きな役割を果たすことをはっきりと示しています。子どもに対する言語の質が大事なのは、保育や教育の場に限ったことではありません。家庭における子どもへの語りかけの質は、子どもの知的発達に非常に大きな役割を果たすことが、多くの研究の結果から実際に示されています。
(pp.229-230)

娘らと,数や量を見ていくとともに,自分の算数・数学に関する知識を維持するため,発見・創造(想像)・修正をするよう心がけるとします.


過去に書いたこと:

(最終更新:2013-03-08 夕方)

*1:新しいコードを書くというよりは,他の人が書いたコードを読んでいき,その全体像をつかもうとする場面のほうですね.