わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

ルールを決めればこっちのもの

また雑報です.

5×3をめぐるお話・第4話

私は大学生です.第3話の「私」です.
小学生のころ,入っていた子ども会が,催しをするというので,久しぶりに小学校の体育館を訪れました.
部屋の半分はバザーで,残り半分では,子どもたちが,昔懐かしいゲームを取り仕切っていました.
その中に,的当てゲームがありました.ダーツみたいなのですが,針ではなく,マジックテープになっています.点数は中心部が5点で,外に行くにつれて1点ずつ下がっていき,的に当たらなかったら0点です.
じいっと見ていたら,やってみてよと,誘われました.10個の羽をもらい,投げました.「兄ちゃん,上手いね」なんて,10歳ほど下の子どもに言われ,むずがゆくなりました.
あっというまに終了.別の子どもが,得点計算を紙に書いてくれていまして,受け取りました.

  • ×=15
  • ×= 0
  • ×=15
  • ×= 2
  • ×= 0
  • ×= 0
  • ごうけい32てん

塾の高校生だけでなく,ここの小学生も,3×5を5×3と書くのかな…?
書いた子が,胸を張って言いました.
「お兄ちゃん,分かる? 赤い数字が,的の点数で,青い数字が,当たった回数だよ!」
なるほど,そういう意味なのですね.お礼を言い,体育館をあとにしました.
もちろんフィクションです.

5×3をめぐるお話のもう一つの解説

5×3をめぐるお話・第1話と第2話を作る際に,頭の中で思い描いていたことを,書くことにします.
「文章題」の集合と「式*1」の集合は,2部グラフとなります.「2部グラフ」という言葉に馴染みのない人のために,構成方法を説明しておくと,「文章題の集合」と「式の集合」をつくり,ある文章題(集合の要素)が,ある式(同)を正解とするなら,その文章題と式とを結べばいいのです.
第1話を作るためのアイデア・手順は次のとおりです.

  • 式「5×3」と結ばれる文章題は,多数(おそらく無限に)あります.
  • 《かけ算に順序はない》人々と,そうでない人々で(他の能力は同じとしたときに),構成される2部グラフは,異なります.より正確には,文章題の集合と式の集合は同じで,結ぶところ(「辺」といいます)が異なります.《かけ算に順序はない》人々が思い描く2部グラフのある辺は,そうでない人々が思い描く2部グラフには存在しません.その一方で,そうでない人々が思い描く2部グラフのどの辺も,《かけ算に順序はない》人々が思い描く2部グラフの中に含まれます.
  • 「《問1a》チョコレートを 5こずつ 3にんに くばります。チョコレートは 何こ ひつようですか。」という文章題は,式「5×3」と結ばれます.
  • 「《問1b》5にんに チョコレートを 3こずつ くばります。チョコレートは 何こ ひつようですか。」という文章題は,《かけ算に順序はない》ならば,式「5×3」と結ばれます.(《かけ算に順序はない》を前提としないならば,式「5×3」と結ばれません.)
  • あとは,チョコレートを取りに行く前に子どもたちを喜ばせる状況を《問1a》,実際にチョコレートを配る状況を《問1b》として,ストーリーを作ります.

第2話も,《問2a》と《問2b》という2つの文章題を作ってしまえば,《かけ算に順序はない》とき,ともに式「5×3」に結ばれますので,あとは肉付けするだけです.
さらに言うと,情報セキュリティでよく知られている(そして毎年,自分の授業で取り上げている),一方向ハッシュ関数を踏まえています.文章題がメッセージ,式がハッシュ値に対応します.
一方向ハッシュ関数は,同一のメッセージ(関数の入力)に対して必ず決まったハッシュ値を出力しますが,メッセージを微妙に変化させることで,同じような意味のメッセージに対して様々なハッシュ値を求め,悪用しようというのが,『新版暗号技術入門 秘密の国のアリス』のpp.184-188に載っています.
お話を考える際,メッセージすなわち文章題は,与えられているものではなく,都合のいい2つを選びましたので,強衝突耐性を破る攻撃のほうになります.

5×3をめぐるお話・第1話のさらに別の解説

なぜパパはさっさと3個食べたか…

  • 子どもたちを喜ばせ,自身がチョコレートを取りに行こうとする時点では,パパは「5個ずつ3人」にしようと思っていました.
  • ところが途中でママと出くわしました.事情を言うと,「ママも,ほしい」となりました.
  • しかし15個のチョコレートを4人でとなると,割り切れません.さらに,「ごさん,じゅうご!!」と言わせたのが反故になります.
  • そこで「5人いてて3個ずつ」と方針転換して,トランプ配りの要領でチョコレートを配りました.強弁というよりは,ママに責任を負わせないための言動なのでした.

子どもたちが食べることができる甘いチョコレート,パパにはほろ苦い味だったでしょうね.
もちろんフィクションですし,うちの次女・三女はチョコレートどころか,まだミルクしか飲めません.

乗法の導入の解説

また本を買いました.乗法の導入の解説を,打ち込んでみました.

乗法の数学的定義についても,集合の要素の数という観点からの定義と,順序という観点からの定義がある.
算数科では,整数の乗法は,一つ分の大きさが決まっているときに,その幾つ分かにあたる当たる大きさを求めるという場面で導入される.整数の世界では,その値を求めるためには,同数累加を行うことになる.つまり,乗法は同数累加の簡潔な表現として用いられることになる.この定義では,3×4=3+3+3+3,4×3=4+4+4となる.つまり,被乗数と乗数の順序に意味がある.また,交換法則(a×b=b×a)やa×(b+1)=a×b+aが成り立つことにも気づかせたい.例えば3×5の場合,3を5個足す代わりに,3を4個足したもの(3×4)に3を1個加えればよい.つまり,3×5=3×4+3となる.この性質を活用して1位数同士の乗法を考えていく(乗法九九の構成).なお,平成20年改訂の学習指導要領においては,これらの乗法九九の構成の延長として,被乗数や乗数が12程度までの乗法を扱うこととなっている.
(『新しい学びを拓く算数科授業の理論と実践 (MINERVA21世紀教科教育講座)』, pp.113-114)

洗練された文章とは思えません.段落内に「つまり」が2度出るのが不自然で,前者は「そこで」,後者は「したがって」に置き換えられそうです.また,『被乗数と乗数の順序に意味がある』と書いた直後の文で交換法則が取り上げられていて,「交換法則を指導したら,立式において被乗数・乗数はどちらをどちらに書いてもよいのではないか」というツッコミに耐えられそうにありません*2.何の何倍の意味が,取り上げられていません.
それでもここに書いたのは,小学校学習指導要領解説 算数編p.87の『つまり』の意図がやっと理解できたからです.
上記引用では,「一つ分の大きさが決まっているときに,その幾つ分かにあたる当たる大きさを求める」→「その値を求めるためには,同数累加を行う」→「同数累加の簡潔な表現としてかけ算で表記する」という流れが読み取れます.学習指導要領解説のほうでは,そのような流れが見えないのでした*3
立式と計算の区別について,もう少し前の足し算のところで,興味深い記述がありました.

合併は,例えば「A君はあめを3個持っている.Bさんはあめを2個持っている.合わせると何個か」という場面である.これを3+2=5と表すことを学習する.このような記号で表すことは社会的知識であるが,3と2を合わせた数が5であることは論理・数学的知識である.
(p.110)

「社会的知識」という表現は初めて見ました.意図は分かります.そしてこのように「社会的知識」を「論理・数学的知識」から分離することで,『乗法が用いられる場面を式に表したり,式を読み取ったりすることができるようにする』とその解説(小学校学習指導要領解説 算数編pp.98-99)につながります.
もちろん何を正解とし何を間違いとするかまでは学習指導要領で規定しませんので,そのあたりを知るにはまず現場の教育,それが困難であれば教科書や問題集であり,事例を見ていく中で,異議申し立てをする権利は,誰にでもあるわけです.

*1:ここでは,等号などを含まない形を対象とします.

*2:私自身にそのようなツッコミが来れば,5円の品3個の代金の立式は「3×5」ではダメなのかの後半部と,「×」から学んだことの「Q: この件,子どもにはどう伝えればいいでしょうか?」の答え,あとは本エントリ冒頭の第4話を提示したいところです.

*3:それと,改めて読み直すと,『同じ数を何回も加える加法,すなわち累加』として累加の意味を定め,さらに続いて『の簡潔な表現として乗法による表現が用いられることになる』とし,一つの文で2つの情報を与えているのが,混乱の原因なのに気づきました.