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包含除先行

... Zweng (1964) found that children can understand the "measurement" (repeated subtraction) concept of division more readily than the "partition" (sharing) concept. ...
(Zweng (1964)は,児童らには「分割」(共有)の概念よりも,「測定」(累減)の概念のほうがよりよく理解できることを示した.)
(Anghileri & Johnson (1988). 分割と測定,累加と直積〜1950-80年代の研究概観)

この件,少し進展がありました.
一つは,木村教雄『小学算術教材ノ基礎的研究』のp.23です.

脚注に「包含除の本質は累減にあると見ることが出来る.」とあります.昭和初期の時点でも,こうだったのですね.ところで,日ごろから「本質」という言葉に抵抗感を持っているのですが,こんなところに「〜の本質は」が出てくるのも,びっくりしました.
この前後のことも,少し書いておきます.a×b=cからaまたはbを求めるのを割算と称し,いくつかの用語を定義しています.そして「次の二つの場合」として,(1)が上記の包含除です.ページをめくって,(2)が等分除です.等分除の例文は,「12銭は幾銭を4倍したものか.(四つに等分するとその一つ分は幾らか)」です.そのあと,乗法の交換法則を理由に挙げ,「積と一因数を知って他の一因数を求めるものである」と,まとめています.
もう一つは,次の文献です.

先行研究の中に,「包含除優位」と言えるものが現れています.

2.1 整数の除法に関する先行研究
Takahashi et al.(1993)は,整数の除法の理解についての調査を実施し,包含除よりも等分除の理解が困難であることを統計的に示した。整数の等分除の難しさは,分けるための単位がその場面に示されていないところにある(熊谷,1998)。熊谷(1998)は,子どもの既有の知識を基にした整数の除法の授業を構想する中で,等分除と包含除を理解していくための視点を示した。その視点とは,子どもに,同じ大きさの単位で全体がつくられていることを意識させていくことである。熊谷(1998)は,子どもが図を描く活動が,その子どもの思考の発達を促すことも示している。

統計的に示したとは,すごいなあ,と思って参考文献を見ると,「Takahashi, H. & Minato, S., Honma, M. (1993). Formats And Situations For Solving Mathmatical Story Problems. Psychology of Mathmatics Education. Proceedings of the Seventeenth International Conerence. Volum II. 191-198. に伴う未公開資料.」とのことで,容易にアクセスできそうにありません.熊谷(1998)も,収録誌の目次は見つかりましたが,本文はダメでした.
他の文献や,それらを通じて知ることのできる指導法などは,包含除と等分除 再考でまとめています.
小学校学習指導要領解説 算数編を見ると,記述としては以下のとおり,包含除が先ですが,指導や学習にあたっては,どちらが優勢というわけではなさそうです.

除法が用いられる具体的な場合として,大別すると次の二つがある。一つは,ある数量がもう一方の数量の幾つ分であるかを求める場合で,包含除と呼ばれるものである。他の一つは,ある数量を等分したときにできる一つ分の大きさを求める場合で,等分除と呼ばれるものである。なお,包含除は,累減の考えに基づく除法ということもできる。例えば,12÷3の意味としては,12個のあめを1人に3個ずつ分ける場合(包含除)と3人に同じ数ずつ分ける場合(等分除)がある。
包含除と等分除を比較したとき,包含除の方が操作の仕方が容易であり,「除く」という意味に合致する。また,「割り算」という意味からすると等分除の方が分かりやすい。したがって,除法の導入に当たっては,これらの特徴を踏まえて取り扱うようにする必要がある。なお,おはじきなど具体物を操作したり,身の回りのものを取り扱ったりするなど,具体物を用いた活動などを取り入れることが大切である。
(p.109)

しかし5年の小数の除法になると,次のように,包含除の拡張となる第一用法のほうが比較的容易,等分除の拡張となる第三用法のほうが比較的困難,となっています.

除法の意味としては,乗法の逆として割合を求める場合と,基準にする大きさを求める場合とがある。
Bを「基準にする大きさ」,Pを「割合」,Aを「割合に当たる大きさ」とすると,次のような二つの場合である。
① P=A÷B
これは,AはBの何倍であるかを求める考えであり,除法の意味としては,Pが整数の場合には,いわゆる包含除の考えに当たる。例えば,「9メートルの赤いリボンは,1.8メートルの青いリボンの何倍になるか」という場合である。式は,9÷1.8となる。
② B=A÷P
これは,基準にする大きさを求める考えであり,除法の意味としては,Pが整数の場合には,いわゆる等分除の考えに当たる。例えば,「2.5メートルで200円の布は,1メートルではいくらになるか」という場合である。式は,200÷2.5となる。
これらの式は,BやPが整数の場合だけでなく,小数の場合にもそのまま当てはまると考えていくことが大切である。このとき,多くの児童にとっては,①の場合に比べ,②の方がとらえにくい。つまり,整数の場合は,P等分した一つ分の大きさを求めるという説明で,1に当たる大きさであることが理解できたが,除数が小数の場合,1に当たる大きき(基準にする大きさ)を求めているという見方に一般化するのに難しさがある。この点については,公式や言葉の式だけでなく,数直線や図などを用いたり具体的な場面に当てはめてりして分かりやすくすることが大切である。また,はじめに乗法の式に表してから,除法で求めるという考えを用いることも大切である。
(p.167)


Q: 結局のところ,「包含除」「等分除」といった区別は,必要なの?
A: 「これはわり算で表せる!」と判断できるようになるために,用語はともかくとして,それらの典型的な場面を知っておくといいと思いますよ.
Q: 包含除・等分除と,「かけ算の順序」の関係は?
A: 順序ありのかけ算は,〈乗数と被乗数が区別される文脈〉になります.この場合,かけ算の式に対して,積と被乗数が既知のときに乗数を求めるのが包含除,積と乗数が既知で被乗数を求めるのが等分除です.順序なしのかけ算は,直積や面積などの〈乗数と被乗数を区別しない文脈〉です.この場合には,2つの因数が意味上,対等なものになるので,積と1つの因数から残りの因数を求めるという,1種類のわり算になります.
Q: じゃ,順序のないほうでいいや.
A: 日常生活で見られるかけ算は,〈乗数と被乗数が区別される文脈〉のほうが多いんですけどね.
Q: その「乗数」って,×の右にくる数のこと?
A: えっと,構文上はそうですが,意味的には,「何倍」になる数を指します.何倍かされるほう,言い換えると基準となる数量は,被乗数です.日本では,会計の話は別として,たいてい「被乗数×乗数」の形で表されます.
Q: 包含除・等分除の違いを,家庭の中で理解する方法は,ありますか?
A: 5〜6分で終わらせることができ,繰り返し行えるもの(短時間のゲームをする,1ページの問題を解く,など)を用意してください.5分をサイクルとして,6回すると,30分ですね.このとき「5×6=30」「30÷5=6」「30÷6=5」の式ができます.6分をサイクルとして,5回すると*1,これまた30分ですね.式は「6×5=30」「30÷6=5」「30÷5=6」です.どちらの場合でも「30÷5=6」という式をつくることができますが,状況が違います.前者が包含除,後者が等分除です.3年のわり算かけ算もご覧ください.

*1:各回の時間が長いと感じるかもしれませんし,早く終わって時間が余ってしまうこともあるでしょうが,6分になるまで,待ちます.