それなりの字数ですが,自分の考えと外の情報とをうまく組み合わせており,非常に読みやすい文章だと感じました.
「投稿日: 2014年2月22日」ですが,これまで2か月足らずの間,コメントがないのは,特徴になるのかもしれません.知ったのはきわめて単純で,google:かけ算の順序からです.
内容に関して,ここが間違い,真実はこうだと吹っかけても,平行線になるのが予想できます*1.いくらか歴史的な話を添えたほうがいいように思いましたので,自分の手持ち情報の再確認を込め,ピックアップしてみました.
なお,歴史的な話は論争(日英韓)に,また出題事例はかけ算の順序を問う問題に,それぞれ書き出しています.いくぶん古い内容ですが,正解・不正解の解釈を含めた式の書き方については,ダブスタ考で私論を述べています.率直なところ,冒頭でリンクした記事は「ネットde真実」という印象を持っています.
問題になったのは
問題になったのは1972年と古いのですが、未だに再燃する未解決問題のようです。
http://www.jiftm.org/yujakudo/miscellany/order-of-mult/
またWikipediaによると、この問題は1972年の朝日新聞の記事からだそうです。単にネットのブームではなく根が深いんですね。
http://www.jiftm.org/yujakudo/miscellany/order-of-mult/
『算数・数学教育つれづれ草』では,論争が湧き起こったのは「昭和40年(1965年)ごろ」,と書かれています(*).
間違いとして指導する事例は,1950年代から見ることができます(*,*).
なお,朝日新聞は「かけ算の順序」に関連した記事を,1972年のほか,2011年と2013年に出しています(*).2011年は順序の指導を含む授業風景なのに対し,2013年は懐疑的となっています.
かけ算の式
私の言葉で、先生や教科書出版社がマルを付けるかけ算の順序を表すと、以下のようになります。
http://www.jiftm.org/yujakudo/miscellany/order-of-mult/
係数 × 独立変数 = 従属変数
FBで頂いたコメントでは、とある学校では以下のように表されているようです。
一つ分の数 × いくつ分 = 全部の数
「係数 × 独立変数 = 従属変数」と非常に近い,かけ算の意味の解釈を,Vergnaudが示しています.『算数・数学科重要用語300の基礎知識』では,「関数関係」として紹介しています(*).
同じ文献で,また別の解釈も示しています.「一個300円のみかんが5個の値段」を300円×5=1500円と書くようなもので,300円を5倍(スカラー倍)して1500円になることから,「スカラー関係」と呼ばれます.「一つ分の数 × いくつ分 = 全部の数」は,このスカラー関係のもとで理解することができます(*).
「スカラー関係」「関数関係」は,それぞれ「倍操作」「関数的な操作」という名称で昨年,ある本に記載されていました(* 「かけ算の順序」の文章題で正解になり得る解釈として,記されています).
拡張
中学生になって数学が導入されるときに、混乱しそうな点として思いつくことは以下です。
- 負の数や交換法則、結合法則などの概念拡張。
- (略)
1点目は純粋に概念拡張で、算数の教え方の問題ではないかもしれません。
http://www.jiftm.org/yujakudo/miscellany/order-of-mult/
算数でも,そしてかけ算の指導においても,「拡張」は重要な要素となっています.かける数が小数になる際には,「乗法の意味の拡張」といった用語が用いられます(*,*).
国内では,「7×2.4」という式が,小数の乗法の意味を理解しているかの調査に使われてきました(*,*).海外では,「あるロケットは1秒間に0.85マイルのスピードで進む.16秒ではどれだけ進むか?」だったら,子どもたちはかけ算を選ぶけれど,「あるロケットは1秒間に16マイルのスピードで進む.0.85秒ではどれだけ進むか?」になるとわり算を選びがちである(*)ことが,実験を通じて明らかにされています.これは,「かける数が1未満の小数のとき,積はかけられる数よりも小さくなる」という性質の理解が児童らには困難であるためです.
ただ,学年としては5年なので,「かけ算の順序」に批判的な人々の間ではほとんど注目されていません.
「どのようにしたら、ほとんどの小学生が混乱なく四則演算を身につけられるか」に対して,この種の,つまずきやすい問題への整備も必要となってきます.そういった整備について,批判者の発する情報は残念ながら,不案内です.
△をつける
私が小中学生の頃は△を付けて配点をサービスしてくれた先生もいたものですが、今はどうなんでしょうね?
http://www.jiftm.org/yujakudo/miscellany/order-of-mult/
5人に飴を4個ずつ配ると飴はいくつ必要か 赤ペン先生回答│NEWSポストセブンによると,ベネッセの添削では「「△」を与え、マイナス1点としている」とあります.この記事には教師向けのメッセージも込められていると感じまして,賛意とともに個人的な認識を書いたことがあります(*).
Z会は「式を逆に書いても正解」の立場です(*).各団体の状況を,昨年上半期ごろまで,集約してきました(*).
技術者のための教育関係書籍
URLは変わりますが,事情はそこで書かれているので,引き続いて取り上げます.
「教師の仕事 365日の法則―見て学ぶイラスト版」
- 向山 洋一・前田 康裕,明治図書出版,1998
私が読んだ当時、向山洋一さんは校長先生をやっていて、本屋の教育コーナーには「向山洋一シリーズ」が並んでいました。そのシリーズの本(「算数」「跳び箱」)も読みましたが、一番最初に読んだ向山さんの本だけ紹介します。(マンガもあって楽しいですし。)
http://www.jiftm.org/yujakudo/tech-manage/books-of-edu-for-engineer/
「教師の法則」は、人と関わる全ての仕事にも当てはまります。なんせ子供は大人のアーキタイプですから。とくに「趣意説明の原則」は今でも心に止めており、これまでのブログ記事にも心がけています。(クドかったかも知れません。^^;)
この先生が行った「教育の法則化運動」は教育界では賛否あったようです。しかし改善のためのプロセス定義や、他の会社のベストプラクティスを導入して成否の理由を考えるのは技術者にとってはあたりまえのことです。(そうでない技術者もいます。)ですので、私にとってその趣意は腑に落ちました。
「教育のTQC運動」のようなネーミングにしたら語弊が少なかったかもしれません。^^;
向山型算数では,出版されている出題や授業事例を読んだ限り,「かけ算の順序」を認めています(*).
その際に書いた「仮説ですが,あえて教育制度から独立させ,教材や指導法を整備しているのでしょう」が,「他の会社のベストプラクティスを導入して成否の理由を考える」につながってきそうです.
ここまで,「交換法則が成り立つのでバツをつけるのは反対」に関しては何も書いてきませんでした*2.ネットでも,算数教育に携わっている方々の本でも,そして英語文献でも,交換法則とかけ算の式の表現については,賛否を見ることができます.また別の機会に,□×△と△×□の違い:事例をベースに書き直すことにします.
(最終更新:2014-04-10 晩.[http://megalodon.jp/2014-0410-2113-06/d.hatena.ne.jp/takehikom/20140410/1397082119:title=初期バージョンの魚拓])