1. トランプ配りに対して
1972年1月26日の『朝日新聞』に小学校のテストをめぐる論争がのった。それによると,昨年の秋,大阪府松原市・松原南小学校の2年生のテストに,つぎのような問題があったという。
「6人のこどもに,1人4こずつみかんをあたえたい.みかんはいくつあればよいでしょうか」
これに対して何人かの子どもは,
6×4=24
と書いたが,その答案は,答えの24こにはマルがつけられ,式の6×4にはバツがつけられ,4×6と訂正されたという。そこで,これに疑問を抱いた親が,文部省にも質問状をだして論争がまきおこったらしい。
(『遠山啓著作集数学教育論シリーズ 5 量とはなにか 1 (1978年)』p.114)
では,本題にはいって,いったい6×4は正しいか,まちがっているかについて考えてみよう。この問題の答えとして,4×6だけが正解であり,ほかを誤りとする理由はどこにもない。もともと算数の考え方は一通りしかないと思いこむのがおかしいので,多種多様な解き方があってよいのである。
ミカンを配るのに,トランプを配るときのやり方で配ると,1回分が6こ,これを4回くばるのだから,それを思い浮かべる子どもは,むしろ,
6×4=24
という方式をたてるほうが合理的だといえる。
(p.116)
上記に対する個人的な認識は次のとおり.
トランプ配り(様々な別名がありますが)は,問題文に対して「一つ分の大きさ」と「幾つ分」の変換を行っています.「それぞれに1個ずつミカンを配るのを1回」とすることで,「1回につき6個」となります(「個」に着目して,元の問題文と見比べてください).「6×4」という式だけからは,その変換を見出すことができず,「6が先に,4があとに出ているから,6×4と書いた」という典型的な間違いをしていると,採点者は判断し,バツとします.
7月26日
少し別の視点として,先月出た本を紹介します.
子どもが3人います。みかんを1人に2こずつあげます。みんなでなんこいりますか。
(『活用力・思考力・表現力を育てる!365日の算数学習指導案 1・2年編』p.66)
「また例のかけ算か」と思ったのなら,ぜひ一度,本を手に取って,ページ全体をご覧になってください.かけ算を学習するよりも前の授業案です.「具体物をまとめて数える」という見出しがついています.イラストもあります.
まとめて数える活動は,学習指導要領でも第1学年および第2学年に出てきます.小学校学習指導要領解説 算数編(《算数解説》)p.79には「また,2ずつ,5ずつなどのように適当な大きさずつにまとめて数える活動は乗法の意味の理解につながるものである」とあります.
先ほど「かけ算を学習するよりも前の授業案」と書きましたが,この,まとめて数えるという活動は,乗法の意味理解の素地になるということです.上記のページにも,主眼の中に「乗法の素地的な見方」という表現があります.
その際,「〜ずつ」になるものが,「一つ分の大きさ」に対応づけられます.
問題文の「子どもが3人」をもとに,「ひとり,ふたり,さんにん」を経て,「にい,しい,ろお」というみかんの数え方にする*1のが,「まとめて数える」であり,のちに一つ分の大きさは2,幾つ分は3として,2×3=6という立式につながっていくわけです.
同じページの注意書きが,肝心なところです.
○1個ずつ置くか,2個ずつ置くかという置き方ではなく,置いた結果に着目させる。
この指導方針に,同意します.問題文を見直してみると,当該ページも,遠山が取り上げた問題も,「配る」「置く」といった操作が与えられていない*2ことを確認できます.
2. ブログのコメントに対して
- http://twin.blog.ocn.ne.jp/physicomath/2011/07/post_0a55.html
- http://blogs.yahoo.co.jp/tamusi22/35513225.html
あえて名前は書きません(事情は後述)が,同一と思われる人がずいぶんとコメントをつけています.
これらと近い時期に,当雑記にも,象徴的なコメントが入っています.
まあいいけど、こんな事書くぐらいなら、まず自分で電話して確認すればいいのに。
5月31日 コメント
「私が問い合わせたら、文科省はこういう回答だった。本に書いてあるのとは違う。」というのなら分かるけど。
「疑うな」と言っているのではないのです。疑うなら疑うなりの合理的根拠を示すべきであって、単に「こういう可能性もある」と思いつきを列挙するだけでは、下司の勘ぐりにしか思えません。
私のを3番目として,3件それぞれどうなったのかを書くとします.まず最初のブログについては,ブログの休止のエントリを出されています.そしてその後,ブログ再開とし,そこからは,かけ算の順序の件でコメントで多いという状態は,なくなっています.
2番目は,ブログ主さんの以下のコメントが,強く印象に残っています.
繰り返しになりますが、「〜のかけ算」の単元ではそのような「山登り」の場面になっていません。そんな場面をなくすよう日々の授業を改善していきたいですね。
******様のブログも参考にさせていただき,算数・数学の魅力を伝えていけるような学校現場になれるよう、がんばっていきたいと思います。具体的な指導場面の事例など紹介していただければ大いに参考になります。今後ともよろしくお願いいたします。ありがとうごさいました。
一部伏せ字にしました.当エントリで名前を出さない理由を書いておきますと,「検索エンジン経由で来てほしくないため」です.また,特定の人のコメントに着目するよりは,この種のコメントがつくことに対して,どのように考え行動すればいいのかを検討したいという意図もあります.
強調も引用者によるもので,この文はいろいろと解釈できるのですが,その後のコメントを踏まえると,一つの解釈の仕方は「ぶぶ漬け食べなはれ」なのです.*3
最後ですが,次の日にエントリを書いた上で,コメントに対しては「以前にも書いたとおり,「対話は無理」です」としました.以前というのは,去年12月のことです.
翌朝,にゃーにゃーにゃんにゃこしました.