わさっきhb

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サンドイッチはくだらない

オランダでいいネタが特になかったので,出かける前に問題意識のあった件を考えることにします.

サンドイッチとは

  • 例題
    • 問1:1本の紐を切って,3cmの紐を4本作ります.紐は何cm必要でしょうか.
    • 問2:太郎くんと次郎くんは兄弟です.お母さんは,お菓子をあげるとき,いつも,太郎くんにあげる数を次郎くんにあげる数の2倍にしています.ある日,次郎くんは3個のお菓子をもらいました.太郎くんは何個もらいましたか.
    • 問3:さらが 5まい あります。1さらに りんごが 3こずつ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。
  • 答え方その1
    • 問1:3cm×4=12cm
    • 問2:3個×2=6個
    • 問3:3こ×5=15こ
  • 答え方その2
    • 問1:3cm×4本=12cm
    • 問2:3個×2倍=6個
    • 問3:3こ×5まい=15こ
  • 答え方その3
    • 問1:3×4=12 答え12cm
    • 問2:3×2=6 答え6個
    • 問3:3×5=15 答え15こ

念のため言葉を添えておくと,答え方その1では,問題文に基づき被乗数と乗算結果の単位を同じにして式の中で明記し,乗数は単位なしとします.同じ単位で挟むことから,「サンドイッチ」と呼ばれます.
答え方その2は,乗数にも単位を付けて書くのを除いて,答え方その1と同じです.これも,サンドイッチとみなしていいでしょう.
答え方その3は,答え方その1(または答え方その2)から,単位をなくして式で表しています.解答者が頭の中で「サンドイッチ」をイメージしていたかは,分かりません.
例題についても書いておきますと,問1は連続量と分離量の乗算ですが,整数値どうしなので小学校2年生でも式を立てて解ける問題です.問2は「何のいくつ分」かつ《厳密派》だと,被乗数の単位を「個/倍」にしていいのか少々迷い,一方,累加(結局のところ,足し算)をベースにすると労せず解ける問題です*1.問3は,おなじみのものです.問1は《AB型》,問2と問3は《BA型》です.

サンドイッチへの賛意と批判

最初は自分のところから,あとはメジャーどころを引用します.

児童が立式で間違えないようにするための,アドバイスとして,有用だと思います.歴史で,年号を語呂合わせで覚えるようなものです.
しかしこれが小学校のかけ算指導の主流になっても困るなあとも感じます.単位の扱いが雑に見えます.『立式した時に単位も書くと、「4個×3枚=12個」になります』に対して「12個枚ではないのですか?」というのは,《無頓着派》の課題として書いたことがあります.
さらにいくつか気になる点があります.アレイ図で数えると,「4こ×3=12こ」も「3こ×4=12こ」も認められることになります.サンドイッチで理解していると,割り算を学び,包含序に関する問題を解くとき,答えの単位の扱いに少々苦労しそうです.
サンドイッチの考え方は,「何の何倍」に基づくかけ算のように思われます.したがって,「何のいくつ分」と相容れないところもあります.今年の朝日新聞の記事で,授業例が出ていました.
(略)
『2×8でも8×2でも答えは同じ。でも、意味は全然違うよ』や『かけ算の意味って、すごく大切』については支持なのですが,内容がなじめなかったのは,ウサギもタコもテントウムシも,サンドイッチの考え方で正しい式・間違いの式をチェックしているから,と気づきました.

サンドイッチ - わさっきhb

「みかんなわけです」という国語表現にも「びっくりなわけ」ですが、「3個×4枚=12個」という式は、量の体系ではしない。「3個/枚×4枚=12個」とするわけです。したがって、「『かけられる数』と『答』の単位は同じになる」ということはない。だから、「かけられる数」と「答え」の単位がいっしょ、「サンドイッチになるように書いてください」などという教え方は、量の体系では絶対しない。

数教協こそ「式の順番」の犯人?? | メタメタの日

以上の国語的意味のかけ算は、明治時代初めのかけ算観でもあったのです。
明治初めの優れた算数の教科書『筆算訓蒙』(明治2年)は、かけ算について以下のように述べています。
(略)
「乗は、俗に掛算といふ、同数の和を求むる法にして、加法に原づきて、其更に簡便に施すべきものをいふ、乗の標識は、×を用ゆ、(中略)
乗者(は)原数あり、これに某数を掛て、某総数を求むる事にして、其原数を実と称し、掛くる所の数を法といふ、其得る所の総数を得数といひ、又積と称す、
其実数は必(ず)名数にして、法数は姑(しばら)くこれを不名数と見て可なり、其得数は、必す実数と類を同して、其同名数なり、」
そして、この後、「暗記すべし」として、「一一如一」から始まる片九九の表が続きます。
これが、明治初めの、江戸時代から続く、かけ算の国語的意味であり、当時は算数的意味でもあったのでしょう。「サンドイッチ」先生の教え方にも国語的・歴史的根拠はあったのです。
しかし、量の体系に基づく現代の算数のかけ算観としては、このままでは通用しません。特に、「かける数」を「姑く」(読みが「しばらく」で、意味が「とりあえず」であることは、首相ではないが分からなかった)無名数とすることは、現在の算数では、「倍」の場合だけである。

数教協こそ「式の順番」の犯人?? | メタメタの日

■4 「かけ算の順序と正しく書かせるためには、単位に着目すればいい」などと言い出す教師が出てくる。
「4人に3個ずつ蜜柑を配る。蜜柑は何個必要?」という問題では、「個」を答えるから、「3個」の方が前に来る。
これでめでたく、3×4という正しい式が立てられる。3個×4人=12個 こうやって単位のサンドイッチを作れば間違いないですよ。
という、おめでたい指導がなされる。当初の、かけ算の順序に拘る教え方をする理由が仮に正当性があるものであったとしても、この段階ではすっかり忘れ去られている。

「かけ算の順序」概略その1 方便から迷信までの進化(?)の過程: 算数「かけ算の順序」を中心に数学教育を考える

その他にも「サンドイッチ」という「ひとつあたりの数」を理解していなくても
先生が意図した通りに掛け算の順序を書く方法まで開発されているようです。
答が「ミカン○○こ」の形になるならば「3こ×4=12こ」と
「こ」が付いた数で「サンドイッチ」になるように書くという教え方があるらしい。

かけ算の式の順序にこだわってバツを付ける教え方は止めるべきである

学習指導要領から見たサンドイッチ

以下は,当雑記でおなじみの引用です.

乗法は,一つ分の大きさが決まっているときに,その幾つ分かに当たる大きさを求める場合に用いられる。つまり,同じ数を何回も加える加法,すなわち累加の簡潔な表現として乗法による表現が用いられることになる。また,累加としての乗法の意味は,幾つ分といったのを何倍とみて,一つの大きさの何倍かに当たる大きさを求めることであるといえる。
(小学校学習指導要領解説 算数編, p.87)

この中で,「一つの大きさの何倍かに当たる大きさを求める」のは,サンドイッチの式で自然に表現できます.冒頭の,「答え方その1」で書いた,「3cm×4=12cm」*2「3個×2=6個」「3こ×5=15こ」です.ただし,学習指導要領(解説)の書式に合わせるなら,それぞれから単位を取り除いた*3,「3×4=12」「3×2=6」「3×5=15」が妥当な式となります.
いや,ダメです.左辺と右辺がイコールで直結できることを,示していません*4.そのためには,「3cm×4」からスタートしてみますか.言い換えると,「一つの大きさの何倍か」を乗算の式で表記したとして,ここから,答えとなる「12cm」を,九九を知らない状態で求めるには,どうすればいいでしょうか?
上記の解説にヒントが書かれていまして,「累加」です.すなわち,「3cm×4=3cm+3cm+3cm+3cm=12cm」とすればいいわけです.単位を取り除いて,「3×4=3+3+3+3=12」と書くことも,可能です.
「3個×2」から「6個」,「3こ×5」から「15こ」を計算するのも,同様にできます.物品があれば,検算も容易です.
ということで,

  • 文章題が,「一つの大きさの何倍かに当たる大きさを求める」タイプの問題であるか,このタイプに変換できるとき,
  • 「一つの大きさ」を被乗数に,「何倍か」を乗数とした乗算としてあらわし,
  • 累加,九九,または何らかの方法で計算すれば,
  • 被乗数と全体の大きさの単位が同じとなる,等式が得られます.

冒頭の問2はまさにこのタイプの問題ですし,問1,問3をサンドイッチで立式するというのは,このタイプの問題に帰着させたということになります.
ここまでの議論において,問1,問2,問3の答えの中で書いた「3cm」「3個」「3こ」はいずれも,「一つ分の大きさ」,言い換えると「/ (per)」表記の単位を付けて表すべき数量ではありません.「一つの大きさ」なのであり,「/ (per)」は陽にも陰にも現れることなく,記述し計算して,答えとなる数量を導くことができます.

サンドイッチとトランプ配り

かけ算に順序を持たせて指導する人々,またそれに賛同する人々は,わりあい,サンドイッチを便利なルールとして使用しているように見えます.
一方,かけ算に順序を持たせた指導に基づき,ある種の答案にバツをつけるのはけしからんと主張する人々の多くは,サンドイッチを毛嫌いし,ときには格好の攻撃対称としているように映ります.
表形式で整理するとともに,情報を追加してみましょう*5

サンドイッチ トランプ配り
順序派 便利だね 何それ
非順序派 馬鹿だよ これ有名
面白い 面白い

トランプ配りは教育上有害もあわせてどうぞ.
トランプ配り・サンドイッチに基づく立式を知ったときから,そして今でも,ともに「面白い考え方」だと思っています.しかし,例えば児童が本やWebの情報から知ったとして,その考え方で答案を書き,クラスの人気者になれるか,先生の「何書いてるの」で終わるかは,時の運です.

二つほどお断り

本日のエントリタイトルはSEO対策です.「サンドイッチ くだらない」といったので検索した人を,誘導しようと意図しています.悪趣味で,ごめんなさいね.結論まで読めばお気づきのように,私自身は,くだらない指導方法とは思っていません.
あと,乗算の立式は,サンドイッチで行うべきという主張ではありません.「何のいくつ分」と別に「何の何倍」という考え方は,現在の学習指導要領でも得ることができ,教科書や問題集では当然のように記され出題されているだろうと推測しています.サンドイッチが有用な状況もあれば,それを使うと変な方向にいっちゃうよという出題も考えられます.トランプ配りも同様です*6

(2020年9月追記)
「かけ算の順序」関連のブログ記事は,サブブログ(かけ算の順序の昔話)で不定期に投稿しています。本記事の内容の続報となる取りまとめについては,以下をご覧ください.

「トランプ配り」については,以下にて取りまとめています.

*1:「2倍」をもっと大きな数にすれば,式を書くのは面倒になりますが,「兄弟におやつをあげる」というシチュエーションが,それをさせにくくしています.ただ,「1.5倍」とすると,小数点以下の取り扱いをきちんと決めておけば,少し高度な乗算の問題になります.そうして見ると,問2は分離量と連続量の乗算なのですね.

*2:「『一つの大きさの何倍かに当たる大きさを求める』では,どちらを被乗数・どちらを乗数とするかは規定していない.だから『4×3cm=12cm』でもいいのだ」と主張する人には,現実を見ていませんし,学習指導要領解説に限定しても,読み込みが足りていませんよ,とちょっとだけ毒を吐いておきます.

*3:式に単位を書かせるべきか(1)

*4:“『わかるさんすう』のかけ算で、その導入時に熱心に扱われたのはかけ算の決定条件としての被乗数と乗数を量の観点から意味づけることであって、かけ算によって全量あるいは全数が求められる、というかけ算のもつ意味そのものは全く扱っていない。”, http://homepage3.nifty.com/ooiooi/rekisikakezan.htm

*5:同月11日追記:最後を同じにするという表の作り方は,研究を向上させる,3つの人間関係でも行っています.

*6:トランプ配りがサンドイッチよりも有用だと主張したい人は---その比較が数学教育において有益かは不明ですが,教材開発には役に立つのかな---,問題集を幅広く取り寄せ,題意・トランプ配り・サンドイッチで解き方を比較し,優劣を表で表し,集計するというのはいかがでしょうか.