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「組体操は学習指導要領に記載がない」を起点に

自分にとって「小学校」というと,うえの子が今年からお世話になっているところ,というのが真っ先に思い浮かぶのですが,ある人から何度か聞かされた話もあります.
その人の父方の祖父は,小学校の校長先生をなさっていました.そんなとき,ある児童が,鉄道事故で残念なことになったと連絡が入りました.亡骸の,主だったところの回収は,警察が済ませたとはいえ,現場には残留し散乱するものもあります.親御さんはショックのあまり何もできません.そこで学校の方に,となって,校長先生が引き受けました.
太平洋戦争で中国に渡り,部下を持ち,また時には戦友を弔ったりした経験があるものの,平和が訪れた日本において,校区内で教え子の破片を拾いあげるのは,つらいの一言で表せるものではなかったと,伝え聞きました.
それはそれとして,組体操でまた,記事を書くことにします.『教育という病 子どもと先生を苦しめる「教育リスク」 (光文社新書)』で書かれ,またWebで読める組体操記事で本人もよく示している,「組体操は学習指導要領に記載がない」が,気になってきました.
まずは小学校学習指導要領解説 体育編のPDFファイルをダウンロードし,ざっと見たところ,「組体操」またはそれに類した語句は,たしかに見当たりません.
完全にないと,著者は言っているわけではなく,『教育という病』のpp.59-60で,次のとおり「あえて」を挙げています.

組体操を、あえて小学校の学習指導要領に関連づけるとすれば、それは5年生と6年生の「体つくり運動」における「体力を高める運動」の1つに該当すると考えられる。そこには、さまざまな「体力を高める運動」の一例として、「二、 三人組で互いに持ち上げる、運ぶなどの運動をすること」が記されている。
しかし、それ以上のものではない。つまり、数十人あるいは100人を超える人数で巨大な人間オブジェクトをつくることは想定されていない。

内容に同意した上で,「二、 三人組で互いに持ち上げる、運ぶなどの運動をすること」を,小学校学習指導要領解説 体育編で調べ直すと,http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2011/01/19/1234931_010.pdf#page=64にあるのが分かりました.
新書はこのあと,教育委員会の見解や,教育としての組体操の問題点へと移っていきますが,個人的に,安全性とインパクトを両立させるような,組体操の技はあるのかなと検索していくと,1つ,気になるものを見つけました.
以下の本*1で「クイックピラミッド」と書かれている,6人技です.

子どもも観客も感動する! 「組体操」絶対成功の指導BOOK

子どもも観客も感動する! 「組体操」絶対成功の指導BOOK

やり方は次のとおり(p.47).

ポイントは,このピラミッドが決まったときの2段目の人の姿勢です.中腰なのです.
素直に思い浮かぶ,3段のピラミッドというと,まず下に3人が四つんばいになり,その上に2人が乗って四つんばいになり,そして最後に1人が乗る*2…なのですが,それではクイックにできません.「せーの」の号令の次の瞬間,最下段の3人は四つんばいになり,2段目は中腰,そして上に来る1人は,2段目の2人の背中に跳び乗ることで,すぐに3段のピラミッドができる,というわけです.
動画で詳しく解説されています.

よしのよしろう(吉野義郎)という指導者の名前は,先日の記事にも書きましたが,1年前のツイート*3が最近ホッテントリ化していました.
クイックピラミッド,または3段ピラミッド一気立ちには,「ポップアップピラミッド」という別名と,「ウィングピラミッド」という発展形もあります.これも,動画を.

技としてのポイントは,ポップアップピラミッド(クイックピラミッド)が出来上がれば,最下段の端の2人が離れても崩れない点でしょう.離れたとき,2段目の人の外側の手を,肩の高さまで挙げて伸ばすのは,ポーズというだけでなく,2段目の背中の安定性に寄与しています.
この技を公開した埼玉県組体操協会についても,『教育という病』p.66で言及されています.大ピラミッド,ポップアップピラミッド,ウィングピラミッドを列挙しているのは,組体操DXY!*4と思っておけばいいのでしょうか.
関西体育授業研究会の本をざっと見て分かる情報を書いておきます.ピラミッドの段数は7段*5で,裏表紙に写真があるほか,「55人ピラミッド」と題して,つくり方はp.75に載っています.安全面のポイントとして,補助は真後ろに1人以上,斜め後ろに1人ずつ以上とのこと.
では表紙は何かというと,トラストフォールという技です.上になる子が,寝ている状態から立ち上がっている写真です.つくり方はp.72にあり,後衛の投げ役は6人を要しています.足を支えるときの手の形や,乗り手・上げ役に分かれての練習など,注意事項が細かく書かれています.
目次はAmazonなどを見てもらうとして,第2章は,1人技から10人技まで,それと多人数技・特別技に分類して,各技を男子または女子のイラストで示しています.1人技は,直立ピン,十字,A(エー),Y字,ジャーン,あっち,K(ケイ),十字バランス,アンテナ,ロールケーキ,一人シンクロ,一人シンクロ2,かぎかっこ,馬,馬キック,コの字ピン,L字ピン,ブリッジ,サマーソルトキック,ダイブ,テーブル,弓,カエル倒立,V字バランス,V(ブイ),あおむけ,坂道,足上げピン,空へだっこ,Y(ワイ),T(ティ),腕立て,ななめ十字,逆腕立て,しゃちほこ,ゆりかご,飛行機,おすもうさん,バレエ人形,の39種類*6,2人技は,サボテン*7ジャイアントスウィングから始まり,全36種類です.
後ろのほうには,隊形や楽曲の例が載っています.それで,p.108によると,55人ピラミッドは左右または前後に並べて2個,つくる隊形となっていました.55人,または110人になるよう,児童・生徒の数を調整するのは難しそうなのですが,何らかの選抜をして,できる子だけが,正面に顔を向けることになるのでしょうか.
最後に,古い学習指導要領の組体操から2件.http://www.nier.go.jp/guideline/s24ep/chap2.htmで「徒手休燥」を探し,少し進めると組体操の2人技と3人技が画像になっています.1人が倒れそうでもう1人が倒さないようにするという2人技は,前述の本には見かけませんでした.もう一つ,http://www.nier.go.jp/guideline/s28ep/app.htmの中に3度,「ピラミット運動」が見られますが,ドではなくトなのはなぜなのかも,具体的にどう行動してどんな「ピラミット」をつくるのかも,得ることができませんでした.


Q: 組体操の安全性は?
A: ここまで当記事をご覧いただき,なおリスクが不安という方は,7段ピラミッドでの負傷事例を収集整理したり,その段数で土台の負荷量を算出したりしてみてはいかがでしょうか.
Q: 組体操に関するあなたのスタンスは?
A: 一言でいうと「ボトムアップ」です.大型のピラミッドやタワーの危険性(報道を含めて)は関心のある人に任せて,自分はというと,自身と家族(とくに子ら)の健康と安全を考えてみたときに,1〜2人で行える組体操の技が有用そうというのが,『「組体操」絶対成功の指導BOOK』から学んだことの1つです.もう少しだけ人数(そして技の難しさやリスク)を上げたときに,着目すると良さそうに思えたのが,「クイックピラミッド(3段ピラミッド一気立ち,ポップアップピラミッド)」「ウイングピラミッド」「55人(7段)ピラミッド」となります.

*1:書名は,『教育という病』にもp.62で書かれています.その次のページには,関西体育授業研究会の事務局が,大阪教育大学附属池田小学校にあることを指摘しています.算数に関して,当ブログ上でこの校名を挙げたのはhttp://d.hatena.ne.jp/takehikom/20140916/1410810251でした.

*2:このやり方は,次のページに載っていました.最上段は,2段目の2人の背中を使って膝立ちしているのもまた,クイックピラミッドと異なっています.

*3:https://twitter.com/RyoUchida_RIRIS/status/515069172842123264

*4:それなりに背景もあるのですが,関心のない人はDXY!を憎しに読み替えてください.それはそれとして,3つのピラミッドのうち,ポップアップピラミッドだけ,つくって崩すのを,リズミカルに繰り返し行えます.小学校学習指導要領解説 体育編に書かれている「『動きを持続する能力を高めるための運動』とは,一つの運動又は複数の運動を組み合わせて一定の時間に連続して行ったり,一定の回数を反復して行ったりすることによって,動きを持続する能力を高めることをねらいとして行う運動」を満たす技,と言えます.

*5:『教育という病』p.63に記載の数と一致します.実施校ではこれが,安全性と実施効果のバランスをとった段数ということでしょうか.

*6:書き出したのは,そのうち子らに試させ,自分でも1個1個できるかなと,体を動かしてみたいからです.

*7:Web上で,失念しましたがこの技でケガをしたというのを読んだことがあります.同書で,なぜ2人技の最初にあるのかというと,1つは技のインパクト,もう1つは手順や「成功に導く言葉かけ」などを詳しく書いて,次ページ以降の2人技との差別化を図っているためと推測します.