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正方形は長方形である vs 正方形は長方形でない

「正方形は長方形である」と「正方形は長方形でない」の形式化を行ってみます.
まず,正方形全体からなる集合をS,長方形全体からなる集合をRと書きます.黒板やノートにかかれる正方形・長方形も,それぞれそう見なせるなら,SやRに属するわけです.
もっと精密にするなら,例えば(これを常に採用するわけでない,と断りを入れた上で),S={{(0,0),(a,0),(a,a),(0,a)}|a>0},R={{(0,0),(a,0),(a,b),(0,b)}|a>0,b>0}と定め,実際の図形を2次元座標にマッピングするのは,その図形がSやRに属するか否かを判定する人が行うことにすればいいでしょう*1
「でない」のほうから,式をつくっていきます.「正方形は長方形でない」は,S≠Rで表されます.
正方形と長方形を区別する記述として,学習指導要領解説に見られる「正方形はみな形が同じ」は,全称記号∀と相似の∽を用いて,∀t1∈S ∀t2∈S t1∽t2と表せます.
もし,合同(相似で,相似比が1:1の場合)を相似とみなさないなら,合同記号≡を加えて,∀t1∈S ∀t2∈S t1∽t2∨t1≡t2とすればいいでしょう.
それに対し,「長方形は形が異なる」は,¬(∀t1∈R ∀t2∈R t1∽t2)=∃t1∈R ∃t2∈R ¬(t1∽t2)です.*2
つぎに「である」のほうを.「正方形は長方形である」は,t∈S→t∈Rと書けます.
全称記号を使うなら,∀t∈S t∈Rがその一例ですが,少々分かりにくいので,x∈RをR(x)と書くのを認めると,∀t∈S R(t)とできます.
t∈S→t∈Rに全称記号を入れ,∀t(t∈S→t∈R)と表すと,これはS⊂Rと同値です.この関係は,「正方形は長方形に含まれる」や「正方形は長方形の仲間である」を表します.
「正方形は長方形に真に含まれる」を言うには,¬∀t(t∈R→t∈S)=∃t(t∈R∧¬t∈S)が真である---これはS≠Rの根拠にもなります---ことも,押さえておく必要がありますが,t={(0,0),(1,0),(1,2),(0,2)}を挙げれば十分でしょう.


ここまで書いてきた論理式を,図形(t∈S,t∈R)に関するものと,図形の集合(S,R)に関するものとに,振り分けて整理しておきます.

  • 図形に関する論理式:
    • 正方形はみな形が同じ:∀t1∈S ∀t2∈S t1∽t2
    • 長方形は形が異なる:∃t1∈R ∃t2∈R ¬(t1∽t2)
    • 正方形は長方形である:t∈S→t∈R,∀t∈S R(t)
    • 正方形は長方形に含まれる:∀t(t∈S→t∈R)
    • 正方形は長方形に真に含まれる:∀t(t∈S→t∈R)∧∃t(t∈R∧¬t∈S)
  • 集合に関する論理式:
    • 正方形は長方形でない:S≠R
    • 正方形は長方形に含まれる:S⊂R

これにより,「正方形は長方形である」を言うときの正方形は,個別の図形(t∈S)を指し,「正方形は長方形でない」と言うときの正方形は,集合(S)に関するものだと,あらためて確認することができます.
なお,この記事は,小学校の算数が「正方形は長方形でない」に基づいており「正方形は長方形である」と指導していないことの根拠づけを目指したものではありません.記号を多用した議論が,小学校はもちろん,教師向けの算数・数学の書籍に見当たらないので,自分なりに書いてみた次第です.あえてメリットを探るなら,「正方形はみな形が同じ」(長方形はそうとは限らない)が形式化できるという効果は,挙げてもいいのかもしれません.

長方形では,2つずつ,角が合うようにして,折り重ねると,長方形ができます.しかし正方形に対して同じ操作をしても,正方形にはなりません.紙を使って,簡単に実演できます.

正方形と長方形

これも,折り重ねることに対応する写像f:R→Rを導入することで,記述ができます.t={(0,0),(a,0),(a,b),(0,b)}∈Rに対して,f(t)={(0,0),(a,0),(a,b/2),(0,b/2)}とすると,f(t)∈Rです.しかし,s={(0,0),(a,0),(a,a),(0,a)}∈Sのとき,f(s)={(0,0),(a,0),(a,a/2),(0,a/2)}∈Rであり,f(s)はSの元とはなりません.

*1:平行四辺形を,原点を含む4つの頂点からなる集合として同様に構成し,2次元平面上の平行四辺形やひし形が与えられたときに,その集合の元となるようなアフィン変換(行列)を求めるのは,情報の学部生向けの練習問題になりそうです.

*2:∀t1∈R ∃t2∈R ¬(t1∽t2)も成立し,「すでにある長方形と,違う形の長方形がかける」を意味します.∃t1∈R ∀t2∈R−{t1} ¬(t1∽t2)や∀t1∈R ∀t2∈R−{t1} ¬(t1∽t2)は偽となります.