わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

「×」から学んだこと 13.04―文献

Q: かけ算の順序問題に,学術的な蓄積って,あるのですか?

A: 国内では,次の文献が,見解を示しているように思います.

「2年生の導入時では,被乗数と乗数を明確に区別して扱っている」「Students are required to clearly distinguish between multiplicands and multipliers at this stage」から始まる段落が,要所です.その記述のみならず,解説全体は,著者の新たな提案ではなく,これまでの教育をもとにした,標準的な考え方であると理解してよさそうです.
海外の文献で,「小学校で学習すべきかけ算とは何か」を読んでいくなら,まずは次の2つでしょう.国内外で,よく引用されています.

  • Vergnaud, G. (1983). Multiplicative Structures, In Lesh, R. and Landau, M. (Eds.), Acquisition of mathematics concepts and processes, Academic Press, pp.127-174. isbn:012444220X
  • Vergnaud, G. (1988). Multiplicative Structures. In Hiebert, J. and Behr, M. (Eds.), Number Concepts and Operations in the Middle Grades, Vol.2, pp.141-161. isbn:0873532651

Q: 『かけ算には順序があるのか』は名著ですか?

A: ええ,名著だと思いますよ.とりわけ,かけ算の順序論争を手っ取り早く知るのには,いい本だと思います.ネット上の批判も,この本を読んだと思われる人,まったく読まずに書かれているもの,いろいろあって興味深いです.
とはいうものの,小学校の算数に関しては,乗法の意味の指導に限定したとしても,切り込めていないなあという印象も持っています.

Q: 『かけ算には順序があるのか』は読みました.次に読むといい本は,何ですか?

A: 通し読みをするものではありませんが,日本数学教育学会の編著による『算数教育指導用語辞典』を手元に置き,いまご覧のエントリでも他のところでも,気になる言葉があったら引いてみるのはいかがでしょうか.

Q: 正しく理解するためには,ネットの情報よりも,本や論文を読め,ということですか?

A: 現状を理解するためには,そして将来をどのように変えていけばよいかを判断するには,いまに残る先人の知恵,結局のところ本や論文を読んで頭に入れ,何か問題に当たったら立ち返れるようにすることを,おすすめします.

Q: タダで,問題を理解するには,何を見ればいいでしょうか?

目的を「かけ算の順序論争に決着をつけること」ではなく「乗法の意味理解についての知識を持つこと」とすれば,読んでおくといい情報はかなりあります.ここに整理してみます.
まず,現在の小学校で,算数指導の基準となる文書が

  • 小学校学習指導要領解説編 算数編(《算数解説》)

です.PDFファイルになっています.入手方法は2011年8月30日にまとめています.小学校の算数は,平成21年度(2009年度)からこの内容に基づいています(先行実施; 移行期間あり).
通し読みもいいのですが,文書内検索をして,用語がどこで出現するか,慣れ親しむことをおすすめします.「順序」「累加」「感覚」「をかける」あたりで,試してみてください.
次に,用語集をブックマークしましょう.分からない言葉を見かけたとき,立ち返りやすくなります.次のサイトと各ページには,よくお世話になっています.

では,「乗法の意味理解」に関する論文を読みましょう.

かけ算を主なテーマとしない文章題も,読んでおいて損はないと思います.

古い論文を読んでいると,「今の算数教育と,同じなのだろうか」という疑問が出てきます.学習指導要領は,だいたい10年のスパンで改訂されています.次のサイトから,読むことができます.

国際比較,外国の指導や認識などについても,おすすめの情報があります.

ここで日本に戻ります.“何の何倍”すなわち倍概念に基づき,数学的に検討した「量の理論」があります.南雲道夫の論文は,和文・英文とも,無料です.

多くの出題例を知っておくと,出題と学習事項とのつながりが見えやすくなってきます.

Q: 昨年末に出た,数学教育協議会委員長の本は読みましたか?

A: はい,読みました.『数とは何か?―1、2、3から無限まで、数を考える13章 (BERET SCIENCE)』ですね.
「かけ算の順序」という小見出しの文章もありますが,そこで例に出されている文章題が「どのお皿にもミカンが3個のっています。お皿は全部で4皿あります。ミカンを集めて大きな袋に入れると、全部でいくつになるか?」なのには,残念の感があります.
この記述を細かく見ていくと,まず,「…ます。…ます。」と“です体”のあと,「なるか?」と“である体”になっているところに違和感があります.「全部で」が2回,出現するのも,引っかかりを覚えます.
一番困惑したのは,その出題では多くの子どもたちが,式として3×4と書くであろう点です.これは《AB型》になっています.問題文に出てくる順に数を並べ,かけ算の式にしたらいけないよ,という意図の出題になっていないのです.
他の記述を含めて,その本は,一人語りをしているなあというのが,通して読んだ感想です.
以下の本は,教材が豊富で,記事ごとに,執筆者(教師)らの思いが非常によく伝わる内容となっているように感じました.

活用力アップ!子どもがよろこぶ算数活動 2年

活用力アップ!子どもがよろこぶ算数活動 2年

(最終更新:2013-05-08 早朝)