わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

子どもたちは,問題解決型の授業で,「式」から「考え方」を推定している

式から「元の場面を復元する」のは無理があります。
掛け算に、ないものねだりするのはやめましょう。

汝の隣人のブログを愛せよ | LOVELOG

「かけ算の順序」を批判する人々は,式解釈の多様性をアピールします.過去には,次のような主張もありました.

「1あたり量×いくつ分」という順序のルールの適用を認めたとしても、
「8×6」という式だけを見て「その考え方を守っていない」と判断することはできない

掛け算順序問題:「式」だけでは「考え方」は推定できません - 開米のリアリスト思考室

B. a×b という式には正しい解釈がたくさん存在するのに、
 ある特定の解釈だけが正しいと考えてしまうこと。

かけ算の式の順序にこだわってバツを付ける教え方は止めるべきである

そういった主張がある中で,なぜ小学校では,特定のかけ算の式のみを正しいものとし,かけられる数・かける数が逆になったら間違いとしているのでしょうか.
私は,「問題解決型の授業」(「問題解決学習」とも)に,そのヒントがあるのではないかと思うようになりました.


「式解釈の多様性」について,今年はじめに書いたものを,抜き出します.

2番目は,教室で,「3人に4個ずつおかしを配る」に対して「3×4」と書くと,

  • 一つ分の大きさは3個(「3人」とあるけれど,1回に配るおかしの数に読み替えた)で,いくつ分は4回(「4個」とあるけれど,配る回数に読み替えた)だから,3×4=12 答え12個.これは,場面を表した式である.

のほかに

  • 一つ分の大きさは3人で,いくつ分は(おかしでできた建物の)4個(「4個ずつおかしを」とあるけれど読み替えた)だから,3×4=12 答え12人.これは,場面を表した式ではない.
  • 一つ分の大きさは(お菓子の数の)3個(「3人」とあるけれど読み替えた),いくつ分は4人(「4個」とあるけれど読み替えた)だから,3×4=12 答え12個.これは,場面を表した式ではない.

という解釈があり得るのです.(略)なお,場面を表した式であるロジックを含めた3つについて,「解釈があり得る(may be interpreted)」であって,いずれか一つに「解釈される(should be interpreted)」のではない点には,くれぐれも注意です.

Re: 算数の教科書とその指導書の問題点

ここで挙げた箇条書きの3項目は,いずれも,「3×4」という式から出発して,それがどのような意味になるかをあらわしたもので,「式の読み」と呼ばれます.
実際に子どもたちがどう言っているかについては,本やWebの学習指導案・授業例を読んできた限りでは,3番目すなわち「3個×4人になってしまう」がほとんどです.
2番目は「3人×4=12人」と表せます.こう解釈している事例は,上に「(略)」とした中で画像(板書例)にリンクしているほか,昭和26年の学習指導要領算数科編(試案)の中にも見られます.いずれも,教える側の考えとなっています.
長いこと気になっていたのは,1番目すなわち「3個/回×4人=12個」---トランプ配り---の考え方が,小学校の授業の中で発生していないのか,子どもが発言していないのか,です.これについて私は,「そのような発言はないらしい」と認識しています.
そのように認識するに至った文献・書籍があります.一つは,かけ算およびわり算の文章題に対する子どもたちの解法:長期調査で見てきた件です.かけ算が未習から既習となっていく中でのストラテジーには,1,2,3,…と順に数えるもの,2,4,6,…と飛ばしながら数えるもの,5+5=10,10+5=15,…として数え足すもの,九九の答えを使うものなどが見られるのに対し,トランプ配りは出てこないのです.もう一つ,『365日の算数学習指導案 1・2年編』p.66にある,「1個ずつ置くか,2個ずつ置くかという置き方ではなく,置いた結果に着目させる」を,それまでの授業で学んでいれば,この種の問題でトランプ配りを使っちゃいけないんだなとなります.
しかしながら,もし,「3個/回×4人=12個」の考え方を,授業中に子どもが発言したら,どうなるでしょうか.
おそらくハッシュタグ #掛算が賑わいます.冗談はさておき…
授業としては,比較検討の段階でケチがつくように予想します.
一つの式に対するいくつかの解釈を,子どもたちが発表したあと,子どもたちどうしで,あるいは先生が入って議論する際に,3×4は良くないんじゃないか,「3個/回×4人」と分かってもらえないんじゃないか,という指摘が入りそうです.
その際の比較は,3×4という式の(複数の)解釈にとどまりません.「3人に4個ずつおかしを配る」という場面に対する,3×4と4×3という2つの式の間でも,なされます.「一つ分の大きさ(1つ分の数,1あたり量,基準量)×いくつ分」や,a×b=a+a+…aといった同数累加で,乗法を意味づけられているため,4×3は「4個×3人」(1あたり量を用いる場合は,「4個/人×3人」)と考えることができ,自然な立式と言えます.3×4で「場面を表した式ではない」となった解釈を“キズ”と呼ぶとするなら,4×3にはそのような“キズ”がないわけです.
「意味づけ」についてですが,批判する人々は,その意味づけをも批判します.しかし代案となる,小学校で利用可能な指導法が見当たらない上に,アレイなど他の意味づけが歴史的にどうなってきたかを見てきていないので,建設的な議論ができずにそこまでとなります.「あれもあるし,これもあるじゃないか」という,つかみどころのない主張と,「あれもある,これもある中で,我々はそれを採用している」(例えば,布川, 2010)という,地に足のついた現状との対決,と言ってもいいでしょう.
そうこうして,問題解決型の授業の「まとめ」において,式には4×3が採用され,言葉としては「出てくる順番にかけちゃだめ」「『1つ分の数×いくつ分=ぜんぶの数』の式にしよう」などとなる次第です.


はてブしてきた,Webで読める学習指導案を見直したものの,上のような一つの問題でa×bかb×aかを考える授業というのは,次のものだけでした.

目についたのは,a×bとb×aになる2つの場面を同時に提示し,式はそれぞれどうなるかを考えさせるタイプです.

教科書(大日本図書,東京書籍)にも同様の出題があります.その類型と正誤判定については,問題と解答の展開に記しています.


「問題解決型の授業」あるいは「問題解決学習」を既知としてきましたが,流れや,集団と個の関わりについて,次の記述がもっとも簡明です(『小学校指導法 算数 (教科指導法シリーズ)』p.206).

数学教育学研究ハンドブック』第4章§4問題解決(pp.221-232)の内容も,目的や年代ごとの変化を知るのに有用でした.
授業を通じて子どもたちが「式」をもとに何を考えているのか,深いところには本日,入り込めませんでした.書籍としては以下の3冊がおすすめです.

算数科「問題解決の授業」に生きる「問題」集

算数科「問題解決の授業」に生きる「問題」集

それぞれ,3年のわり算かけ算どっちの式でもいいのかな - 北数教takehikom 2013-03-07 #掛算 - Togetterとして書いてきました.