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「1あたり量」という謎めいた言葉

小数の乗法をタイルで考えるという教育実践を紹介し,それは不自然であると論じています.タイルは十進位取り記数法の理解には良いが,小数どうしのかけ算で利用するのには到底納得がいかない,とのことです.
「小数の乗法」について,次の2つを対象としています.

  • 小数第1位までの小数どうしの積で発生し得る,小数第2位の数は何を意味するのか:「1mの重さが2.1gの針金がある。3.2mでは,重さは何gか」(p.94)
  • 1より小さい数をかけると,積はかけられる数より小さくなるのはなぜか:「1mの重さが3.2gの針金があります。0.4gでは何gになりますか」(pp.94-95)

「到底納得がいかない」は,次の箇所がもっとも顕著です.

そもそも,「2.1g/m×3.2m」の計算のタイル図で,「たて2.1g」「よこ3.2m」の長方形が描かれるが,筆者にはこれがそもそも理解不能である。「たてが重さ,よこが長さ」というものはなんなのだ。これはそもそもどういう具体的なものの操作に対応しているのか,まったくわからない。
(p.102)

「わからない」という著者の認識は,それより前にも現れています.

(略)ここで,彼らにとって「1あたり量」なる概念について,少なくとも「タイルにもとづいて考える」ことはまったく役立っていなかった,ということも明らかである。かれらにとって「1あたり量」というのは,「0.1mの重さ」として理解されているのである(実際,筆者自身,小学校時代に,「1あたり量」という謎めいた言葉の意味がまったくわからず,この言葉が出るたびに,ともかく「もうダメだ,ついていけない」という思いにかられたことを思い出す)。
(p.98)

文章全体を通して,見直すと,前半の授業の紹介では,タイル図を多用し,かけ算をいわば2次元のもの,そして「積」に基づいていることが読み取れます.後半の授業の提案から,著者はかけ算を1次元的に,すなわち「倍」で考えるべきだという主張を持っていることも,見えてきます.
数学教育協議会(数教協)主導の面積図において,「1あたり量とは何か」が記されている一節と図を,引用します.

ここで,教師が「それじゃあ,1あたり量はどれ?」と問うと,Nさんは図2の斜線部分アを指した.これに対し,だれからも反論が出なかったので,教師は「こうじゃないかなあ」と言って,図3を描き,1あたり量というのはこの全体の斜線部分イであることを示したが,「理解は得られなかった」という。

(p.95)

たしかに,イは「1mあたり3.2g」を表すものになっています.「時速60km」という速さの表記とも,関連します.
しかし私としては,この図2,図3の両方に,1あたり量があるように思います.というのも図2の「3.2g」を「3.2g/m」に書き換えれば,これが1あたり量になります.
面積図の高さを,パー書きの量で表したものが,1あたり量です.パー書きにすることで,縦×横で求められる(それぞれの面積図の)長方形の面積が,“量の積”となることにも対応づけられます.
p.102の件では,「たて2.1g」ではなく「たて2.1g/m」と見ればよいのです.縦の長さと面積とで,混同することも防ぐことができます.
そのように,解釈できるものの,小数のかけ算をタイル図で表す指導法には賛同できません.というのも,「集まった小学生100人のうち40%が女子でした。女子の人数は何人ですか」といった,割合の場面で,面積図を作ろうとすると,縦の長さと面積が同種の量となってしまうからです.


昔書いたこと:

(最終更新:2013-09-24 朝.カテゴリーのうち「本」を取り除きました)