この4月からは,例年になく忙しくなります.某ゼミの担当が回ってきましたし,2年ごとの1年ゼミもあります.Cプログラミングの補習は,(実質的な)主担当が一巡したので,また目を光らせるとします.ゴールデンウィーク明けに国際会議発表が控えています.講義,研究室運営も,怠るわけにはいきません.
そんな中,今考えているのは,1年ゼミの輪講の本です.新書で,今後の学業に良い影響を与えてくれそうなものを,探しています.まあ,いいのがなかったら,過去に取り上げたのを使えばいいだけなのですが.
さて…面白そうな本がありました.
ダメ情報の見分けかた メディアと幸福につきあうために (生活人新書)
- 作者: 荻上チキ,飯田泰之,鈴木謙介
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2010/12/08
- メディア: 新書
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非行研究の概念に,「漂流理論」があります.(略)マッツァはそうした「理由付け」のための方法に,五つの類型が存在することを指摘し,それらを「中和の技術」と名付けています.
「責任の否定」…自分はある環境に巻き込まれたのであって,自分には責任がない
「加害の否定」…これは遊びやふざけであるので,たいしたことではない
「被害の否定」…これは,相手が受けて当然の攻撃であって,相手にこそ責任がある
「非難者の非難」…こうした行為を非難する者も問題含みであり,非難する資格はない
「高度の忠誠への訴え」…忠誠を誓うべき秩序や大義が荒らされているのだから,見逃せない
要するにこれは,暴力行為のイイワケ集のことです.こうした類型は,少年の非行行動だけではなく,いじめやパニック時の集団的暴力など,社会で頻繁に見られる迫害行為についてのイイワケでも,よく見受けられます.ウェブ上のリンチにも,流言のイイワケにもよく使われます.
(pp.55-56)
イイワケ,ですか.会話でも,Web上の情報のやりとりでも目に耳にしますが,実例は,漫画から---粗暴な行動をする,たいていは脇役の,行動の前後の認識なんかを---集めるのがいいのかもしれません.
キャントリルは,(1)のように,流言の内容的な矛盾や妥当性を判断することを「内在的チェック」,(2)のように,参考となる資料や証拠を探そうとすることを「外在的チェック」と呼びました.目新しい流言を受け取った場合,それをすぐさま広めたり,その情報を信じて安易なアクションに繋げる前に,「内在的チェック」「外在的チェック」を行うこと.そのことによって,「それらしい情報」が,本当に「確からしい情報」かどうかを確認することの重要さが示唆される調査です.
チェックをする際に注意しなくてはならないのは,私たちがしばしば「有名な人が言っているかどうか(有名性)」「親密な人が言っているかどうか(親密性)」「多数の人が言っているかどうか(複数性)」「権威あるメディアが言っているかどうか(権威性)」に頼ってしまうことです.流言をチェックするのに必要なのは,客観的な確からしさ,情報の根拠付けであって,「他人の主観」がいくら集まっても意味がありません.むしろ,有名性や親密性を頼りにして,検証を行わないことが,流言やデマを鵜呑みにしてしまう土壌にさえなってしまいます.
(pp.68-69)
「(1)」「(2)」は,引用の直前に書かれている,「火星人がアメリカを襲っている」という内容のラジオドラマを聞いた人の分類で,実際には「(3)」「(4)」まであります.あ,最後の分類は,書いておいたほうがいいかもしれない,『(4)何も(引用者注:確認を)しないまま,それをニュースだと信じてしまった人』です.
内外というと…自主性を思い出しました.読み直すと,少々違った観点でした.
あとの段落で,連想するのは,PGPの「信頼の網」ですね.
「メディアを巧みに使いこなす力」「メディアを疑う力」だけでは,「確からしい情報」を獲得し,広めようにも不十分です.どうしても,プラスアルファの専門知がないと,「こちらのほうが正しい」という見比べをすることが難しい.残念ながら,多くの人にとっては,「専門知のおこぼれにあずかる」ことしかできないのが現実ですから,例えば,対立する二人の専門家がいた場合,「どちらの論が確からしいか」ではなく,「どちらの人が信用できるか」といった判断材料が重視されるのは,避けようがないことでしょう.
本来であればそういう時でも,安易にアクションに繋げるのではなく,「判断保留」して,ブレーキをかけておくのがよいでしょう.「判断保留」は,「思考停止」するというのではありません.与えられた情報に対する内在的チェックを行いながら,「確からしい情報」が出てくるのを待ち,それまでは安易な行動を起こさないこと.新たに判断材料が出てきたら,それを元に再度,外在的チェックと内在的チェックを繰り返すということです.
(pp.75-76)
第1章のまとめの中から.「専門知」「保留」「思考停止」は,当雑記でもわりと最近,使ったことがあります.
- 無内容な話を見抜く
- 定義が明確でない話を見抜く
- データで簡単に否定される話を捨てる
という,「とんでもなくダメな情報」だけを振り落とす三つの方法の説明から始めたいと思います.ダメ情報を入口の時点でシャットアウトしてしまうだけで,まともに取り合うべき情報の量はかなり少なくなります.
(pp.101-102)
第2章,まず「1. リテラシーはなぜ必要か」として20ページ弱(pp.82-100),whyの説明があったあと,「2. まずは退けるべき三つの言説」で,what(howを含む)の説明となっています.
引用はしませんが,各項目について,具体例やそれらを見抜く方法が,続いています.
じゃんけんで負けたら,相手に一〇〇円払うというゲームがあるとします.じゃんけんそのものは公正で,支払いも約束通り履行されることがわかっているとしましょう.つまりは参加者双方にとって平等なルールで行われる賭けです.このゲームを何度か繰り返し行うとします.さて,このゲームでは機会の平等は保証されているでしょうか? それともされていないのでしょうか?
仮にAさんは一〇〇円しか持っていないのに対し,Bさんは三〇〇円持っているとしましょう.(略)このゲームの勝利確率の比は当初の手持ち現金額の比そのものなのです.ゲームのルールに不平等がない一方で,その勝敗を決めるのは初期条件である手持ち現金額なのです.
(p.115)
「手続きだけでは,システムは不十分.当事者が持っている情報や属性についても注意を払うべき」と言えそうです.
表2
Yが治った Yが治らない Xを投与 A B X投与せず C D ある薬が特定の疾病に効果があるかどうかを検証するためには最低限表2のAからDの四種類のデータが必要です.Xを投与した場合のデータ(表2のAとB)やYが治った場合の情報(表2のAとC)だけを何万サンプル集めても,そのデータからは何も得るところはありません.これはデータ利用における最も初歩的で,かつ最も頻発する誤りです.
(pp.132-133)
「疫学の基本定理」の中から.間違った努力の仕方,結果表示の仕方を察知できるようにならないと,いけませんね.もちろん自分自身についても,間違った努力や取りまとめをしていたとき,情報の発信・公表をするより前に気づかないといけませんが.