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3分で「かけ算の順序」

「かけ算には順序があるのか」,またそれを縮めて「かけ算の(式の)順序」について,批判的な立場から整理してみます.
本題に行く前に,あとで何度か,問題文や数量を使用したいので,『かけ算には順序があるのか (岩波科学ライブラリー)』のまえがきを引用します.

いま,小学校では,「6人に4個ずつミカンを配ると,ミカンは何個必要ですか」という問題に,6×4=24という式を書くと,答えはマルで,式はバツにされます.

さて…
「かけ算には順序があるのか」という問題設定は,ずいぶんと新しいものです.
教育者の間では,「乗法の意味理解」や「被乗数と乗数の区別」と表記しています.何が被乗数であり何が乗数となるのかに注意して,式を書くことができるよう,指導してきたわけです*1
乗法の式の基本は,「一つ分の大きさ」×「幾つ分」*2です.「一つ分の大きさ×幾つ分=全体の大きさ」とするほか,「何のいくつ分」「何の何倍」とも言います.「1あたり量」ではなく,「一つ分の大きさ」です.
出題において,「一つ分の大きさ」が容易に発見できるよう,表記や(図だと)囲い込みなどがなされているとき,それを被乗数とした式にすることが期待され,その際に被乗数・乗数を反対に書くのを,正解として認めていないことが,論争の中心となっています.
トランプ配り(様々な別名がありますが)は,問題文に対して「一つ分の大きさ」と「幾つ分」の変換を行っています.「それぞれに1個ずつミカンを配るのを1回」とすることで,「1回につき6個」となります(「個」に着目して,元の問題文と見比べてください).「6×4」という式だけからは,その変換を見出すことができず,「6が先に,4があとに出ているから,6×4と書いた」という典型的な間違いをしていると,採点者は判断し,バツとします.
交換法則により,「一つ分の大きさ」×「幾つ分」は「幾つ分」×「一つ分の大きさ」にできるという意見も見かけます.しかし学校教育では,その考え方を採用していません.
もし,乗法の式で表すにあたり*3,「一つ分の大きさ」×「幾つ分」でも「幾つ分」×「一つ分の大きさ」でもよいという考え方を,学校教育において認めさせようとするならば,例えば「5×3」という式が「5個ずつ3人に配る」という意味にも「5人に3個ずつ配る」という意味にもなること,言い換えると,一つの式が(ある場面設定の範囲内で)時間の経過や受け取った者に応じて異なる意味に容易になり得るというデメリットと比較して,それでもその採用が適切であることを,学校の先生方だけでなく,教科書などの執筆に携わる方々,学力テストの問題作成者などに対して,働きかけていく必要があるでしょう.

本エントリでは,冒頭の書籍を除き,上記の根拠・出典を示していません.次のエントリで,書籍やWebページを引用しながら,情報を充実させることにします.

*1:学校に行かなくとも教科書を手に入れずとも,書店で並んでいる解説書や問題集,また公表されている学力調査の設問(と出題意図)から,知ることができます.

*2:これらの語句は,現行の学習指導要領解説 算数編p.87によります.もちろん学校現場でそのまま,この表記が用いられているわけではなく,先生方の創意工夫により呼称も変わることでしょう.どうあれ,児童が自分で適切なかけ算の式を書けるようになることを目指しています.

*3:いったん「一つ分の大きさ(の数)」×「幾つ分(の数)」として表してから,交換法則を適用して「幾つ分(の数)」×「一つ分の大きさ(の数)」とし,それによって計算を手際よく行う,といった工夫は,現在の学校教育でも否定していません.