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1あたり

長さが8mで重さが4kgの棒があります.
この棒の1mの重さは何kgですか.
求める式を書きましょう.

この問題*1を起点に,「1あたり」の使いどころを見ていくことにします.
答えを出すだけであれば,「1あたり」は使わなくてもかまいません.ただし,数の順序には注意する必要があり,4÷8が正解となります.
表にすると,なぜ8を4で割るのではなく,4を8で割ることになるのかが,分かりやすくなります.

問題文には書かれていないものの,算数において,この棒の長さと重さは,比例の関係にあることが,暗黙の了解となっています.比例関係とは,一方を2倍,3倍,…すると,もう一方も2倍,3倍,…になるという,2つの量の関係のことです.
比例関係が成り立っているとき,一方をある量から\frac12\frac13,…にすると,もう一方も対応する量の\frac12\frac13,…になります.
「長さが8mで重さが4kg」という状況で,\frac18にすると,長さは8mの\frac18で,1mです.重さも,4kgの\frac18となりますが,計算にあたっては「4kgを8で割る」とすればよく,4÷8=0.5 答え0.5kgが得られるという次第です*2
「4を8で割る」ことは,表に「割る」操作を書き加えることで,より明瞭になります.

式について,8÷4とするのは,間違いです.問題文の場面で「8÷4」は,何をするのでしょうか.表を作り直してみましょう.

長さは,8÷4で,2mです.重さは,4÷4で,1kgです.なので「長さが8mで重さが4kgの棒があります.この棒の1kgの長さは何mですか」の答えであれば,8÷4で正解なのですが,実際には「この棒の1mの重さは何kgですか」なので不正解,というわけです.
比例関係に注意しながら,問題文の数値を変えてみます.

長さが8mで重さが4kgの棒があります.
この棒の16mの重さは何kgですか.
求める式を書きましょう.

表は,次のようになります.

式は,4×2=8で,答えは8kgです.式に8も16も現れませんが,「8mから16mになるということは,2倍することだ」と考えればいいのです.4×(16÷8)と式を立てるのが,より丁寧かもしれません.
また別の値にします.

長さが8mで重さが4kgの棒があります.
この棒の3mの重さは何kgですか.
求める式を書きましょう.

同じように,表にしてみましょう.

この場合,「8mを3mにする」のが何倍なのかは,こういった問題を解くことになる小学生にとって,瞬時に見つけられるとは限りません.そこで最初の問題で求めた「1mの重さ」を,表に挿入します.

そうすると,0.5×3=1.5 答え1.5kgを導き出せます.8で割るのを,式に取り入れるなら,(4÷8)×3です.表は次のとおりです.

比例関係にある量について,その一方を1にしたときの値をいったん算出し,それを使って,求めたい値を計算する方法は,「帰一法(きいつほう)」と呼ばれます*3.「長さが8mで重さが4kgの棒」について,例えば次のようになります.

16mのときの重さを求める式について,先ほどは4×(16÷8)と書きましたが,帰一法だと(4÷8)×16です.
この表で「0.5」は,1mのときの重さとして出現しています.それに加えて「縦に見る」ことでも,0.5を得ることができます.

1を0.5倍すると,0.5です.2を0.5倍すると,1です.3を0.5倍すると,1.5です.8を0.5倍すると,4です.16を0.5倍すると,8です.他の値でも,同様です.
これはたまたまそうなった,というわけではありません.比例関係にある場合,対応する一方の量を,もう一方の量で割ると,その商は一定の値になるのです.ここでは,重さを長さで割ることで,0.5という値を得ます.
この値を,「この棒の1mの重さ」という意味を超えて,活用するのに,「1あたり」の考え方を用いることにします.
「長さが8mで重さが4kgの棒」について,重さを長さで割るという式を「4kg÷8m=0.5kg/m」と表します.この「0.5kg/m」が,1あたり量となります.「1mあたりの重さは0.5kg」を意味するからです.
そして「0.5kg/m」は,帰一法の計算を効率化してくれます.この棒の3mの重さは,0.5kg/m×3m=1.5kgですし,16mの重さは,0.5kg/m×16m=8kgです.
「「この棒の1mの重さ」という意味を超えて」には,補足をしたほうがいいでしょう.「0.5kg/m」は,ここで考える棒を1mにしたときだけでなく,2mでも3mでも4mでも,また何百mでも何マイクロmでも成立(内在)する,棒のいわば「質」に関する情報と言えるのです.


1あたりの活用方法も,奥が深いのですが,ここでは手短に書くにとどめます.1あたり量は,小学校の算数では学習せず,かわりとなる用語は「単位量当たりの大きさ」です.
「kg/m」という単位表記のほか,「4kg÷8m」や「0.5kg/m×3m=1.5kg」のような,式に現れる数値に単位を添える書き方は,小学校の算数の教科書には出現しません.高校の理科で学ぶ「物理量」や,それをもとにした「次元解析」の概念を踏まえるといいでしょう.なお,現行の学習指導要領では,「物理量」が高校の物理基礎に明記されていますが,「次元」や「次元解析」は見当たりません*4
0.5kg/mのような量は「内包量(intensive quantity)」と呼ばれ,それに対し8mや4kgなどは「外延量(extensive quantity)」です.これは日本に限った話ではなく,内包量・外延量の区別や,内包量と「質」との結びつけ,そして乗除算への応用などは,以下の文献*5で解説されています.

  • Schwartz, J. L. (1988). Intensive quantity and referent transforming arithmetic operations. isbn:0873532651 pp.41-52.

キログラムもメートルも,連続量を表しますが,分離量(離散量)にも適用し,分離量どうしの割り算によって「1あたりの数」を求めるほか,「1あたりの数」から始まってかけ算の学習を進めていく,といった指導法は,数学教育協議会の主導で進められてきました.
ところで,帰一法で(4÷8)×16や0.5kg/m×16m=8kgと書いた式のうち,かけられる数にあたる「4÷8」や「0.5kg/m」は,比例定数となります.より具体的には,長さがx mで重さがy kgのとき,比例定数を入れてy=0.5xという式で表すことができます*6.比例の式として考えたとき,その定数,そして内包量が,かけ算の左側に来るのは自然なことで,前述のSchwartzの文献でも,そうなっています.
では内包量は「かけられる数」になるのかというと,2種類の例外があります.1つは内包量どうしのかけ算で,「1個90円のシュークリームが、1箱に3個ずつ入っています。2箱買うと、代金は何円になるでしょう?」という問題に対し,いったん90円/個×3個/箱=270円/箱として,1箱あたりの金額を求めるなら,かけられる数もかける数も,その積も(すべて異なる種類の)内包量となります.
もう1つは,2つの異なる量空間を仲立ちするもの,もしくは,ある量空間から別の量空間へ変換するものとして,「内包量でかける」という考え方です.「割って0.5kg/mを得る」を逆方向に適用し,「0.5kg/mをかける」わけです.

そうすると,「長さが8mで重さが4kgの棒があります.この棒の16mの重さは何kgですか」という問題に対して,16×0.5=8 答え8mという解き方も,認められることを意味します.帰一法に基づく式「0.5×16=8」と比べてみると,かけられる数・かける数が反対になっているのが分かります.
この考え方を知るには,以下の文献がおすすめです.

  • Vergnaud, G. (1988). Multiplicative Structures. isbn:0873532651 pp.141-161.

「2柄×10枚*7」や「400gカット×6.5円=2,600円*8」といった,日常見かける数量のかけ算表記でも,「×」の右が1あたりに置かれています.それらは,「2柄×10枚/柄=20枚」や「400g×6.5円/g=2600円」と解釈すればいいのです.
とはいえ日本の算数・数学では,「10×2=20」や「6.5×400=2600」が期待されています.Vergnaudの文献に書かれている,1個あたり5ドルのおもちゃの車4個の話からも,1あたりをかけるというのは,著者による(次元解析を用いた,大人モードでの)検討なのであり,かけ算を学び始める子どもたちの状況を踏まえると,それが認められたり,授業で活用することを勧めたりするような結論とはなっていません.
「内包量でかける」の日常事例は,サブブログ(「×」から学ぶこと)で取り上げてきました.例えば,ぷよぷよクエストのスキル攻撃〜おじゃまぷよの数×500 - 「×」から学ぶことがあります.理論的な解説は,かける数が1あたり - 「×」から学ぶことより読めます.それらとは別に,批判的な立場からの事例紹介をhttps://twitter.com/golgo_sardineのツイートを通じて見ることができます.

*1:平成22年度実施の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の算数Aで出題されたものを,改変しています.

*2:今回,式だけを問いましたが,全国学力テストでは答えまで求めさせています.答えにおいて,0.5は,分数の\frac12でもかまいません.全国学力テストの解説では,正答となる答えに,「0.5」のほか「\frac48」を記載しています.

*3:https://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/sansu/WebHelp/06/page6_11.html

*4:Web上の情報で,復習するには,http://physnotes.jp/foundations/dimensions/http://mouseion.secret.jp/pdf/phys_dim.pdfがおすすめです.

*5:タイトルのうち"referent"は,「単位」や「助数詞」が対応します.ここまで書いてきた中のkgやmやkg/mが該当するほか,文献では「candies/bag」などが例示されています.

*6:重さがx kgで長さがy mのときは,y=2xとなります.この比例定数2は,「この棒の1kgの長さは何mですか」の答えに対応します.

*7:http://d.hatena.ne.jp/takehikoMultiply/20161228/1482869558

*8:「いきなりステーキ」の量売り価格の表示例です.「6.5円」の部分,すなわち1g当たりの価格は,頻繁に変更されています.