「そろそろ,寝る時間やな」
「パパ〜,おはなしよんで〜」
「かみしばい〜〜」
「ふーむ,そしたら,パパが創作の紙芝居をやっちゃろか」
「やったあ!」
「よんでよんで!」
「いちおう紙芝居風にストーリーを作るが,あいにく紙はないからな.お話を聞いて,思い描くんやぞ」
(1)
いまは平成ですが,昭和のはじめのお話です.
日本一大きな湖,琵琶湖(滋賀県な.ときどき行くやろ)のそばに,男の子が生まれました.
ヒデオと名付けられ,すくすくと成長しました.
小学生だったときの途中で,終戦を迎えました.
ヒデオは,五男三女のうちの三男でした.
上の2人の兄と,学校へ行く前,帰った後には,田んぼ・畑の仕事をしました.
8人のきょうだいの中で,一番体が大きい青年になりました.
(大きいっちゅうても,背ぇは今のパパくらいで,体は締まっててんけどな.)
(2)
高校を卒業してすぐ,滋賀県を離れ,大阪に働きに出ました.
運転免許をとり,ミキサー車の運転をするようになりました.
そんな中,働いていた会社で,労働争議が起こりました.
「社員の首を切るな!」「仕事をさせろ!」
会社の社長,そして親会社との戦いです.
ヒデオは,労働者の側で,争いの最前線に立つとともに,会計という,お金を集めて管理することもしました.
(みんなから信頼されていないとできない,大事なつとめなんだよ.)
けっきょく,裁判で勝利しました.
(3)
労働争議をしている中で,ヒデオは一人の女性と知り合い,結婚しました.
そして2人の男の子に恵まれました.
(女性は,あっちのおばあちゃんな.2人の男の子のうち,1番目は,あっちのおばあちゃんのお隣に住んでて,2番目っちゅうのはパパやねんで.)
(4)
ヒデオは動物好きでした.
独身(結婚するより前)のとき,休みをとって,天王寺動物園で1日過ごしたこともありました.
家を構えてからは,近所でネコを見かけると,「にゃん吉」と呼びかけていました.
大きなネコ,毛並みの良いネコ,子ネコ,どんなネコにも「にゃん吉」でした.
(「にゃんきち!」「にゃあにゃあ!」あ〜はいはい,お前らもネコ好きなんな.)
(5)
それからヒデオは会社をつくり,社長になりました.
プレハブと呼ばれる建物を,組み立てたり,きれいに取り除いたり,資材をトラックに積んで運んだりしました.
2人の男の子も,小学生のときから連れられ,手伝いました.
従業員を雇い,クレーン付きのトラックを購入し,倉庫をかねた駐車場を借りながら,会社を成長させていきました.
良い場所を見つけて,畑を耕しました.
6月は,エンドウマメだらけでした.
(マメの皮むきをして,ごはんに卵とじに汁物に食べていってやな….)
(6)
ヒデオは兄の言うことに反対せず,弟と妹を大事にしました.
親類の集まりには参加し,食事をとり,そのあとは囲碁を打って,くつろいでいました.
下の男の子は,ヒデオから将棋を覚えました.
親類の集まりでは,おじさん(ヒデオの兄の一人な)と指すようになりました.
(7)
体も心も強かったヒデオですが,年齢を重ねて,そのままとはいかず,骨折して入院することもありました.
ある夏の夜のこと.「体がおかしい」と言い出して,病院へ連れて行ったものの,間に合いませんでした.
57歳で,人生を終えました.
(8)
その後.
2人の男の子は,成長して結婚し,4人の女の子と1人の男の子ができました.
ヒデオは,天国で私たちの成長を,見守ってくれているに違いありません.
(せあけどな,あの親父,「死んだら無や」と言うてたらしいんよなあ.)
おしまい.
最後にネコ出しとこか…にゃあ!