わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

事実・推論・主張

本書が念頭に置いている「知るための本」は,読者に何らかの情報や主張を伝えようとしてして書かれているものだ.このタイプの本はおおむね次のような要素で構成されている.
(一)事実
「事実」とは,推論と主張の根拠となるもので,調査データ・アンケート結果・実験結果・過去の文献から得た情報などである.事実の命は「信頼性」である.
(二)推論
「推論」とは,事実と事実のあいだを埋める想像力,あるいは事実をもとにしてその帰結を思い描く想像力である.何人もすべての事実を保有しているわけではない.事実のすき間は推論で埋める.推論の命は「妥当性」である.
(三)主張
「主張」とは,事実をもとにした推論を積み重ねた末に,著者が到達した結論であり,おおむね「○○は××である」という命題の形をとる.たとえば,○○に「狂牛病の原因」,××に「プリオン」を代入してみれば,「狂牛病の原因はプリオンである」となる.これが主張である.主張の命は「説得力」である.
(打たれ強くなるための読書術 (ちくま新書), pp.142-143)

この本は,読書のためのアドバイスに主眼を置いていますが,上の引用は,論文を書くときにも使えそうだと思ったりしちゃったりなんかして.
事実・推論・主張の3点セットをどこに適用するかというと,何らかの提案をして,実験を行ってその評価を出して,その直後,「考察」「Discussion」のところです.実験結果と,文献の引用をもとにして,論理的な推論と適度な飛躍により,なるほどそれは面白いと言える結論を導びければいいわけです.
さらに,事実・推論・主張の3点セットは,研究の独自性を示すのにも使えそうです.かつて*1,「何を対象として」「何を使って(何を手段として)」「何をしたか」と書きましたが,この対象・手段・実施内容の3点セットが,事実・推論・主張にある程度重なるわけです.
例えば,何かしらのモノを創って実証する研究で,「すること」を先に決めて,モノを創ってから,実験環境を決めて検証するというやり方をとっても,とりあえず自分の分野では文句は言われません.しかし論文に取りまとめる際には,背景説明の中で自分の研究の適用対象を匂わせる(あるいは明確にする)必要があり,記載される順序としては,対象・手段・実施内容となります.
論証でも同様で,主張を先に決め,それから事実(根拠)と妥当そうな推論を探すというやり方自体は必ずしもまずいものではありません.しかし文章化し,批評を仰ぐためでは,事実・推論・主張がオーソドックスな並べ方*2と言えるでしょう.

*1:修士論文・卒業論文執筆へのアドバイス (1) - わさっき批評とは - わさっき

*2:ビジネス文書では,結論=主張を最初に置けと言われていますし,論文でも,イントロで背景と主張(何を主張したいのか)を書くのが自然です.