わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

意識を大きく変えさせられる文書との出会い

何だったかのGoogleの検索で見つけたPDFファイルです.著者は不明ですが,県の中の部署がオーソライズしている文書である点には要注意かと思います.

問題文に書かれている数の順が,式に表すときの順と異なる問題を学習する時間などにおいても,計算の意味について丁寧に指導する必要がある。

のところを切り貼りして,はてブしました.ほかに

このような繰り返しの指導により,児童は計算の意味をより確かに理解することができるだけでなく,小数や分数の計算を新たに学習する際も,それまでと同じように「その計算を用いることができるか」を検討するという計算学習の学び方を身に付けることも可能になる。

問題の場面や答えを求める計算をどのような式に表したらよいかを考える場面などで,解を求める式だけでなく,必要に応じて関係を表す式など取り上げることが大切である。例えば,前述の問題の場合,はじめの枚数を求める式は16−7=9であるが,これを9+7=16,答え9枚と表現する児童もいる。このように表した児童は,7を足して16になる数を考え,9を見つけて9+7=16と表したと考えられる。実際に□を用いたわけではないが頭の中で□+7=16とし,□を16−7などで見つけたのである。この□+7=16は「はじめの枚数ともらった枚数を合わせて16枚」という状況をそのまま表しており,文の表現と同じ構造でわかりやすい。これが関係を表す式である。この学習はひき算の意味理解を深めることをねらいとしており,答えを求める式は16−7=9であることを理解させる必要があるが,この9+7=16も「答えはわかりにくいが,様子がよくわかる式」などとして否定しないことが大切である。
(太字は引用者)

にも,読んで感銘を受けました*1
この中では,かけ算の順序は,些細なことです.とはいえ確認しておくと,

(1mの値段)×(長さ)=(その長さの代金)などの言葉の式を立式の根拠にする場合が多いが

という記述があります.「場合が多い」については,これがないと断定となり,指導方法の特定になってしまう*2ので,それを避けるために設けた,“ぼかした”表現かなと思います.
それにしても…こういう文書を目にすると,自分がこれまで,大学の授業や研究室の指導,Webやブログで5×3の論争と称した読み書きが,なんてちっぽけな世界での苦悩なんだろうと,思わざるを得ません.
心が洗われる,とはこのことを言うのでしょう.
ただ,何も周辺知識や“思い入れ”がない状態で,この種の文章を読んでも,心に響かないのもまた事実です.他の分野で,私がこれまでに,今回と同じレベルの感動を抱いた文章,立てたエントリなどを,挙げてみます.

トリアージ」とは
救急センターを受診したお子さんに対して、まず看護師が病状を伺います。そこでお子さんの病状の緊急度を判断し、今すぐ医師の診察が必要かどうかを決定します。この過程を「トリアージ」と呼び、トリアージによって決定された緊急度に従って、診察の順番が決まります。従って、場合によっては後から受診したお子さんが先に診察を受けることがあります。また、このトリアージは、救急車で搬送されてきたお子さんにも等しく行いますので、救急車で受診した場合でも緊急度が低いと判断した場合には、待合室でお待ちいただくことがあります。平成18年には救急センターを受診した患者さんほぼ全員の38,500名がトリアージを受け、そのうち最も緊急度が高く直ちに蘇生処置が必要な患者さん(蘇生トリアージ)が約320人、緊急度が高く15分以内を目途に診察・治療が必要な患者さん(緊急トリアージ)が約3,600人でした。それ以外の約9割の患者さんはいったん待合室でご待機いただきました。救急車で来院された患者さんのうち、上記の蘇生トリアージ・緊急トリアージに該当された方は約3割で、それ以外の方法で来院された患者さん同様いったん待合室でご待機いただきました。
救急センターにとって最も重要なことは、「早急な診察・治療が必要な患者さんに、遅滞なく、精度の高い診察・治療を行うこと」だと考えております。そのためには、トリアージというシステムが必要不可欠です。皆様のご理解とご協力をお願い致します。

http://www.ncchd.go.jp/hospital/emergency/kyuukyuu.html

全国学力テスト―その功罪を問う (岩波ブックレット)

全国学力テスト―その功罪を問う (岩波ブックレット)

「こういう文書」「この種の文章」とはどういうものか,共通点を引き出してみると…

  • 執筆者(単独または複数)の専門知識や現場での経験などを背景に
  • イメージしやすい事例や数量を取り入れ
  • 優しく*3,簡潔で,しかも誤解の余地が少ない記述をしている

というのが挙げられそうです.加えて

  • リリースまでに(主たる)執筆者以外の人の目によるチェックが入っている

ことも,想像できます.
比べると,bloggerの肩身は狭いものです.言葉の間違いや,おかしなロジックは,コメントで指摘してくれるかもしれません.しかし一つの記事だとか,記事群を公表しているブログにおいて,その一貫性を保持し続けるというのは,なかなか難しいものです*4.故意にせよ過失にせよ,ノイズを入れたら,ノイズだけが取り上げられることも,私自身,経験しました*5
それはそれとして,例の論争をネタに書き続けている人は,限られた数になってきました.私自身も,教育界に影響を与えることは無理と認識した上で調査し雑文をこしらえ,数年後に小学校入学という娘にはまだまだですが,授業の余談として話し,学生に還元できた*6のは,一つの成果だと思っています.
あといくつか書いて基本的にはおしまいとし,その総括・整理と,自分の文章力の向上を兼ねて,PDF化を試みるとします.

*1:長くなるので引用を避けますが,教育展望第45号(平成19年4月)「算数科,数学科における話し合い活動の充実」の最後の3つの段落も,読んで勉強になりました.

*2:教育的配慮もあるでしょうが,それよりも,そこの文章の小見出しが「(1) 立式する際の手立てを複数指導する」なので,これと矛盾する記述をするわけにはいきませんね.

*3:野暮なツッコミを承知で…「トリアージとは」の引用について,1文1文は分かりやすいのものの,段落は大きいなあという印象があります.ブログで書くのなら,4つくらいの段落に分けたいものです.

*4:もちろん,ブログとして書くことのメリットはあります.書き言葉なのに,感情的な表現が使い放題であることは,真っ先に挙げられると思います.情報を書き足し書き足し,アドバイスを得てまた書き足し,リアルタイムかつインタラクティブに成果ができるという魅力もあります.

*5:その一方で,私自身が今見直せば,心ないと思わざるを得ないようなコメントを,どこかにつけていたかもしれません.

*6:駄文にゅうす(現在は,http://ariel.s8.xrea.com/news/2011_01.htm#20110105)にリンクされたことも,書く励みになっています.今年に入ってから,合計4項目・6つのエントリへのリンク,感謝です.