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文字式の順序

小6 算数を ひとつひとつわかりやすく。

小6 算数を ひとつひとつわかりやすく。

「文字式」が気になったので,また1冊購入しました.
この本では,わりとはじめのページ,具体的には2章(pp.12-17)で,学習することになります*1.最初の見開きは「xやaを使って式に表そう」と題して,式にすることを,次の見開きでは「式が表す意味は?」と題して,式の読みのほうを学習します.簡単な方程式を解いたり,いったんxとyの関係を式に表してから,あるxの値に対応するyの値を求めたりする出題も,見られます.pp.16-17は「復習テスト」と題したおさらいです.
p.12には,穴埋め式で3つの出題があります.

  • 1個x円のあめを4個買ったときの代金は,「あめの代金=1個の値段×個数」という言葉の式をもとに,文字の式は「x×4」(円)となります.
  • 底辺が6cmで,高さがa cmの平行四辺形の面積は,「平行四辺形の面積=底辺×高さ」という言葉の式をもとに,文字の式は「6×a」(㎠)となります.
  • 「長さ8mのひもからx m切り取ると,残りはy mです」という場面では,「はじめの長さ−切り取った長さ=残りの長さ」という言葉の式をもとに,文字の式は「8−x=y」*2となります.

数または文字の出現する順に並べて,適切な演算記号で結びつければいいのかというと,次のページにさっそく反例です.

  • a円の品物を買って,100円出したときのおつり…は,a−100ではなく,100−aです.

式の読みのほうは,基本練習(p.15)を挙げることにします.一つ一つ,きちんと読んで,状況を理解しないといけません.

x×5−80の式で表されるのは,ア〜ウのどれですか。
ア 1個x gの荷物5個を80gの箱に入れたときの全体の重さ
イ x円のあめ1個と80円のガム1個を1組にしたもの5組の代金
ウ 1個x円のケーキを5個下位,80円まけてもらったときの代金


2章の各出題をチェックしていったところ,次の特徴があるのに気づきました.

  • おつりを求める場面を除き,数または文字の出現する順に並べて,演算記号または等号を入れれば,正解となる式が得られます.
  • 式の読みに関して,文字が演算記号の右に来るような式はありません.

後者の項目は,上で言葉だけ示した,「簡単な方程式」と関係してきます.例えばp.15で,x×12=360が与えられ,xの表す数を求めるのですが,ページ下の「かけ算とわり算は,逆の関係にあることから求めます」というヒントをもとに,x=360÷12によって,30を得ます.
もとの式が12×x=360だったら,直接そのヒントを使っても,12=360÷xとなり,答えが得られません.
といったわけで,この本は,文字式を取り扱う段階でも,かけ算の記号の左と右に置かれる値(数または文字)には,違いがあるという立場だと言ってよさそうです.
前者の項目は,「おつりを求める場面を除き,」とそれ以降に分けて検討します.おつり関係は,今年ちょっと,書いたのでした.

いきなりですが問題です.

ひき算で,ひく数が先,ひかれる数が後に現れる,自然なシチュエーションを答えてください.

早速ですが解答です.英語では,「12−5=7」を,"Five from twelve is seven."と読むことができます.式と文とで,2つの数の現れる順序が逆になっています.
この式と英文は,"Twelve minus [take away] five equals seven."とともに,『数量表現の英語1800』pp.312-313に示されています.

減法BA型

この英語表現と,ぴったり当てはまります.実際の行動でも,払うべき金額が決まってから,その額を超えるお金を出せば,ひき算でお釣りが計算できる---小学校の算数では,大きな数から小さな数をひかなければならない---ことと整合します.
さて,残りの「数または文字の出現する順に並べて,演算記号または等号を入れれば,正解となる式が得られます」ですが,ここから「かけ算の順序」と密接に関連することが主張できそうです.
準備として,「値」を「数または文字」のこととします.その際,小学校の算数を考慮し,単位は値に含まれないものとします.そのもとで,

  • 文章題で,値の出現する順に並べて,適切な演算記号を入れれば,正解となる式が得られる

というタイプの出題が見られます.2年のかけ算では,「基準量が後に示された問題」,当ブログでは《BA型》とラベリングしてきた出題が目立ちますが,3年以降では,2年の学習内容を確認する目的以外では,見かけません.
3年以降はというと,《AB型》で印象に残っているものがあります.2例,挙げます.

  • http://www.sokyoken.or.jp/kanjikeisan/pdf/3nen.pdfには,「1mの重さが3kgの鉄のぼうがあります。この鉄のぼう12mの重さは何kgでしょう。」があり,式の正答率は48.6%,答えの正答率は76.0%となっています*3.正解は載っていませんが,算数の正答基準として適切なのは,「3×12=36」であると考えられます.
  • http://tosanken.main.jp/data/H22/jittaityousa.pdf#page=13(第6学年 大問2(2))では,「1mの重さが4kgの鉄のぼうがあります。この鉄のぼう\frac{3}{4}mの重さはどれだけでしょう。」と出題しています.正解は「4×\frac{3}{4}」(「=3」はあってもなくてもよい)で,評価基準によると「\frac{3}{4}×4」は誤答となっています.

それぞれ,「12×3」「\frac{3}{4}×4」のほうが“なじみのある”“安心できる”式であるように思えます.“なじみのある”“安心できる”はずいぶんと主観的なので,関連文献を見ておくと,3×12か12×3かについては,水道方式入門に《BA型》で「I,II位数×III位数」を計算させる意義を抜き出しています.整数×分数,分数×整数の違いのところは,分数ではなく小数ですが,「7×2.4の式で求められる問題を1つ作りましょう」という作問課題の分析がなされています(乗法の意味に関する児童の理解の実態調査).教える側・調査する側として,a×bとb×aの違いは,上の学年になっても認識されているわけです.
そして,「文章題で,値の出現する順に並べて,適切な演算記号を入れれば,正解となる式が得られる」のに,逆順の式を書く児童は,「かけ算の意味が分かっていない」と判断される,という次第です.
これが文字式に関しても適用できるのは,以前に取り上げたとおりです.

☆1の(ア)でいえば、x × 8 = y でも y = x × 8 でも正しいが、「1冊x円のノートを8冊買い、代金がy円であるときの関係式」という文章の流れからいけば、x × 8 = yを推奨したい。
ただし、x × 8 が 8 × x になっている場合は、「8円のノートがx冊」という意味になってしまうので問題文とは合わない。常に式の意味をしっかりと意識させることが大事である。 
(啓林館 小6算数教科書『わくわく算数6上』指導書朱註 p.58)

(略)

上の引用から読み取れるのは,x,yといった文字を用いた式でも,「1つぶんの数 × いくつ分 = ぜんぶの数」が適用される,ということです.別のかけ算の式を根拠にするなら,それに従うまでです.

かけ算の順序は,ネットde真実


余談1:「文字式」が気になったのは,先日の記事を書いたからでした.以前に読んだ本は,中1ギャップ撃退トレーニングワークをご覧ください.
余談2:中学生向けには,次のようにして,何の何倍を問うています.

前ページの説明では,3n+3を3(n+1)と変形しています。このように変形するのは,次のことを示すためです。
[(1)],[(2)]に当てはまる文字式や数を書きなさい。

連続する3つの自然数n,n+1,n+2の和が,中央の自然数[(1)]の[(2)]倍であること。

このようにして問えば,[(1)]はn+1,[(2)]は3しかなく,実際,解答類型でも,逆に書くのは正解扱いにしていません.

今年の全国学力テストにみる,かけ算の順序

余談3:『小6算数をひとつひとつわかりやすく』に,かけ算とはまた異なる,「順序」を問う出題が見つかりました.p.38で,直線AEを対称の軸とする線対称な多角形ABCDEFGHの図をもとに,「辺DEと等しい長さの辺はどれですか。」と出題しています.「等しい長さの辺」なので,EFでもFEでも良いと個人的には思うのですが,解答としては「辺FE」のみです.「辺DEと対応する辺は,辺FEです。」と,解き方が書かれています.

(最終更新:2013-07-07 早朝)

*1:3章(分数と分数のかけ算)で,分母・分子を文字としたかけ算の式が見られます.

*2:等式では,そうでない式と異なり,単位を添えていません.

*3:4年生向けにも同一の問題があり,式・答えとも,ほぼ同じ正答率です.