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「不備のある算数文章問題」に対する小学生と高校生の解決方略

「機関リポジトリ」から無料でダウンロードできます.
文章題はそれぞれ,考えさせられます.「不備のある算数文章題」は以下のとおり.どのように不備があるかは,本文をどうぞ.

問題① えんぴつが5本ずつはいっているふでばこが3つあります。このふでばこは何円でしょう。
問題② バケツのなかに水がどんどんたまっていきます。1分たったらバケツに10cmのところまで水がたまりました。2分たったら20cmのところまで水がたまりました。では,3分たったら何cmのところまでたまるでしょう。
問題③ 山本君の家と学校は,500mはなれています。木村君の家と学校は,300mはなれています。では,山本君の家と木村君の家は,何mはなれているでしょう。
問題④ 1この重さが5kgのりんごが6つあります。合計何kgになるでしょう。
問題⑤ 4このボールと5このボールがあります。かけるといくつになるでしょう。
問題⑥ 熱さ80℃のお湯が1リットルあります。そこに40℃のお湯を1リットルたしました。お湯の温度は何℃になるでしょう。
(p.469)

「不備のない算数文章題」も,解かせています.

不備のない算数文章題2問を用意した。2問の文章題は,「42リットルの石油を3リットルずつバケツに入れます。バケツはいくついりますか」と,「ハイキングにクラスの全員が行くことになりました。バス代が1人200円で,クラスは20人います。ひ用は全部で何円になりますか」である。
(p.470)

これら8問の中で,一番引っかかったのは,問題3です.出題意図として

問題③は,計算をするために必要な条件設定が不足していることが原因となって,答えがひとつに定まらない文章題である。算数の教科書に掲載されている文章題は,すべて答えがひとつである(金田,2001)ことを考えれば,小学生が計算できる「500−300」と「500+300」の加減の演算によって異なる2つの解が算出されるこの文章題は,算数の文章題としては不備のある問題である。問題③が,問題②と異なる点は,小学生が計算できる四則演算を使用することによって算出される答えが,2通りあるか,1通りしかないかの点にある。問題③の答えは,「200m」と「800m」の2通りであるのに対し,問題②の答えは,「20+10」や「10×3」などの異なる演算を使用しても,「30cm」の1通りしか算出されない。小学生は,算数の学習場面において,問題③に対して,「200m」と「800m」のいずれかひとつしか答えを算出しないことが知られている(Verschaffel,De Corte & Lasure,1994)。

とあるのですが,「(金田,2001)」の文献すなわちhttp://ci.nii.ac.jp/naid/110001887001を読んでも,答えが2通りであることを著者が強調しているように読めます.
とはいえ,学校から半径500mと300mの円を描き,それぞれの円から任意に2点をとれば,それが山本君と木村君の家の所在と考えられます.その距離を答えるなら,200mから800mまでの任意の長さといったところでしょうか.
ちなみに高校生はというと,「高校生78名のうち74名(95%)は,解答欄に×印を記入し,答えがひとつに定まらないことを指摘した。」(p.473)でした.


以下,同月15日追記.
駄文にゅうすさんとこからリンクされていて,びっくりしました(某日さらに追記:現在はhttp://ariel.s8.xrea.com/news/2011_11.htm#20111115).いつも的確なタイトルをつけてくださっていて,勝手ながら,エントリのタイトルを合わせることにしました(公開時は,「算数文章問題に対する小学生と高校生の解決方略」でした).
冒頭に挙げた論文は,だいぶ前から(プライベートな)ブックマークに入れていまして,ブックマーク整理を兼ねて取り上げたものです.同じ著者の別の論文を読み込んでから,著者名検索で見つけたのでした.「かけ算の順序」の話に嫌悪感をお持ちでなければ,今月3日15日の件も合わせてどうぞ.
ところでなぜ「答えが2通り」なのかというと,小学生に絵を描かせたら,ほぼそうなるからでしょうね.3次元空間のうちY軸の情報をなくし,X軸とZ軸(学校や家を描くのに,「高さ」を使います)の情報を図に入れるということです.「学校から半径500mと300mの円を描き…」は,Z軸の情報をなくしてX軸とY軸を見せる(描く)ことになります.