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複比例,速さ,かけ算の順序

なお、速さのこの問題を、takehikomさんが複比例とからめて考察されているページを見つけていたので、リンクさせていただきます↓
http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20120215/1329252792

「比的率」とは外延量という考え方(15)/これから考えたいこと | TETRA'S MATH

この件はQ&Aの1項目にしています.(この一つ前では,「3km/(km/時)×4km/時」について回答しています.)

Q: 時速4kmで3時間歩いた道のりは,必ず,4×3なのですか?
A: あえて「いいえ」と言ってみます.3×4で表していいことを示す,『かけ算には順序があるのか』とはまったく別の手段を紹介します.
時速□kmで△時間歩く道のり(○km)は,○=□×△で表せますね.速さが一定のとき,その道のりは,速さを固定すると時間に比例し,時間を固定すると速さに比例します.なので,道のりは,速さと時間に複比例すると言えます.
複比例と認識すれば,それぞれの独立変数を「かける順序はどっちでもいい」のです.単位を無視して考えたとき,複比例定数を,□倍してから△倍しても,△倍してから□倍しても,答えは同じになります.ということで,○=△×□そして「3×4」と書いてもいいという次第です.
複比例は,《りんごの問題》のような分離量に対しても適用できます.皿の枚数を△,1皿に置くりんごの数を□,りんごの総数を○とすればいいのです.
とはいえ,小学校のカリキュラムで複比例を取り上げるのは困難であり,これは大人の議論と言わざるを得ません.

「×」から学んだこと・2012年秋冬モデル

「倍概念」を複比例の関係と見なせることについては,さらに1年ほど前になります.

「鉄の重さは銅の0.88倍である.ある銅のかたまりが4.2kgのとき,それと同じ大きさの鉄のかたまりは何kgか?」*1という,一見,0.88のみが倍率としか見なせない状況でも,「物質Xの重さは銅のa倍である.ある銅のかたまりがb kgのとき,それと同じ大きさの物質Xのかたまりは何kgか?」と一般化すれば,求めるべき重量yは,aにもbにも比例するので,y=a×b=b×aと表せます.

倍指向と積指向の整理

複比例と面積との関わりについては,銀林浩が言及しています.以下の引用より少し前には,「円/t・km」という複内包量(の単位)や,「t・km(トン・キロ)」という単位も書かれています.

これまで,新しい内包量を生み出すものとして,2つの外延量を割るという演算はしばしば登場してきた。しかし,元来独立的にある2つの外延量を掛けるということは,ここで初めて出てくるのである。ここの例では,重さと長さを掛けて輸送量という量が得られている。
まず第一に,得られたのは,輸送量という単一の量だということに注目すべきである。これは,重さと長さの積ではあるが,そのどちらにも決して解消はされない。たとえば,2tの物を3km運んでも,3tの物を2km運んでも,いずれも
2t×3km=6t・km,
3t×2km=6t・km,
で同じである。その間には何の差違もない。その意味では,重さと長さは輸送量の中では完全に「混じり合っている」のである。これはちょうど,面積というものが,横の長さと縦の長さを掛けて得られるのに,その中では,横と縦は完全に「混じり合っている」のと同じである。
銀林1975b pp.186-187)

「重さと長さの積ではあるが,そのどちらにも決して解消はされない」については,次のように理解しています.すなわち,「重さ×長さ=輸送量」という言葉の式のもとで,重さと長さのどちらが「1あたり量」になるかという問題設定に対して,「どちらでもない」を答えとする根拠となります.

これによって,複比例は「1あたり×いくら分」とは異なる種類の「乗法の意味」を提供することになります.個人的に複比例は,「比例」由来の要素と「面積」由来の要素をあわせ持ったものだと認識しています.


「速さ」について,加法性(加法保存性)を取り入れ,量の理論のもとで検討することも可能ですが,高校物理においては代わりに「相対速度」が使われるものと想像します.
小学校の算数では,学習指導要領およびその解説に基づく限り,ある状況において速さをたしたりひいたりできることを,学習していないように思います.まあ,中学受験では,同時に2人が同じ方向や異なる方向に移動する問題で,そういった加法性を使えば効率良く解けるのでしょうし,「(速さ)=(長さ)÷(時間)」に注意すると小学校の算数の範囲でも,速さの加法性は認識できるのですが.
「ある状況において」と書いたのは,「常に」ではないためです.「上り坂を進む列車を機関車2台で引っ張ると,速度が1台のときの2倍になるかどうか,という問い(答:一般には何ともいえない)」(小島1976 p.139)が指摘されています.

(最終更新:2013-03-10 晩)

*1:引用者注:原文はGreer 1992からで,"Iron is 0.88 times as heavy as copper. If a piece of copper weights 4.2 kg how much does a piece of iron the same size weigh?".今見直すと,sizeは「大きさ」よりも「体積」とすべきだった.