算数授業研究 76 論究1 なぜ、「問題解決」を重視するのか
- 作者: 筑波大学附属小学校算数研究部
- 出版社/メーカー: 東洋館出版社
- 発売日: 2011/06/01
- メディア: 単行本
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秒読み本とは何かというと,どの(書名またはジャンルの)本を買いたいという目的と,何分の電車・バスに乗りたいという時間の制約のもとで,当初の希望に合った本は見つからなかったけれど,何か買って電車・バスの中で読みたいと思い,1分以内で選んでレジへ行く…そんな経緯で購入した本です.
執筆者の中に,かけ算をめぐる論争で知った清水静海氏,坪田耕三氏,田中博史氏*1といった名前があったほか,一応は「問題解決とは,単に問題を解くことではない」という知識を持っていたものの,さて具体的にどんな意味になるんだっけ,そして小学校の算数の中ではどのように位置づけられ,活用されているんだっけと思い,勉強することにしました.
「問題解決」の意味については,ちょうどいいのが見つかりました.
用語「問題解決」(problem solving)は,字義通りには「問題を解くこと」であるが,教育界では一定の価値を込めて用いられる。例えば「問題解決学習」は,学習者が進んで問題をとらえ,その問題に主体的に取り組んで解決していく学習を促す教育方法の一形態である。
(清水美憲: 算数科における「問題解決」:その意味と意義, p.8)
もちろん教師の自己流でというわけにいきません.問題解決のhowに関して一つ,whatおよびwhyに関して一つ,抜き出します.
算数教育における今日的な問題解決の研究は,G.ポリア(1887-1985)の「発見法」の研究を基礎としている。この発見法に関するポリアの成果は,著書『いかにして問題を解くか』に示された,問題解決の4つの層の区分と,その区分に沿って配置された問題解決の方略のリストに代表される。
(同, p.9)
問題解決学習の条件は,問題が子どもたちが解きたいものとして子どもたちのものになることである。つまり,子どもたちが問いを持つことである。問題解決学習において何が条件かと聞かれたら,そのひとつに尽きると応えたい。その一点から目を逸らしてはならない。授業全体を通してずっと見続けることである。
(正木孝昌: 「問題」に問題あり, p.27)
howに関してですが,裏表紙に英文,また表紙裏に和訳で,「いかにして問題を解くか」の4層,そして具体化されたリストが書かれています.『いかにして問題をとくか』は離れのゼミ室の本棚に置いていて,先日のゼミの準備時間に,表紙裏を開いて同じ内容が書かれているのを,確認したのでした.
何人かの執筆者*2が,ポリアの著書や考え方に言及しています.たまたま一致したというのは考えにくく,編集方針としてそれを載せることを,各執筆者に伝えていたのでしょう.
世界からみた日本の算数・数学教育はどうか…ディポール大学教育学部に所属する日本人の方が寄稿しています.少し長くなりますが,引用します.
■日本型の問題解決型授業
日本で行われている問題解決型の授業が,アメリカで行われている問題解決の授業と大きく異なっていること,そして,日本で行われている授業の方が,NCTMなどアメリカの算数教育をリードする人々が提唱する新しい時代の教育の特徴をより多く具現化していることが紹介されたのは,1999年に出版されたThe Teaching Gapによってであった。これは,日独米の3つの国で行われている数学の授業の内容を詳細に分析した国際調査の結果をわかりやすくまとめたものであり,教育書の世界的ベストセラーになった。
この中で,筆者は,日本型の授業をあえてStructured Problem Solvingと呼び,一般に使われているProblem Solvingと区別して紹介した。
この背景には,日本の算数・数学指導における問題の扱いが,単に問題を解いて終わりではなく,問題を解いた後,これらを比較検討する過程を通して子どもたちに新しい算数の内容や考え方を教えようと,綿密に考えられていることを強調する意図があったといえる。そして,そのために,日本の教科書では,実に細かいところまで吟味を重ね,どのような問題をどのような順番で与えるべきか,問題にある数値や場面をどのように工夫したらいいかなど,実に細かいところまで吟味されている。その結果,教師が,子どもたちに予め問題の解き方を示さなくとも,子どもたちが前時までに学習した事柄をうまく使えば,一見これまでと異なるような問題も,彼らなりの方法で説くことができるように仕組まれている。さらに,教室の子どもたちが考え出したいくつかの異なる解法を教師のリードで比較検討することによって,子どもたちを学習指導要領が期待している学習内容を身につけることができるようにデザインされているのである。
(高橋昭彦: 海外における問題解決の授業, p.45)
引用しなかったことと合わせると,日本の算数教育は,米国の影響を受けながら発展してきたが,1980年代あたりからの「問題解決」に関する国内独自の展開により,今はもはや発展途上国ではなく先進国になっている,と言えそうです.比較検討の事例として,山梨のケース,新潟のケースを思い出します.
私自身が解決者として,振り返ったとき,忘れられない「問題解決」は,型・形に書いた,「とんがっている」7箇所の角の和です.「星形の同様の角の和だと,補助線は1本で解けます.一般化して,角の数が2n+1になると,このやり方ではちょっと無理っぽくて,コメントに書いていただいた方法なら大丈夫そうです.」(Re: 7つの角の和)は,はからずも,ポリアの書いた4番目のステップの最後の項目,「他の問題にその結果や方法を応用することができるか。」に対応しています.