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等分除包含除不要論

昨日の続きです.「等分除や包含除といった区別は,本当に必要なのか?」という“そもそも論”について,書いておきます.
算数を教える側では,その区別は知っておくべきであるけれども,子どもに「等分除」「包含除」という名称までは教えるべきでない,という立場に賛成です.それらの名称は,小学校学習指導要領解説 算数編に記載がありますし,米国Mathematics Standardsに記されているGrade 3・Operations & Algebraic Thinking(*)や,かけ算・わり算の表(*)も,かけ算(乗法)・等分除・包含除の3つ組とみなせば理解がスムーズになります.
子ども向けには,というと,戦前から「ニワリ・ヅツワリ」「つ割・づつ割」という呼び分けがあったこと,現在でも「にこにこわり算」「どきどきわり算」ほか親しみやすい名称が見られることを挙げておけば十分でしょう.『算数授業研究 VOL.89』の裏表紙には,「わけ算」「とり算」を子どもたちがつけた呼び名とし,それぞれの問題文・式・答え・図表現を記したノートが掲載されています.
では2つの区別は,わり算の導入を行う3年まででよいかというと,それには反対です.小学校学習指導要領解説 算数編では,第5学年の説明のところで,いわゆる割合の第1用法は包含除の拡張であり,第3用法は等分除の拡張であると読むことができます.そして「多くの児童にとっては」第1用法よりも第3用法の「方がとらえにくい」とも記されています.
本当に捉えにくいのか,何らかの定量評価があるのかというと,適切な文献を見出せていませんが,全国学力テストの出題と解答状況は,無料で検証できる良い媒体となっています.とくに平成25年度の算数A*1では,2つの大問(大問3と大問8)で,基準量を求める出題すなわち第3用法に基づく出題がなされ,他と比べてその正答率は低くなっています.「全国的な児童生徒の学力や学習状況を把握・分析し、教育施策の成果と課題を検証し、その改善を図る」(全国学力・学習状況調査の概要:文部科学省)という目的と,全解答者共通の出題*2そして限られた紙面・時間のもとで,第3用法によるわり算が毎年のように使われているなという印象を持っています.
TwitterやWebの掲示板でときおり見かける,等分除・包含除の不要論は,ここまで簡単に書いてきた,歴史的国際的な観点も,高学年の乗除算との関わりも,そして(いわゆる受験算数ではなく,賢い子も算数嫌いの子も共通して解答する)全国学力テストの状況なども踏まえておらず,算数・数学教育に寄与しないばかりか,「ネットde真実」を生み出しているばかりだなあと危惧しています.
とはいえ,学会誌に掲載された不要論もあります.

「8. わり算は「包含除と等分除」ではない」という節があります.独自定義の「数の積」を説明し,明快でない例を与えたのち,次のように記しています.

「n÷m」に「包含除・等分除」の2つの意味があるのではない。「n÷m」が立式される問題の構造には,m×○=nで応じるものと,○×m=nで応じるものの2通りがある。ここが要点である。

ここを読んで,あるいは文章全体を読んだ上で振り返って,「そうか,そういう違いがあるのか」と共感する人は,少ないように思います.小学校学習指導要領解説 算数編の書かれている「包含除は3×□=12の□を求める場合であり,等分除は,□×3=12の□を求める場合である」を思い起こせば,同じじゃないのと言えるからです.
少し問題設定を変えて,「わり算は「包含除と等分除」だけでいいの?」とすれば,いずれでもない例も出すことができます*3.そしてそういった例が,小学校の第何学年,あるいは中学校以降のどこで学べばよいかを,見ていけばいいのです.
ですが検証をするより前に,そんな反例が算数教育,とくにわり算導入時の指導に寄与しないのが十分に予想できるので,やりたい人はいないでしょうね.

(最終更新:2014-12-10 朝.書籍を差し替え)

*1:正答率まで載っているのはhttps://www.nier.go.jp/13chousa/13kaisetu.htmにある「算数」のPDFファイルです.

*2:解答者によって異なる出題を与え,うまく処理して「等化」することの可能性やリスクについては,学力評価の最前線全国学力テストの問題を非公開にできるかで書いてきました.ともに,いわゆるかけ算の順序論争に関わるよりも前に作った記事です.

*3:真っ先に思い浮かぶのは,長方形の面積と一つの辺の長さから,隣の辺の長さを求めるものです.昨日書いた中で「積のaまたはbを求める演算」に該当します.