わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

堺市長の書き下ろし

出版・販売されていることを知った日の晩にKindle版を購入し,寝る前に第一章まで読み,次の日の行き帰りのバスで読み通しました.紙の本も欲しいなと思いまして,土曜日,ヨドバシAKIBA有隣堂で入手しました---「地方行政」(D-19-1)のところに,平積みになっていました.
書影にもあるとおり,著者は堺市長です.現在2期目です.1回目は2009年に,橋下徹大阪府知事(当時)の支援を受けて当選し,2回目は昨年,維新の候補と対決する形で,そして大阪市長に変わった橋下氏を敵に回して,当選しています.経緯*1についてはこの本でまとめられていますし,新聞やWebでも確認できますが,p.91に書かれている,1回目の市長選に関する2つの誤解と事実は,大事なところです.


中盤に,「読者を選ぶ記述」がありました.

例えば、堺区の湊という地域には、古い住宅が密集していて、災害対策上、町の整備が必要になっている。このことが議会で取り上げられた時、「湊」と聞けば、場所はもちろんのこと、その密集市街地の様子がすぐ頭に浮かび、「こりゃ、なんとかせなあかんな」と私には直感的に思えたし、議員や地域の方々の思いが、すぐに分かった。きっと、堺市出身の市長でなければ、その辺りがピンと来なかったのではないだろうか。そういったことを繰り返していくうちに、議員の皆さんも「市長は堺市のことが判っているな」と思ってくれたのではないかと思う。
(p.84)

湊というエリアの選定*2や,災害対策という課題,堺市出身の著者の自負,そして市長が議員と信頼関係を構築するためのプロセスの一端まで,この段落に集約されているのでした.
そんなこんなで,タイムリーな本だと思います.首長を目指す人,自治体のあり方に関心のある人は買うべきですし,そうでなくても,住んでいる自治体(堺市でなくても)の首長が日々,何を考えて行動しているかを知りたいという人にもおすすめです.ただ,「政敵」への記述に深みはありませんので,わくわく感を得るにはフィクションを買って読むほうがいいとも感じました.


内容に関して,当ブログで過去に書いたものと照合しながら,見ておきたいのはLRT廃止の件です.まずは『訣別』から:

私は、九月の市長選挙で、このLRT計画の中止を最重要公約として掲げていた。そして選挙で勝利した。当然、この公約を果たすべく、この六七億円の減額予算を提案した。要するに、白紙に戻すということだ。
確かに、私も堺市内の東西交通の重要性、必要性は認識していた。今でもしている。
しかし、総額四二五億円にも及ぶ巨額の事業である。当然、費用対効果は十二分に検証されてしかるべきである。そこに大きな疑問があった。
まず堺浜と堺駅を繋ぐ約五・二キロメートル。堺浜にはシャープ堺工場や、サッカーのナショナルトレーニングセンターの建設が決まっており、そこに人を運ぶ役割も期待されていた。だが、臨海部は渋滞もなく、バスでも問題は少ない上、路線周辺には住宅地も少なく、採算性がきわめて疑問だった。
堺東駅堺駅間は約一・七キロメートル。堺市中心部の主要駅である。この二駅が鉄軌道で繋がっていれば、それ自体は「便利だ」というのは分かる。
しかし、現時点でもシャトルバスが走っており、定時性もかなり確保できている。また、LRTが走ることになる、堺市のシンボルロード・大小路が、これにより片道だけの一方通行になってしまうなど、地域住民にとって、本当に便利になるのかどうか、疑わしくもあった。
何よりも、私は大学生になって堺市に離れるまでこの界隈に住んでおり、毎日徒歩で通学していたし、自転車で行き来した道だった。机上の計算はもちろんのことながら、そういう肌感覚として、このLRT計画はおかしいと思っていた。
(pp.70-73)

過去に書いたのはというと:

第二は、大小路筋にLRTという鉄軌道をつくるということです。大小路筋は一・七キロ。一・七キロを、私は高校時代に歩いて通った。その歩けるところに、なぜ鉄軌道をつくるのですか? それも八十五億円かけてつくる。そんな馬鹿なことが許されますか?
(我、知事に敗れたり―2009年9月堺市長選, p.33)

私は高校時代に歩いて通った

『訣別』では,LRT事業廃止の理由やアクションなどを2014年の視点で冷静に振り返っているのに対し,『我、知事に敗れたり』の上記引用*3は,市長選にあたり新人が現政策をこき下ろす一節となっています.
それぞれの意図は異なりながらも,2つを読んでやはり,「私は高校時代に歩いて通った」「肌感覚としておかしい」は自分自身,公言してはいけない表現として心に刻み,母と兄夫婦らが住まう堺市の今後を見守ることにします.

*1:書名について,何と訣別し,何とは訣別するつもりがないかは,あとがき(p.242)をご覧ください.

*2:私も,湊と言えばあのあたりねと思い浮かぶのですが,それは中学校の校区だったのが大きな要因です.ところで,南海本線に「湊」という駅があります.なので,多くの読者にとって,場所は調べられるものの,その地域が実際にどうなっているかは,現地に行かない限り分かりません.地域を選んで本に記載するにあたり,こういったところにも配慮があったのでしょうね.余談ですが,堺市には「堺」「湊」「鳳」と,1文字駅が3つあります.堺と湊は南海本線で隣どうし,そして鳳はJR阪和線の駅です.

*3:句読点を,ブログ記事では「.,」だったところ,「。、」に変更しました.句読点の字形に注意しながら引用する習慣がついたのは2011年ごろからです.