わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

I×E,S×E

  • Nesher, P. (1992). Solving Multiplication Word Problems. In Leinhardt, G., Putnam, R. and Hattrup, R. A. (Eds.), Analysis of Arithmetic for Mathematical Teaching, Routledge, pp.189-219. isbn:0805809295

本は購入していません.http://books.google.co.jp/books?id=Vyl42R9JV1oC&pg=PA189より全文を読むことができました.
Word Problemとは,文章題のことです.この解説では,はじめに子どもたちのたし算・ひき算の文章題理解を概観したのち,かけ算だとどうなるかという問題意識のもと,3種類の方法を紹介しています.1番目はかけ算・わり算に関するモデル(implicit models)の構築*1,2番目は次元解析(dimensional analysis)*2,そして3番目がテキストに基づくアプローチ(textual approach)です.
3番目の方法では,Schwartzのモデルにおける「I×E」と「S×E」の違いにページをとっています(p.203以降).I×Eのタイプの文章題は,p.203によると:

There are 5 shelves of books in Dan's room.
Dan put 8 books on each shelf.
How many books are there in his room?

そしてS×Eのタイプの文章題は,p.205に書かれていて:

Dan has 5 marbles.
Ruth has 4 times as many marbles as Dan.
How many marbles does Ruth have?

I,E,Sの各文字の意味ですが,Iは内包量(intensive quantity)あるいは「1あたり量」,Eは外延量(extensive quantity)です.Sについては明示されていませんが,読んだ限りでは,倍率すなわちscaling factorが適当と思われます.
本文に,上記それぞれの場面に対応するかけ算の式が出てきませんが,前者はI×Eというのだから,8 books per shelf × 5 shelves = 40 booksが期待され,算数の式としては8×5=40です.それに対しS×Eのタイプは,Sに当たるのが4なので,4 × 5 marbles = 20 marblesで,算数としての式は4×5=20です.
日本の算数ではどうなるかを,考えてみます.「太郎の部屋には5段の本棚があります.どの段にも8冊の本があります.部屋に本は何冊ありますか」という文章題では,8冊のほうがかけられる数,5段のほうがかける数になり,8×5=40 答え40冊とするのが期待されます.
2番目のほうは,「太郎は5個のおはじきを持っています.花子は太郎の4倍のおはじきを持っています.花子は何個のおはじきを持っていますか」と訳しあ上で,5個のほうがかけられる数,4倍のほうがかける数ということで,5×4=20 答え20個となります.
和英の問題文とかけ算の式を比較したとき,I×Eのタイプでは,パー書きの量が,×の左に来るので共通しています.それに対し,S×Eのタイプだと,そのモデルに忠実に当てはめるなら,何倍にあたるSが×の左になりますが,日本の算数では,「(5個の)4倍」ということで,×の右に置く必要があります.
「外国は外国,日本は日本」でもいいのですが,日本式のほうが合理的な根拠もあります.一つは累加を用います.本の問題は,8+8+8+8+8であり,5+5+5+5+5+5+5+5だと本棚の数が40と解釈できてしまいます.おはじきについても,5+5+5+5であり,4+4+4+4+4とするのは同様に無理があります.
積の単位(次元)に着目することもできます.上に書いた(こちらで創作した)「8 books per shelf × 5 shelves = 40 books」では,積の次元のbook(s)は,×の左の量に出てくるのに対し,「4 × 5 marbles = 20 marbles」について,積の次元のmarbles(s)は,×の右にあります.
これは一般化して,I×E=E'はn1[d1/d2]×n2[d2]=n1・n2[d1],S×E=E'はn1×n2[d1]=n1・n2[d1]で表すことができます.それぞれの右辺はn1・n2[d1]で共通していても,その次元のd1は,左辺ではそれぞれ×の左と右にあるというわけです.
もし,d1を,×の左に置こうとするのなら,n2[d1]×n1=n1・n2[d1]です.
そうするとついでに,E×S=E'あるいは,かけられる数と積が同種の量となるので,E×S=Eと書きたいところです.

*1:非対称性・対称性の違いや,「かければ大きくなる」「わり算は大きい数を小さい数でわる」といったmisconceptionとその対応などが書かれています.

*2:これまで当ブログで取り上げてきた,VergnaudとSchwartzが,このカテゴリに入ります.ただし違いもあって(p.199),Vergnaudは「1」を含むfour-place relation,Schwartzは「1」が出現しないthree-place relationで,分析がなされています.