問題の前に回答です.
「自分の研究室では,4年生の卒業研究で,このテーマでやってもらおうとなったときに,はじめて,基礎となる論文や書籍を提供します.分からなければ辞書を引かせたり,ミーティングで補足したりして,対象や,おおよそ何をすればよいかなどについて,学んでもらいます.大学院に入ってから,このテーマに変更して研究を始める学生も,同様です.
で,それとは別に,担当している授業の中で,関連することを余談として話したり,演習課題に取り入れたりすることも,してきました.
一つ例を挙げると,私,情報セキュリティという科目も担当しているのですが,そこで『単一換字暗号』を解説しています.
暗号化の鍵に相当する変換テーブルの数は,使用される字種の数の階乗と,とてつもなく大きいのですが,平文が英語であれば,theという3文字の並びが,他よりも多く出現するのが分かっていまして,暗号文であっても,頻度の高い3文字の並びがあれば,対応する平文の文字はtとhとeだろう,と推測していくことによって,総当たりによらず,効率良く解読ができます.
この『3文字の並び』は,要はtrigramです.そこで学生には,N-gramのことを話しまして,研究室でやっていることと関連づけられる,という次第です.
それから,プログラミングその他で,入力となるテキストデータとして,この分野で知られた文章を使用し,そこで親しんでもらう,というのもアリだと思います」
上の回答に対する問題は,以下のとおりでした.
情報工学分野の学生が,「人文科学とコンピュータ」の研究をするために,どのような教育を行っている(または,行うべき)か?
昨日,愛知工業大学本山キャンパスで開催された,情報処理学会 第113回人文科学とコンピュータ研究会発表会*1のパネルディスカッションで出た質問です.
ただし,「この分野で知られた文章を使う」については,その場で言うことができませんでした.記憶をたどると,暗号解読のレポート課題で,「記録に残すこと,それを後に(他の人が)読むこと」を念頭に置いた題材を,使用したことがありました.
毎年恒例の暗号解読問題*1では,坂口安吾『アンゴウ』(http://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/42837_23711.html)を使いました.具体的には以下の箇所です.
二人にとっては暗号遊びのたのしい台本であったから、火急の際にも、必死に持ちだして防空壕へ投げいれたのに相違ない。自分たちの本を使わずに、父の蔵書の特別むつかしそうな大型の本を選んでいるのも、そこに暗号という重大なる秘密の権威が要求されたからであったに相違ない。
その暗号をタカ子のものと思い違えていたことは、今となっては滑稽であるが、戦争の劫火をくゞり、他の一切が燃え失せたときに、暗号のみが遂に父の目にふれたというこの事実には、やっぱりそこに一つの激しい執念がはたらいているとしか矢島には思うことができなかった。
子供たちが、一言の別辞を父に語ろうと祈っているその一念が、暗号の紙にこもっている、そう考えることが不合理であろうか。*1:日本語の文章の一節を,訓令式ローマ字に変換してから,単一換字暗号で暗号化し,ヒントとともに提示しています.
情報セキュリティの暗号解読課題と小テスト問題
本日の記事のタイトルの「CH」は,「人文科学とコンピュータ」のことです.研究会トップページに"Computers and the Humanities"という英語表記があり,その頭文字です.
以前に聞いていて,研究会のクロージングでもアナウンスのあった特集論文について,トップページからリンクをたどると,研究会ではなく,情報処理学会としての案内がすでに出ていました.
投稿締切は5月9日とのこと.以前に出した発表を見直し,投稿するとしますか!