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分数トランプ,文章題カルタ,九九カルタ

教材・教具を活用した算数授業づくりアイデア集 (hito*yume book)

教材・教具を活用した算数授業づくりアイデア集 (hito*yume book)

中博史先生が開発された「ビジュアル分数トランプ」「ビジュアル文章題カルタ」「ビジュアル九九カルタ」と,それらの学校での活用を紹介しています.
カードに何がかかれているかについて,写真や一覧表になっています.とはいえ,写真で表示されていると,1枚1枚は極めて小さいので,それを切り取ってカードとして使用することは,ちょっと困難です.実際に手に取るには,「学校向けに販売いたしております」「出入りの特約代理店にお申しつけください」(p.127)とのこと.
当雑記ではこれまで,かけ算文章題の「見える化」や整理を試みてきましたが,pp.34-35の見開きで一つの表になっている,「文章題リスト」には驚かされました.ここまで全部公開するとは!
「文章題で,A,Bの順に数が現れ,B×A=Pの形でかけ算の式を立てることが期待される問題」すなわち《BA型》とラベリングしてきたものは,p.35の下の説明だと「…色のカードは、場面をしっかり読み取って、1つ分がどのようになっているかを考え、式をつくらなくてはいけない問題です」となっています.
冷静になって見直してみると,かけられる数・かける数とも5以下のところでは,その種の出題が少なく,少なくとも一方が6以上では,約3分の1が《BA型》です.ある式と,そこからかけられる数・かける数を交換した式の両方が《BA型》になっているのが2組(4×6と6×4,6×7と7×6)ありました.8×8も《BA型》の文章題ですが,とはいえこれは,最初の8がどっちをもってきて式にしたのか,分かりませんね.
いわゆる「かけ算の順序」については,

T: 今、A君が言ったことをもう一度言える人?
C: 2×3は1つのはこに2つずつ入っていて、それが3こあるのが2×3で、3×2は、1つのはこに3こずつ入っていて、それが2こあるのが3×2です。
(p.89)

と子どもに言わせる---先生の側から押しつけない---のがポイントになっているようです*1
「かけ算の順序」に対する田中先生の見解としては,p.36が大事になってくると思います.図のあと,最初の文は,「かけ算の式をはじめて学ぶときは、1つ分×いくつ分と書くように学びます」となっています.それは学習指導要領解説や,いろいろな教科書を踏まえた上での記述なのだと,想像できるのですが,学術面(数学教育学)でも,以下の文章と合致します.

2年生の導入時では,被乗数と乗数を明確に区別して扱っているが,これもかけ算の意味の理解を確かにするためと考えられる.図1のみかん全部の個数を4×6=24と表すときに,被乗数4が一つ分の大きさ,乗数6が幾つ分を表していることを大切に扱う必要がある.ただしこの意味は世界共通でなく,例えば英語ではこれを6×4=24とするので,被乗数,乗数の意味は逆になる.なお昭和44年の「小学校指導書算数編」では,基準にする大きさのいくつ文かにあたる大きさを「表わす」ことに触れているが,表現という側面からは被乗数と乗数の意味が特に重要となる.またかけ算の学習は,例えば2の段では被乗数が2の場合に乗数を1から9まで系統的に変化させ(図2),8×2などはここで扱わないが,これもかけ算の意味を大切にしていることの一つの現れであろう.
(p.50)

Students are required to clearly distinguish between multiplicands and multipliers at this stage because this distinction helps them understand the meaning of multiplication. Teachers pay attention to whether their students understand that multiplicands express sizes of units and multipliers express numbers of groups. These meanings are reversed from the viewpoint of some educators elsewhere in the world. The amount of oranges in Figure 1 is expressed as 4×6=24 in Japan. The expression 6×4 is not usually allowed at the introductory stage. Learning starts with multiplications in the form of 2×□ and 5×□. While the multiplier varies from 1 to 9 (Figure 2), 2×□ and □×2 are not learned at the same time.
(p.122)

(布川和彦: かけ算の導入 : 数の多面的な見方、定義、英語との相違, 日本数学教育学会誌, No.92, Vol.11, pp.50-51 (2010). Shampoo Boy(6. 2010年の,かけ算の導入)より孫引き)

これまで本や学習指導案を目にしたところ,「かけ算の順序論争」で十分に議論できていると思えないのが,「〈被乗数と乗数を区別しない〉ことを,児童らにいつどのように学ばせればよいか」であろうと思っています.その答えとなるものを,当雑記で断片的に記しているので,時間をとって整理を試みるとします.
今書けることは…「かけ算で,被乗数と乗数を区別をしなければならない」も「かけ算で,被乗数と乗数を区別をすべきではない」も,ともに極論なわけです*2.「導入としては,被乗数と乗数の区別をし,その後,それらの区別をしない場面や式の書き方を理解していく」を基礎として,「その後」がいつ・どんな場面なのかを共有することだろうと思っています.
(最終更新日時:Thu Jul 26 06:27:07 2012ごろ.タイトルを変更しました)

*1:次のp.90では,《BA型》の文章題に対して「このような問題にであったとき、でてきた数字の順に5×2としてしまう子にしたくない」とも書いています.

*2:「被乗数と乗数を区別をしなければならない」ことを求める文章題はありますが,それを見て,「小学校の算数では,常に,被乗数と乗数を区別をしなければならない」と誤解する人々がいるのが,ネット上での残念な状態の根源であると思っています.