いきなりですが問題です.
二等辺三角形には当てはまるけれど,正三角形だと当てはまらないことは,何でしょうか.小学生でも分かるものを,挙げてください.
論理的には,二等辺三角形に対して成り立つ性質は,正三角形も満たします.そこで少々トリックを必要とします.
何年か前に,「長方形(正方形を含みます)には当てはまるけれど,正方形だと当てはまらないことは,何でしょうか.」という出題と答えを,書いていました.この答えは,「長方形では,2つずつ,角が合うようにして,折り重ねると,長方形ができます.しかし正方形に対して同じ操作をしても,正方形にはなりません.紙を使って,簡単に実演できます.」でした.
これをアレンジして,冒頭の問題に適用すると…
数学的には,例えばこうです:任意の二等辺三角形について,そこから1つの辺と,三角形内部の1点を適当に選ぶと,それらにより二等辺三角形を得ることができます.しかしどのような正三角形に対しても,その1つの辺と内部の1点が周上にあるような,正三角形を得ることはできません.
この答えには注意すべきことが2つあります.まず「適当に」は,日常用語の「いいかげんでいい」ではなく,数学の用語です.「もとの二等辺三角形から,また別の二等辺三角形をつくれるよう,1つの辺と,三角形内部の1点を選ぶことができるよ」と言い換えられます.もう一つは,二等辺三角形なら満たす性質として書いた中で,2度,出現する「二等辺三角形」を,ともに「正三角形」に置き換えている点です.2回目のほうを変更せず,「任意の正三角形について,そこから1つの辺と,三角形内部の1点を適当に選ぶと,それらにより二等辺三角形を得ることができます」と書いたら,これは正しい主張となります.
話を戻して,「任意の二等辺三角形について,そこから1つの辺と,三角形内部の1点を適当に選ぶと,それらにより二等辺三角形を得ることができます」を,小学生でも確かめられるよう,手順にしましょう.まず,二等辺三角形(正三角形ではないものとします)に切り抜かれた折り紙を1枚,用意します.
つぎに,同じ長さの2つの辺,同じ長さの2つの角が重なるよう,折り曲げます.
それを広げます.折り目ができます.
折り目の上に,「適当に」,点を打ちます.正三角形にならないようにしましょう.
最後に,その点と底辺の両端とを結びます.
これで,二等辺三角形から二等辺三角形を,得ることができました.実際に二等辺三角形であることは,コンパスを使えば確かめられますし,合同の性質を使って証明することもできます.
正三角形に切り抜いた折り紙で,同様のことをしても正三角形を得られないのを知るのにも,コンパスは有用です.折り紙を台紙に乗せて固定し,次のように円を描きます.
新たに正三角形をつくるには,同じ長さの3つの辺が必要です.その1つを,もとの正三角形の1辺(3つの頂点のうち2つも,これで決まります)とするなら,円の中心(上図では三角形の右下の頂点)を決め,1辺の長さを半径として,円を描いたとき,その円周上に,あと1つの頂点がないといけません.ですが,円周は,この正三角形の内部に入り込むことがありません.したがって,「どのような正三角形に対しても,その1つの辺と内部の1点が周上にあるような,正三角形を得ることはできません」という結論になります.