わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

論文をより良くするために

投稿論文の内容と査読プロセスをより良くするために

自分のアウトプット可能容量との戦い - 武蔵野日記経由で,査読における不採録コメントの取り扱いの難しさ - ny23の日記を知りました.
研究者が査読の話をするのは少々厄介な面がありまして,「(もちろん,自分が)投稿した論文の査読結果」と「(もちろん,他の人の)投稿論文の査読をしたこと」について,どこまで書いていいものか,どうしても迷いが出るからです.というのも,

*1:この場合,著者は一回で査読者のコメントに必要十分に応える必要がある.(自分も以前ジャーナルを書いたとき,共著者の先生からも注意されたが)査読者の指摘した内容以外を直してしまうと,再紹介が必要なって差し戻し,ということも十分ありうるので,そう意味でも(再投稿したくないなら)初回時の投稿でやれるだけのことはやったほうが良い.

は,私がはてブした*1際にはなかった---というかもし書かれていたら(そして読み落としていなかったら),『過去に「採録条件以外を修正したら落ちた」という話を聞いたことがある』なんてコメントをつけなかった---のですが.
さて,査読付きのところに投稿する場合,私は次のように考えています.まず,新規性や,ロジックの根本的なところ(信頼性)について,明確にダメな要素があれば,落ちます.新規性がダメという根拠に出される文献はえっと,killer referenceというんでしたっけ.
内容・記述はどうかというと,査読者の主観による---明確に減点ルールが定まっていない---減点法がとられている,と考えています.英語で書くとき,文法や構文のミスをしていると例えば1点の減点.ラインを割ると,十分練られていないという理由で,新規性・信頼性・有用性の検討が不十分なまま,リジェクトの結論にされてしまう,というものです.
査読者の立場で,思うところとしては,どこの学会だったかで,査読結果を書くフォームに「再査読可能ですか?」という質問があったと記憶しています.もしそういうのがないところだとしても,不採録の結論で返送するとき,査読依頼元もしくは編集委員会あてに「もし条件付き採録(または照会後判定)の結論を出された場合,再査読は 可能です/差し控えたいと思います ので合わせてお願い申し上げます」と書くと,査読者さんもメタレビュアさんも,ストレスが少々減るのではないかなと思います.…いや,判定を下す者としては,リジェクト(したくなる)率が上がる可能性があるかもなあ.

卒業論文修士論文・博士論文をより良くするために

添削された論文原稿やレポートを再提出するときの優劣について | Chase Your Dream !

放置しておいて勝手に悟って成長する人間なんてほとんどいないので,私が学生のときにしてもらったように,私も学生が書いたレポートや論文原稿を徹底的に添削することにしている.社会人ドクターに対しても容赦はしない.私より年齢が上でもだ.ごく普通の場合で,一回目の原稿は全く原形をとどめない.ただ,私が訂正してしまうと,学生が何も考えずに言われたとおりに文章を書き換えてしまい,添削の努力が無駄になってしまう恐れがあるため,何が問題かを指摘する短いコメントを付すのが普通だ.

ええ,そうですねえ,そうですねえ.

添削の最大の目的は,目の前にある原稿を良くすることではなく,学生が自分で原稿を推敲できるようになることである.

がーん.こっちと全然違う.私が学生の卒論・修論を添削する目的は,大きく分けて2つあって,一つは,学生が期限までにきちんとした内容の卒論・修論を提出できるように仕向けること.もう一つは,学生は論文を提出して(発表会も済ませて)大学を去るのを前提として*2,論文内容の中に,学会発表や,今後の卒業研究・修士の研究のネタにできるものがないかを探すことです.

<悪い学生の場合>
学生: 先生,原稿を修正したので,再度チェックして下さい.
教員: (ザッと眺めて) は? 指摘した部分が修正されてないよ. (ふざけるな!)
 
<普通の学生の場合>
学生: 先生,原稿を修正したので,再度チェックして下さい.
教員: え〜っと,どこをどう修正したの? (添削するたびに全文を読めというのか,君は? これで提出4回目だろうが)
 
<良い学生の場合>
学生: 先生,原稿を修正したので,再度チェックして下さい.修正箇所はここにまとめて(あるいは色をつけて)あります.
教員: はい,了解. (偉いじゃん!)

一部空行を詰めました.悪い学生,良い学生の教員対応は,理解できます.読むべき箇所の端に,マーカーで色をつけるよう,指示したこともあります.卒論・修論レベルで回答書にまとめさせたことはありませんが,自分がD1のときだったか,ある馴染みの方が仕事と平行してD論を書かれていて,主査の先生の修正指示に,修正するだけでなく回答書も書かないといけないので大変だ,とおっしゃっていたのを思い出します.
先ほどの『添削の最大の目的は』と同じレベルの驚愕は,普通の学生への対応の中にありまして,『提出4回目』です.出したら訂正のきかない,学会のカメラレディ原稿ならともかく,卒論・修論で,4度も原稿を受け取って読み,そのつど指導されている*3という姿に,驚きを隠せないのでした.
私の受け持ちでやっている分は,こんなルールです.

  • 卒論・修論の原稿は,Subversionで管理.各学生はそれぞれ決められたリポジトリURLで更新とコミット.管理者である私は,全員のファイルを見ることができる(ように権限を設定した)リポジトリURLで以下同文.
  • 「目次チェック」「研究報告シートのチェック*4」「題目チェック*5」「参考文献チェック」「概要・abstractのチェック」などはファイルで実施.対象学生には事前にメールでアナウンス*6.チェックする主な対象を挙げつつも,基本的にはファイルの全内容に目を通し,まずい箇所があれば個別連絡.
  • 紙ベースの原稿チェックは,提出期限2週間前に一度だけ実施.この段階の卒論原稿は,節見出しだけあって内容が空っぽということもある.書かれている語句表現への赤入れだけでなく,ないところにこれから何を調査してどう組み立てていけばいいかのアドバイスを入れることも.
  • 卒論はそれ単体で執筆するのではなく,これまでのグループミーティングの報告資料や議事録,2度の小ゼミ発表のスライドも見直しながら,必要なら切り貼りして,作るよう指示.

『指摘した部分が修正されてないよ』のストレスに関しては,私自身も昨年度,感じたことがあり,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20100221/1266694386の「2度チェック」「チェックした証明を送れ」に書きました.

*1:http://b.hatena.ne.jp/takehikom/20110210#bookmark-29470565

*2:卒論を書いて修士に進む学生もいますが,ちょっと別扱いとさせてください.

*3:受け持ち学生が一人ではないと想定します.また,4回「も」提出する学生がごく少数であるという可能性も,否定しません.

*4:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20080305/1204665219

*5:提出期限の何日か前に,発表会作成のため,学生番号・氏名のほか,卒論・修論の題目を事務方へ送ります.これを送ったら,発表会を終えて「このタイトルは変なんとちゃうか」と指摘がなされるまで,題目の変更はできません.この題目提出には,執筆が充実しているか,指導がきちんとなされているかをチェックする働きもあると,思っています.

*6:予告について:100mを20秒で走れるかテスト