わさっきhb

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「割合」の周辺

昨日の記事に対して,ブログ主さんから反応がありました.*1
ツイート内容のうち,「割合(=百分率)」は,こちらの理解と異なります.百分率は,割合を表現する一つの手段です.「基準量を1と見る」ときに何らかの割合が2.5であることと,別の場面で計算された割合が2.5%であるというときとでは,2.5の意味が違ってきます.
…と思案した上で,読んだこと書いたことを,見直していきます.
馴染みの学習指導要領解説は後回しにして,辞典を手に取りました.『算数教育指導用語辞典』です.割合は,pp.305-310に記載があります.この本の第2部では,見出しの横に,何年のどの領域で扱われるかが書かれていまして,割合については全学年,領域はB(量と測定)となっています*2
割合と百分率・歩合の関係が最も顕著なところを,書き出します.

この際,これまで基準とする大きさを1として,それに対する割合を表すのに分数や小数を用いてきたが,もっととらえやすい整数で表すために,基準とする量の大きさを100とみて,それに対する割合で表す方法として0.01を1%と表すのに「百分率」があり,基準とする量の大きさを10と見て,それに対する割合で表す方法として0.1を1割と表すのに「歩合」があることを指導する。
なお,百分率と歩合についても,

  • 30人のうち2人欠席したときの欠席率
  • 250円の15%に当たる金額
  • 8kmが40%に当たるとき,1に当たる長さ

といったような,「割合」を求めたり,「割合に当たる量」「もとにする量」などを求めたりする文章題が扱われる。
(p.309)

ここから「百分率は,割合を表現する一つの手段」なのが読み取れます.なお,箇条書きの3つの文章題が,この順序になっているのは,比の3用法*3を意図したものと思われます.
そのほか,「数量関係としての割合」という説明が,p.305脚注にあります.手短に書くと,「昭和33年の学習指導要領では,数量関係の中に割合があった」「43年の改訂で割合は各領域に分散された」です.


小学校学習指導要領解説 算数編を見ていきます.PDFファイルを開き,第3章(各学年の内容)を検索していくと,最初に出現するのはp.115(第3学年)です.

④ AがBの\frac{2}{3}というように,Bを1としたときのAの大きさの割合を表す。

なのですが,分数の意味の列挙であり,すぐ下に「④や⑤については,第5学年で取り扱う」とも記されています.
次の出現は,第4学年です.以前に書いたことを引用します.

4年ですが,小数の加減算のあと,「乗数や除数が整数の場合の小数の乗法,除法」を学習します.乗法に限っていうと,「例えば,0.1×3ならば,0.1+0.1+0.1の意味」ですので,累加で計算ができます*1.
*1:「さらに,乗法の意味は,基準にする大きさとそれに対する割合から,その割合に当たる大きさを求める計算と考えることができる。」(p.142)は,違和感のある文です.割合という言葉は,p.115で出現していますが,分数(割合分数)の話です.そして「基準とする大きさ」は4年では出てきません.この文を取り除けば,解説はしっくりくるのですが.

乗法の意味の拡張

上の違和感は,次のように解釈すれば,かなり減らすことができます.「乗法の意味は,基準にする大きさとそれに対する割合から,その割合に当たる大きさを求める計算と考えることができる」ことを5年で学習するけれども,5年でいきなり学習するのではなく,その素地として(あるいは小数の乗法の意味を理解させるためのスパイラル指導の一部として),小数×整数を4年で学習しよう,ということです.なお,「スパイラル」については2008年の学習指導要領改訂にあたり文科省Q&Aで1項目を設けています.
前座が長くなりましたが,「割合」をいちばんしっかりと学習するのは,5年になります.「A(3) 小数の乗法,除法」です.念のため,ここのAは,数と計算の領域を指します.
そのトピックで最初に「割合」が出現するのは,p.166です.*4

例えば,1メートルの長さが80円の布を2メートル買ったときの代金は,80×2という式で表せる。同じように,「1メートルの長さが80円の布を2.5メートル買ったときの代金が何円になるか」という場合,布の長さが2.5倍になっているので,代金も2.5倍になるということから,80×2.5という式で表せる。
こうしたことから,整数や小数の乗法の意味は,Bを「基準にする大きさ」,Pを「割合」,A を「割合に当たる大きさ」とするとき,B×P=Aと表せる。

「Pを「割合」(略)とする」という書き方から,それ以前に割合が定義されているかのように見えますが,学習指導要領と同解説では割合を定義している箇所はありません.ここは,上の場面に基づいて「80×2.5=200」で計算したとき,この2.5を「割合」と呼ぶ,と名称を定めて以後活用していくものと解釈すれば,話が通ります.
そのあとに,割合の求め方を授業で取り扱うわけです.式で表すと「P=A÷B」であり,これはp.167に書かれています.*5
学習指導要領と同解説から読み取れるのは,「割合とは…だ」ではなさそうです.ある種のかけ算の式に出現する“かける数”には共通点があり,それを「割合」と呼ぶことにしまして,数と計算(乗法・除法)や数量関係,算数的活動のもとで,計算方法を学び,いろいろな問題や日常生活に活用していこう,といった意図が込められているように思います.
「ある種のかけ算」そして「共通点」について,以前に書いたものを引いておきましょう.

国内外の文献で,かけ算の分類法をいろいろな人が提案している.その中でも,かけ算を「倍」に由来するものと「積」に由来するものに大別するのが分かりやすい.「倍」は,かけられる数とかけ算の答えが同種の量であり,かける数は単位または助数詞があっても,割合あるいは拡大率とみなして,演算時に無次元となるようなかけ算をいう.(略)

3.3 「倍」と「積」のかけ算 - かけ算の順序論争について(日本語版)

あなたの言葉は当てにならならい,信頼できる文献がほしいというのでしたら,上の説明はVergnaudに書かれているscalar operatorと大差ありませんし,その文献をもとにした日本語の解説では,「スカラー関係に基づく乗法」や,「〔求める全体量:x〕=〔基準量:a〕×〔倍量:b〕」*6とあります(『算数・数学科重要用語300の基礎知識』p.187).


「割合」一つであれこれ書いてきましたが,最初のツイートの「まあ、この分類自体がどうよ?という話はありますが。」にはほんのりと賛成です.割合を特定の学年・特定の流域に埋め込もうとする考え方がどうやら良くない(学習指導要領の趣旨に反する)のと,どの学年・どの領域で何を取り扱うかが学習指導要領の改訂に応じて変わり得ることには,留意したいところです.
学習事項の包含関係として,割合⊂比例関係,速さ⊂単位量当たりの大きさ⊂比例関係,比⊂比例関係,比例⊂比例関係,が成立しそうだなと思っています*7.「比例」と「比例関係」の区別は,日本に限った話ではなく,Common Core State StandardsのMathematicsでは,proportional relationshipという用語と,「割合」「比」(rate, ratio)の概念は,Grade 6で書かれているのに対し,「比例」そのもの(「tはnに比例する」など)は,Grade 7ということで中1相当となっています.

ツイートありがとうございます.諸事情で更新は日が替わってからになり,申し訳ありません.

伝わりました! でも,要注意です!
Webで,割合を数量関係に分類しているところを探したところ,東京書籍が公開していました.

数量関係の中の「関数」,そして第5学年に,「割合の意味と用い方」があります.
丸囲みの12が添えられていますが,これは,次の内容と照合しました.

5学年の年間指導計画案,下巻の「12. 百分率とグラフ」が該当します.指導内容は,「割合の意味とその求め方」「百分率の意味とその表し方」「歩合の意味とその表し方」「百分率を適用した計算方法」「帯グラフ,円グラフの読み方,特徴,書き方」で構成されています.
それから書店に行きました.『伝え合い学び合う「足場」のある算数授業―思考力・表現力を育てる授業事例集―』p.93の指導計画は「割合」「百分率」「割合のグラフ」となっていて,上述の東京書籍の教科書と同じ流れです.なお,領域の記載はありませんでした.
個人的な認識としては,割合を求める式については学習指導要領を根拠とする限り,数と計算の領域であることに変わりはありません.しかし教科書の構成として,「割合の意味」を,百分率や歩合そしてグラフといった,数量関係の領域に位置づけて授業展開に使う*8というのは,合理的であるように見えてきました.
「割合」に対するイメージ(子どもに何を学んでほしいかを含めて)が様々であることを,理解するきっかけとなりました.ともあれお手数をおかけしました.

(最終更新:2013-12-09 朝)

*1:私信ではなく公開されたツイートであるのは,http://twilog.org/tamami_tata/date-131208 にて確認しています.

*2:ざっと記述を読みまして,全学年を対象とするのは賛成ですが,領域については,主にはA(数と計算),そして「単位量当たりの大きさ(異種の2量の割合)」を含む量の扱いに関してはB,百分率と歩合などいくつかはD(数量関係)かなと思います.1年の「まとめて数えたり,等分したりする操作」「長さの比較」は確かに,割合の素地となっていますが,「基準にする数量」の事例は加法的だし,「(何十)±(何十)の計算」を割合の中で取り上げるのも,無理があるように思います.

*3:同書p.307脚注.

*4:原文には,右側に二重数直線があります.二重数直線の教科書採用については,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20120822/1345572000 で少し書きました.

*5:割合の学習においても,why/what/howの分割が有用なことを示唆しています.「どうして割合を学習するの?」「割合って何?」「割合をどうやって求めるの? どんなふうに活用するの?」です.ここで注意したいのは,「P=A÷B」を,割合のwhatではなくhowに位置づけることです.

*6:この式の直後に「bを単位を持たない割合と見ると」と,そのページで唯一「割合」が記載されています.

*7:「同種の2量の割合」と「異種の2量の割合」について,包含関係がどうなるかは,難しいところです.直感としては,同種の2量の割合⊂割合,速さ⊂異種の2量の割合⊂単位量当たりの大きさ,なのですが,小学校の算数の指導に限れば,そのうちのいくつかの「⊂」は「=」に置き換えられそうなのです.『算数教育指導用語辞典』p.236で,単位量当たりの最初のステップに「同種の2量の割合で表す量(比または率)」を置き,「(シュートのうまさ)=(成功数)÷(シュート数)」を書いているのは,興味深い話です.

*8:「割合の意味」は,機械検索する限り,学習指導要領と同解説には出現せず,したがって教科書や授業を通じて指導する際の用語と思われます.そのほか,東京書籍の5学年の年間指導計画案を見ると,「2. 直方体や立方体の体積」の単元には体積のほか比例も学習することとなっており,一つの単元を一つの領域に割り当てようとするのは「要注意です!」.