上のリンク先を以下では「前田氏のポスト」と表記します.Xのポストとしては長文で,学習指導要領や教師らに言及しつつ,主な視点は「子どもたち」であるのが分かります.
途中に出現する「栄光学園の井本先生」について,検索すると以下のページを見つけました.
前田氏のポストを先頭から読み直して,第2段落,キーワードの羅列に目が留まりました.
つまり、「アクティブラーニング」「個別最適」「協働的」「数学的な見方・考え方」というキーワードがでたら、それがすぐに研究テーマのようになる。そして、授業の協議会ではそれが実現されているかばかりが話になる。
“The Teaching Gap”の米国の状況を連想し,ブログを検索すると,以下のページでいくらか,書き出していました.
この改革運動において米国数学教育学会が取った方策は,米国における改革に共通して見られる方法の具体例であると言えます。専門家が招集され,教職に関する研究と実践とを調べ,改革に向けた勧告を作り上げます。このような勧告は文書のかたちにされて広く配布されます。それらの文書の一つ,米国数学教育学会の「算数・数学科学習指導の専門職的基準」は,児童・生徒の学習水準の向上のためになぜ学習指導の変革が必要であるかについて,かなり明確に述べています。米国数学教育学会が描く変化は本質的なものです。
(『日本の算数・数学教育に学べ: 米国が注目するjugyou kenkyuu』p.102)その結果,教師の理解度調査は「知っている」の回答が高いものの,ビデオ撮影した授業を分析する限り,授業にはほとんど生かされていない,という展開です.
飛び飛びですが,次の2つの記述が目を引きます.学習に関する長期的にわたる改善のかわりに,限られた特性とか活動によって学習指導の成功を定義するためにこのようなことが起こるのです。このことが生じるかぎり,改革論者が最善のものとして提示した計画は期待に反した結末を迎えます。
(p.104)米国の教科教育学者は大きな変化を比較的短期のうちに求めてきました。実際,正にこの「改革」という言葉は突然の大規模変化という意味を内包しています。これに対して,日本の教科教育学者は,学習指導に関する長期にわたる漸進的,微小増加的改善が生じる方式を制度化してきました。この方式は明確な学習目標,全国的に共通なカリキュラム,および授業実践における漸進的改善に立ち向かう教師の勤勉,努力を含むものです。
(p.106)
『日本の算数・数学教育に学べ』や“The Teaching Gap”を当ブログで最初に取り上げたのはドイツは100,日本は50,米国は81です.「日本では,個人差があるのは当然のこととして授業計画を立て,同一教材での学習を基本とし」ていることは,今の学校教育との照合が必要となるかもしれません.
前田氏のポストのうち,次の事項を,自分の専門(大学教育・情報教育)に置き換えて,検討してみます.
そういう意味で、昨日のワークショップで「あなた(もしくは算数が得意な子)が考える算数の愉しさはなんですか?」と聞きました。そこで出た答えと教員として求めている算数授業にギャップがある気がしています。算数って発見があったり、苦労してずっと悩んでいたものが閃いたりみたいなところに愉しさがあるのではないかと思っています。
先月末に(したがって今回取り上げているポストが出されるより前の出来事となるのですが),学部1年生向け持ち回り授業の最終回を担当しました.科目名は「最新情報技術概論」です.実施済みの先生方の資料を見て枚数や内容に圧倒されながらも,「人文情報学」で1コマ(90分)の半分,「テスト理論(項目反応理論を中心に)」で残り半分となるよう,文字中心*1で20枚ほどのスライドを作成し,「何が最新かというと,情報そのもの,言い換えるとコンテンツ」と「最新の(またはデジタル化されていない)情報を扱うための技術は,最新でなくてもいい」を,最後(より正確には課題説明のスライドの直前)に記載しました.
課題は,自分の話した内容の要約や感想を書かせるのでは良くないと思い,以下のようにしました.
- 「n年前と現在のコンピュータ環境の違い」について,300字以上で述べなさい.
- nは正整数とし(ゼロやマイナスは不可),自分で決めること.
- 事件・製品ではなく,自分がn年前(現在),どのようなコンピュータ・情報技術・デジタルデータを見たり接したりしてきた(いる)かを中心に解答すること.
課題の意図は,「情報技術に接してきた経験を,自分の関心事として,認識すること」にあります.提出期限の翌日に,答案を回収して一つ一つ見ていき,多くがこの意図を踏まえた答案であることを確認しました.「70年前」や「2000年前」から始まる答案についても,明らかに自分が接していないことを書いているから減点とするのではなく,「自分の関心事」となっているかを見ながら,点数化していきました.
前田氏のポストより引用した,「あなた(もしくは算数が得意な子)が考える算数の愉しさはなんですか?」という問いに対して,同じ段落に「算数って発見があったり、苦労してずっと悩んでいたものが閃いたりみたいなところに愉しさがあるのではないかと思っています。」と答えを書かれています.
自分の担当した講義,そして解答してもらった課題において,各学生に,情報技術に関する「発見」,より正確には「再発見」を促す形となりました.「悩み」「閃き」「愉しさ」,そして「今後の学びへの期待」まで含めて,答案を作成し提出してくれたかどうかは,知る由もないのですが.
前田氏のポストの最初の段落のうち「学習指導要領が改定される度に現場がそれにあわせようとすること」への違和感あるいは懸念について,改訂前後の文章を見比べることで,改訂において何を重視するかを,把握しやすくなるように思っています.
小学校と中学校は平成29年,高等学校は平成30年にそれぞれ告示された学習指導要領*2で,「教育評価」ではなく「学習評価」が総則に入ったことで,「学習評価」をタイトルに含む本を見かけるようになりました(「教育評価」について書かれたこれまでの本の多くが無効化されたわけではない点にも注意).
学習指導要領解説に新たに加わった記述について,少し調べることで関連情報を知ることができたのは,個人的には大きな経験となりました.
*1:人文情報学関連では,e国宝など,公開されている実例に授業中アクセスして解説しました.
*2:見比べるには,https://erid.nier.go.jp/guideline.htmlがおすすめです.