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正方形と長方形・まとめ (2018.04)

目次

  • きりぬき
  • 新しい『小学校学習指導要領解説算数編』より
  • リンク集
  • トピック1: 正方形と長方形の紙を折って,箱を作るには
  • トピック2: 排反的な(exclusive)定義と包摂的な(inclusive)定義
  • トピック3: オーダーとの関わり

きりぬき

第2学年で,長方形や正方形を学習する時点では,それらを区別すること,すなわち正方形を長方形の仲間に入れないという指導・採点の方針に,賛同します.その段階では包摂関係への理解よりも,弁別できることが望まれているからです.算数教育の用語をできるだけ使わずに書くなら,正方形を見て,「これは正方形だ!」と認識・判断できることを,同じ図形を見て「これは長方形だ!」と認識・判断できることよりも,重視したいのです.
その一方で,正方形は長方形の特殊な場合であることを知っておけば,複合図形の作成・分割(分析)や,面積計算に役立ちます.「長方形の面積=縦×横」「正方形の面積=一辺×一辺」と,図形ごとに異なる公式を常に当てはめるよりも,正方形だって縦×横を適用して面積を計算すればいいじゃないかというわけです.これも支持したいのですが,一つ注意があって,長方形の面積は縦の長さと横の長さに別々に比例するけれども,正方形はそうではない---“別々に”といかない---といった違いも,忘れないようにしたいところです.
数学的な観点では,「正方形は長方形である」を論証するには,集合の包含をはじめとする取り決め(定義と言ってもいいでしょう)が必要となります.算数教育の歴史において,集合は「数学教育の現代化運動」の影響を受け1970年代前後に指導されたものの,ブームが去ったのち,集合の概念,そして図形の包摂関係は,陽には扱われていないようにも感じています.
また形式的には,正方形全体からなる集合をS,長方形全体からなる集合をRと書いたとき,「正方形は長方形である」は,t∈S→t∈Rと表せるのに対し,「正方形は長方形ではない」はS≠R,もしくは∃t(t∈R∧¬t∈S)です.∀t(t∈S→t∈R)と書いたら,これはS⊂Rのことです.
以上より,算数教育においては「正方形は長方形である」と言うよりも,「正方形は長方形のなかまである」と言うのが,適切だと認識しています.学習(クラスで共有)するなら第4学年,長方形の面積の近辺です.

正方形は長方形・まとめ(2014.11+)

「正方形は長方形である」と「正方形は長方形ではない」について,集合を用いた書き分け(正方形全体および長方形全体からなる集合をそれぞれ,SおよびRと表したとき,「正方形は長方形ではない」はS≠R,「正方形は長方形である」はt∈S⇒t∈R)が個人的には好きなのですが,少し思案しまして,新たにPowerPointで図を作ってみました.

ななめの長方形と正方形

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 問題は,「立方体アイウエ-カキクケの4点アキクエを結んでできる図形の名称を答えなさい」と書くことができます。
 図4のあとに,著者と生徒とのやりとりがあります。

「平行四辺形です」
 高校生でもこう答える人がいる。答えは長方形。図を見てだまされるようではだめだ。三次元空間の立体を頭でイメージできる能力が必要となる。

立方体を斜めに切ると〜『お母さんは勉強を教えないで』より - かけ算の順序の昔話

図形の定義には,「正方形と長方形とは別物である」とみる背反的な定義と,「正方形も長方形である」という包摂的な定義がある。両方の見方に光を当てていきたい。身近な生活場面では,背反的な定義の方がコミュニケーションにおいては有効である。例えば「長方形を持ってきてください」という依頼に対して,包摂的な定義を基に,正方形を持ってきてもらわれても困るわけである。包摂的な定義だけであれば,「正方形でない長方形を持ってきてください」とお願いしなければならない。逆に,論証においては,包摂的定義のほうが有効である。例えば,「***が平行四辺形であることを証明しなさい」という問題があった場合,背反的定義であれば,2組の向かい合う辺が平行であることを証明するだけでは不十分で,長方形,ひし形でないことまでを証明しなければならない。昭和40年代の現代化の頃は,包摂的定義が小学校で指導されていたが,現在は,中学校での指導内容となっている。

(略)
明快さ,シンプルさは,それぞれの定義「だけ」では手間がかかるという,事例の指摘が,それぞれに対して示されているところにも,現れています.

正方形でない長方形を持ってきてください

平成21年度から2年おきに4回分,この出題形式であり,東京都内の広い範囲の小学校で児童が解答し,先生方が集計していることから,長方形を選ぶ問題で正方形を含めることは,都内の小学校においてなされていないと推測できます.

弁別において正方形は長方形ではない〜都算研平成27年度学力実態調査より

GIFアニメーションを作ってみました.

正方形から長方形

新しい『小学校学習指導要領解説算数編』より

小学校学習指導要領解説:文部科学省からだと,算数編 p.121に,『小学校学習指導要領解説(平成29年告示)算数編』でも同じページに,以下の箇条書きと図が載っています.1番目と2番目の項目に出現する「長方形」は,正方形でないものが想定されます*1

  • 右の図のような格子状に並んだ点を結んで,正方形,長方形,直角三角形をかく活動を通して,図形を構成する要素の特徴を捉えさせること。
  • 右のような長方形の紙を折って正方形を作るなどの活動を通して,図形を構成する要素に着目し,4辺の長さが等しくなることや角が直角となる理由を説明する力を育てていくようにすること。
  • 右のような紙の四か所を直角に折っていって,長方形を作る活動を通して,図形を構成する要素に着目させること。

トピック1: 正方形と長方形の紙を折って,箱を作るには


先の動画では,正方形の紙を使用します.(正方形でない)長方形の紙だと,最初の「折りすじをつけます」で立ち行かなくなります.
あとの動画では,(正方形でない)長方形の紙を使用します.正方形の紙だと,2分36秒あたりからの折り曲げができず,この作業を省略すると,開いたときにとても不安定な箱になってしまいます.

トピック2: 排反的な(exclusive)定義と包摂的な(inclusive)定義

日付によると2001年〜2002年で,Dr. Mathへの質問とその回答という形式をとっています.前者では,長方形と正方形について,INCLUSIVE DEFINITIONS(包摂的な定義)とEXCLUSIVE DEFINITIONS(排他的な定義)を示し,一般化の観点から前者を好むと回答しているほか,三角形を対象として二等辺三角形(isoscele)と正三角形(equilateral)の話においても,包摂的な定義のほうが都合が良いとしています.後者では,長方形(rectangle),菱形(rhombus),正方形(square)それぞれの辞書による定義を紹介した上で,包摂的に定義されている(There's no doubt that that is defined inclusively.)ことを指摘しています.
ところで,本記事の「きりぬき」の中で,ある文献*2を引用して「背反的」と書いていますが,これは原文ママでした.とはいえ,exclusiveとinclusiveという対比で言うならば,「背反的」よりは「排反的」,あるいは「排他的」と書くほうが良いようにも思います.

トピック3: オーダーとの関わり

算数教育指導用語辞典』p.45に書かれた「各図形の名称については,次のように決められている。すなわち,一般の図形の集合から,条件が付加されて特殊な図形の集合が作られたとき,その特殊な図形の集合に名づけられた名称が,その図形の名称となるということである。例えば,長方形も正方形も平行四辺形の条件はもつが,平行四辺形とよばず,付加された条件でできた集合の名称を用いるのである。」について,情報工学でほんの少し,配慮すべき事項と,関わりがあります*3
俗に「オーダー」と言いますが,より正確には「ランダウの記号」です*4wikipedia:ランダウの記号wikipedia:en:Big_O_notationより,形式的な定義を取り出します.

ここで,f(x)=x^3+3x^2+5x+7を考えてみます.普通はf(x)=O(x^3)なのですが,g(x)=2^xとしても,上記の定義を満たします.ですので,f(x)=O(2^x)と表せます.xを入力サイズとし,f(x)を時間計算量と見なすと,このf(x)は,多項式時間関数なのは明白ですが,「指数時間だ!」と主張できるわけです.
これについて,f(x)=O(g(x))とイコールで結ぶかわりに,f(x)∈O(g(x))のように,関数の集合としてO(*)を定めたとき,O(x^3)\subset O(2^x)であることが背景にあります.
この包含関係の左辺を正方形全体からなる集合,右辺を長方形全体からなる集合,そしてf(x)を,弁別の対象とする図形に関連づけると,f(x)∈O(x^3)かつf(x)∈O(2^x)は,「この図形は,正方形であり,しかも長方形だ」と対応します.そして「その特殊な図形の集合に名づけられた名称が,その図形の名称となるということである」を,解析の用語に置き換えることで,「この図形は正方形」「普通はf(x)=O(x^3)」となる次第です.
実際のところ,x^3=O(2^x)と表記することの意義というのは,想像もつきません.アルゴリズム理論においてオーダーは,計算量を単純な形で表記するほか,アルゴリズムの改良を通して計算量をより小さい関数で表すために使用されます.
x^3=O(2^x)といった書き方を排除するには,たとえばOの代わりにΘ(大文字のシータ)を用いれば,x^3+3x^2+5x+7\in\Theta(x^3)であり,x^3+3x^2+5x+7\not\in\Theta(2^x)となります.個人的にΩやΘを用いた記法も,学部時代に学びましたが,現在そこまで教える必要もない---気になる人はWikipediaや書籍を参照すればいい---と感じています.
担当授業ではP≠NP予想を解説するにあたり,「2年の授業でオーダーは学習していると思いますが」と断った上で,形式的な定義と,xy平面上にf(x)とg(x)を描いた直感的な見方を,1枚のスライドにし,「g(x)には簡潔でタイトな関数を選ぶ」と注意書きを入れています.具体例や,O(1) < O(log n) < O(n) < O(n log n) < O(n^2) < O(n^3) < … < O(2^n) < O(n!)といった序列についても,取り上げています.

*1:3番目の項目の「長方形」は,正方形になってもかまいません.学年や実施内容は異なりますが,https://ameblo.jp/mathsansuu/entry-12502744798.htmlの「あっ,正方形になってしまった。」が関連します.

*2:池田俊和: 平面図形の指導における教材の見方, 算数授業研究, Vol.106, pp.12-15 (2016). [isbn:9784491032610]

*3:このトピックは,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20160130/1454106635の最後の段落で書いたことを詳細化したものとなっています.

*4:昔書いたのは:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20080608/1212877319