わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

×2.3

前半(pp.59-66)は授業紹介,後半(pp.66-75)はマニュアルづくりの留意点が書かれています.現在,「マニュアル」というのは,それに基づいてしか行動できないといったふうに,融通が利かないことの象徴となっていますが,この文献ではどうやら,指導法や指導案をマニュアルと称しており,自分で作りあげ,磨き上げるにはどういったところに配慮すればいいかが,記されていると判断しました*1
前後半とも,「小数のかけ算」を取り扱っています.具体的には,乗数が小数となるような乗法の「意味」と「計算の仕方」です.使用する(問題解決の中で立てる)式は,400×2.3です.
小数のかけ算の最初で,2.3が乗数となっているのはなぜなのか…
「教科書がそうなっているから」という答えは,野暮というものです.なぜ教科書が,2.3を乗数に選んだのかを検討していきたいところです.
上記の文献から拾い出せる根拠,言い換えると「ああ,そうなっているのか」と感じたのは,次の2点です.

  • 400×2.3の答えは,400×2と400×3の間にある*2.これにより,数量関係の把握*3や,比例の考え方*4の適用が期待できる.
  • 400×2.3=400×2+400×0.3と分けた*5とき,400×0.3=400×3÷10や400×0.3=400÷10×3=40×3などにより計算できる.

これらについて,数直線とその前後の文章を取り出しておきます.

特にできない子どもに対しての手だてである。私なら線分図を記入した紙を与える。

この図によって,0.3mを求めればいいことを分からせる。それでも分からないときは,0.1mの値段を考えさせる。
この2段階のヒントでたいがいの子どもはできるはずである。
(p.61)

では,なぜこの学習課題が解決のためのヒントを包含しているのか。
もう一度,下の線分図を見てほしい。

まず,2.3mが2mと0.3mに分けられることに気づく。つぎに0.3mの代金をどのようにして求めればいいかを考えればいい。そこで,1mが400円になっていることから,0.1mは,1mの10分の1だから40円となり,0.3mは120円となることが分かる。また,0.3mは3mの10分の1だから,1200÷10=120円となることも分かる。3mまで示すことが大事なのが分かるだろう。
しかも,遅れた子どものためには,線分図に0.1きざみの目もりをうっておくとよい。これが解決のひらめきに役立つ。
(p.70)

とくに,400×3が,上界(求める金額が400×3=1200(円)よりも大きくなったらおかしい)と,小数部の処理(400×0.3=400×3÷10)の2つの意味で用いられるのには,なるほどと感じました.
1つの数直線上で,下界(×2)も上界(×3)も,×0.1も,そして0も入れた,全体を見ることができるのが,×2.3だと思えば,乗数をこの値にしたのも納得がいきます.


補足を2点.
(1) 上の引用では「特にできない子ども」「遅れた子ども」が出てきますが,授業紹介では,400×2.3を未習の筆算で求める子どもとその対応についても,取り上げられています(p.65).そこでは*6,筆算で計算すると,小数点以下が消える処理(あるいはp.65の「小数点の移動のたての線」)が必要となり,処理が煩雑になります.
導入においては,10の倍数に,1を超えて10未満で小数第1位までという数をかけ…式にするなら,(a×10)×(b+c÷10)=a×10×b+a×cを求めることになります.
そうするとこれは,筆算よりも数直線,形式的処理よりも意味理解と合わせた計算を行うのが,より望ましい,といったところでしょうか.
(2) 冒頭の文献は,昨年のちょうど今ごろにはてブ*7しました.また昨年12月には,批判的なツイートが出ています*8
雑誌名の「イプシロン」は,愛知教育大学数学教育学会誌とのことです*9.大学そして算数・数学教育の変遷について,http://hdl.handle.net/10424/987の文献を興味深く読みました.

*1:自分にとっては話す予定のことを当ブログで記事にしてみたり,使い捨てのコードを書いたり,PowerPointInkscape,あるいはワンライナーのconvertコマンドで絵を描いたりする活動と,重なっています.

*2:「400×0.3の答えは,400×0と400×1の間にある」というのは,考えてみれば確かにそうだけれど,400×0や400×1を持ち出すことの必要性が出てきません.このことは,小数の乗法の導入にあたって,乗数は純小数(1より小さい小数)よりも帯小数(1より大きい小数)のほうが教育上良いとする根拠となります.

*3:数直線を使って「400×2.3の答えは,400×2と400×3の間」を理解しておけば,400×2.3=9200という答えになってしまっても,400×2=800,400×3=1200で,9200がそれらの間に入っていない,おかしいぞと思うことができます.

*4:英語ではproportional reasoningです.現在の教科書で,比例を先,小数のかけ算をその後に配置したものもあります.「1m400円のリボンを2m買うなら400×2(円),それなら2.3mを買うのは400×2.3(円)でいいじゃないか」とすれば,形式不易の原理(を演算の意味に適用すること)と考えることもできます.

*5:小数を含む分配法則を証明していない段階で,この式を認めてよいのかという問題はあります.実際,授業でこの式が出現しているわけではありません.そのことは,この項目の他の式変形にも当てはまります.

*6:学習指導要領解説に載っている80×2.5の式も該当します.

*7:http://b.hatena.ne.jp/entry/repository.aichi-edu.ac.jp/dspace/bitstream/10424/1439/1/epsilon385975.pdf

*8:https://twitter.com/temmusu_n/status/407133689252831233.当ブログでは同じ日の朝に,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20131201/1385847772#3にて,1936年の本も「小数×整数」「整数×小数」「小数×小数」の順になっていることを見てきています.

*9:http://ci.nii.ac.jp/ncid/AN00016653