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出題例,式と答の正答率について

1. はじめに

こちらで調べた件を,取り上げてらっしゃいます.
金田論文の画像については,「かけ算の順序」として象徴的なところを押さえているように見えます.ただ,批判的に読む*1という観点では,序文や考察についても,精査があっていいところです.当雑記では,11月3日のエントリの中で,リンクしています.
本日は,『小学校算数 これでバッチリ!計算指導 (指導のこつシリーズ)』に注力します.p.72だけというのは,あまりにもったいないので,手元の本を読み直しました.

2. 調査の時期と要領,Webで読める情報源

「6つのはこに、ケーキが8こずつはいっています。ケーキはぜんぶでなんこあるでしょう。」という出題を含む学力調査は,2005年(平成17年)3月に実施されたものです(p.3, p.119).
「6社の教科書(小学校)のいずれもが、各学年とも2月下旬には「数と計算」領域の学習が終了していると考え、3月に調査を実施することとした」(p.119)とあり,当該学年(まで)の学習事項を前提とした出題です*2.それと,今回の検討には直接影響しませんが,一つ前の学習指導要領に基づく点には,少し注意をしたいところです.
調査問題と調査結果は,pp.120-140にあります.p.120には,見出しのすぐ下に「(正答率には準正答も含む)」とあります.なお,正答例や解答類型は,書かれていません.
この調査の概要と問題文,正答率は,http://www.sokyoken.or.jp/kanjikeisan/keisan_h18.xhtmlからも読むことができます.

3. 乗法の意味理解(被乗数と乗数の区別)に関する出題

乗法の意味理解(被乗数と乗数の区別)に関して,2種類の問題が見られます.一つは

6つのはこに、ケーキが8こずつはいっています。ケーキはぜんぶでなんこあるでしょう。

であり,2年(丸15および丸16,p.123)および3年(丸16および丸17,p.125)で出題されています.
式と答の正答率は,2年は50.8%と81.3%,3年は23.8%と87.4%です.p.72には,「6×8」と立式した率も書かれています.
もう一つは,

1mの重さが3kgの鉄のぼうがあります。この鉄のぼう12mの重さは何kgでしょう。

で,3年(丸24および丸25,p.125)および4年(丸22および丸23,p.127)で出題されています.
式と答の正答率は,3年は48.6%と76.0%,4年は49.5%と80.5%です.p.77には,「かけ算の場面だという認識が難しい『小数倍』」の中で(いわば前提として*3),次のようにあります.

3・4年生への設問「(略:上述のとおり)」では、3年生で83.1%、4年生で84.6%*4の児童が、かけ算の場面であると判断することができました*1。
(略)
*1 式・解答までを含めた正答率は3年生48.6%、4年生49.5%と、共に5割以下になってしまいました。これには、主な誤答であるかける数とかけられる数を逆にした「12×3」に見られるように、「1つ分の大きさ(1mの重さ)」と「いくつ分(何m分)」のそれぞれに当たる大きさがとらえられないなど、かけ算についての意味理解が不十分な実態が見られます。

これについては,次のとおり考察したことがあります.

*8:翌日,《BA型》から《AB型》に書き換えて,場所を移動しました.式の正答率が,答えの正答率よりもかなり低い問題です.「12÷3」と書いてから,かけ算を使うことに気づき,÷を×にするという行動が推測できます.あるいは,12を被乗数,3を乗数として書きたくなるというのも考えられます.(略)

出題例から学ぶ,乗法の意味理解 *8

4. 式の正答率が答よりも低い出題

上記2つのほかに,「式の正答率が答えよりも低い出題」がないか,探したところ,3つありました.

あかいいろのおはじきが7こあります。あおいいろのおはじきが9こあります。
(1) おはじきは、ぜんぶでなんこあるでしょう。
(2) なにいろのおはじきが、なんこおおいでしょう。

1年向けの出題で,p.121です.なお,参照した書籍*5では「(2) なにいろのおはじきが、なんこあるでしょう。」となっていて,これでは式を求める必要がありません.ここはhttp://www.sokyoken.or.jp/kanjikeisan/pdf/1nen.pdfの記述に差し替え,読点は書籍に合わせました.
解答箇所は5つあり,(1)の式が丸13で答が丸14,(2)の式が丸15で,答・色が丸16,答・数が丸17です.丸15の正答率が73.5%,丸16は87.9%,丸17は84.1%となっています.式の正答率が低い理由についての記載はありませんでしたが,式にしなかった(いきなり答えを書いた,図にした),「7−9」と書いた,あたりが思い浮かびます.
2年向けの求残の出題で,式(丸19)が83.8%,答(丸20)が84.0%というのもありますが,微差ですので,詳細まで書くほどのことでもないでしょう.
3番目は,中学Aまで飛びます(p.136).

0.8mの重さが1.2kgの鉄のぼうがあります。この鉄のぼう1mの重さは何kgでしょう。

式は丸3,答は丸4,正答率はそれぞれ65.6%と67.2%です.除法《BA型》の問題と言えます.パーセンテージの差から,式を書かずに答えだけ書いたか,式は書いたけれど誤記があったか,採点者が「1.2÷0.8」と読み取れなかった可能性が思い浮かびます.

5. 加法・乗法の順不同

いわゆる「たし算の順序」「かけ算の順序」の観点で,問題文それと式・答の正答率を見るなら,取り上げるべき出題がひとつずつあります.まずは

こうえんで子どもがあそんでいました。7にんかえったので、のこりは5人になりました。はじめになん人いたでしょう。

で,2年(丸17および丸18,p.123)および3年(丸18および丸19,p.125.いくつか漢字に換えられています)で出題されています.
式と答の正答率は,2年は87.9%と86.6%,3年は90.4%と88.9%で,いずれも,式のほうが答よりも少しずつ,高くなっています.
これとまったく同じ構造の文章題が,現行および一つ前の小学校学習指導要領解説 算数編に記載されています.「はじめにリンゴが幾つかあって,その中から5個食べたら7個残った。はじめに幾つあったか」で,いずれも式は7+5です.去年の9月に検討しました.
ここに関しては,指導要領の解説では「増加」を加法適用の根拠としているのに対し,「合併」に基づけば「7+5」としても「5+7」としてもよいので,学力調査ではそのどちらの式も正解としている,という解釈がもっとも妥当ではないかと考えます.
国学力テストの解説資料に見られる「解答類型」があれば,もう少し検討も深まるのですが,それは高望みなのでしょうね.
もう一つは,

1mの重さが1.5kgの鉄のぼうがあります。この鉄のぼう0.8mの重さは何kgでしょう。

で,前掲の「1mの重さが3kgの鉄のぼう…」の重さと長さが小数に置き換わった文章題です.
5年A(丸21および丸22,p.129)および6年A(丸24および丸25,p.133)で出題されています.式と答の正答率は,5年Aは69.1%と68.1%,6年Aは73.6%と72.4%です.ここでも,式のほうが答よりも少しずつ,高くなっています.
これも,「1.5×0.8」だけでなく「0.8×1.5」も正解にしているのだろうと理解しています.過去に試みた考察を貼り付けます.

Q2. 全国学力テストの採点では,乗数と被乗数を逆にしても,バツにしていないとなっている.なぜ教育現場では,かけ算の順序にこだわるのか?
(略)「(注意)乗数と被乗数を入れ替えた式なども許容する。」(略)と書かれているのを確認しました.
で,その問題は,何を問うものなのでしょうか.どこの部分で正誤を判定するかが,読み取れますでしょうか.理想的には一つの「本質」と,解答のバリエーションを与える「末節」が,解答類型や解説から見出せないでしょうか.

右ローテートとトランスポーズ

平成23年度の全国学力テスト,中学の数学に,整数を対象として,どちらでもよいとするような出題があります(11月19日).『小学校指導法 算数 (教科指導法シリーズ)』には,「高学年になり、乗法では交換法則が成り立つことや外国での立式を知り、数の意味をしっかり理解できていれば、必ずしも第2学年で学んだ順序で立式することを強制しなくてもよい」(p.92)と記されています.

6. おわりに

ここまでお読みいただきまして,おつかれさまでした.そして字数のわりに,情報量が多くなかったと思います.
本エントリを作るにあたり実施したことは,一言でいうと「地道なチェック」であり,決して生産的ではありません.こういうことを積極的・継続的にやっていきたい,算数・数学教育の現状を「出題例」から見通したい,という人は非常に少ないと考えています.
「かけ算の順序論争」に関わる多くの方々と,自分との違いを一つ挙げてみるなら,私は一見新しいと思える情報を目にしたとき,「これはあの話と関係しそうだ」と,手持ちの書籍や,かつて見たWebの情報,そして自身が書いたこと(雑記エントリ,授業資料など)をひとまず思い浮かべ,そして照合する習慣が,その論争を知るより前から当たり前のものになっていた*6,という点だと思います.
本ではなく冒頭の記事からも,連想するものがありました.具体的には

大半の大人が「間違える」,社会の常識が「間違っている」とする,算数教育ギョーカイの常識の方が,実はおかしいのではないか,という反省は無いのだろうか?

算数教育ワールドでは,「かけ算の式には正しい順序がある」ことが前提になっている実例 | メタメタの日

なのですが,かつて目にしたところはリンク切れで,Googleで探すと,http://160.26.62.22/chubun/ohno/qanda.htmと出ました.
(最終更新日時:Sun Jan 15 06:01:24 JST 2012ごろ)

*1:もちろん「ケチをつけるために読む」ということではなく,今回の件だと,「乗法」「被乗数」「乗数」をどのような意味・解釈で使用しており,それは他の文書や考え方と比べてどうなのか(どこに位置づけられるか,そして妥当なのか)を確認する作業のことです.

*2:平成19年度から実施されている,全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)では,実施要領に「出題範囲は,調査する学年の前学年までに含まれる指導事項を原則とし」と明記されています.

*3:重さも長さも,連続量としてとらえることができます.したがって,低学年では整数の乗法(や除法),高学年では小数・分数の乗法(同)を問うことで,同じ場面をもとに演算の決定ができているかの比較をしてみよう,そんな出題なのだと解釈できます.

*4:引用者注:「式と答の正答率」の数値のどれとも一致しませんが,これは,式の中に「×」を書いていれば,かけ算の場面であると判断したものとして,割合を出したのではないかと考えます.

*5:「2011年3月 初版第1刷発行」

*6:いい関連情報が思い浮かばないけれど,書き留めたいというときは,Twitterでつぶやいています.