わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

×0.8,×2.5

×0.8?

 「コンピテンシー・ベース」と相対するのは「内容ベース」です.「教師は何を教えるのか」ではなく「学習者は何ができるようになったか」を重視しよう,とも言えます.
 内容面では,総論の中にも,図表や教科固有の事例が入っており,薄い冊子にぎっしり詰め込んだもんだなあと感じました.
 さてさてですが問題です(p.21).

【問1】35×0.8=(  )
【問2】計算が35×0.8で表せるような問題(文章題)を作りましょう。
【問3】あなたは部屋のリフォームを考えています。あなたの部屋は,縦4.2m,横3.4m,高さ2.5mの部屋です。今回あなたは床をタイルで敷き詰めようと考えています。お店へいったところ気に入ったタイルが見つかりました。そのタイルは,一辺が40cmの正方形で,1枚550円です。お金はいくら必要でしょうか。途中の計算も書いてください。

 問1と問2は楽勝ですが,問3は,容易ではありません.「高さ2.5m」は条件過多ってやつですし,40cmは0.4mに置き換えて,mで統一しておくのがよさそうと,前準備をした上で,すぐに気がつくのは,4.2や3.4が,0.4で割り切れないことです.
 タイルを2重に敷くのは非現実的なので,切って使うことにします.そうすると部屋の面積÷タイル1枚の面積=タイルの枚数となって,4.2×3.4÷(0.4×0.4)=89.25で,切り上げて90枚を購入する必要があります.
 金額を出す前に,90枚を用意したあとでの切り方・敷き詰め方を確認しておきます.80枚は切らずに敷いて,縦4m,横3.2mの領域となります.9枚のタイルを0.4m×0.2mに分割して18枚の「半分タイル」をつくり,そのうち8枚を縦0.2m,横3.2mの領域に,残り10枚を縦4m,横0.2mの領域に詰めます.最後に1枚から0.2m×0.2mを取り出して(「4分の1タイル」),隅にはめれば,敷き詰めの完成です.
 あとは単価×枚数で総額です.550×90=49500 答え49500円となります.
 本文には答えも,またこの出題の出典も載っていませんでしたが,3つを挙げた意図について書かれていました(pp.21,24.なお,pp.22-23は見開きで「図3」となっています).

 上に挙げた三つの評価課題は、ともに「小数の乗法」という内容の習得状況を評価するしかし、それぞれの課題が測っている学力の質には違いがあることがわかるでしょう。問1は、小数の乗法の演算技能が身についているかどうかを問う課題(「知っている・できる」レベル)です。問2は、小数の乗法で答えの出せる生活場面をイメージできるかどうか問うことで、計算の意味理解を問う課題(「わかる」レベル)です。そして、問3は、数学的に定式化されていない現実世界の問題について、どの知識・技能を使うか判断し、場面から必要な情報のみを取り出して、既有知識を組み合わせて筋道立てて思考することを求めるもので、知識・技能の総合的な活用力を問う課題(「使える」レベル)です。

 意図については納得なのですが,問3には「×0.8」が出現せず---数値もさることながら,切り方・敷き詰め方を先に考え,そこから式を組み立てるとすると,小数のかけ算なしで*1,求めることができてしまいます---,その意味で,問1・問2との対比になっていないのが,少々残念でした.80cm平方のタイルは,気に入って何枚も買って,自分で床に敷き詰めるレベルではないのですけどね.

2.5の意味

 タイトルにある「ビルドアップ型算数授業」は何かというと,まえがきのところで,連続したカギカッコがありまして(p.5),「子どもたち全員が解決すべき問いが生まれてくるまでは、先生はとことん付き合う」「その問いは、子どもたちの力の差に関係なく全員が解決の道筋を立てることができる」「しかし、子どもたちの取り組み方は様々ある」「様々な考えや方法はつなげることができる」「つながっていくことで徐々に知識が積み上がっていく」「そして、何より全員が同じレベル、すなわち本時のねらいにたどり着くことができる」となっています.問題解決型の算数授業の課題を克服するために開発したとのフレコミですが,まあそういった宣伝臭さはともかくとして*2,本文の授業例はいずれも興味深い内容でした.
 5年「小数のかけ算」の授業は,p.55から始まります.「子どもたちに2.5の意味を問う授業をしたい」が,同じページで太字になっています.
 次の太字は,p.57です.段落ごと引用します.

 ここからわかるのは、「×2.5」のことを「×2.5m」と誤って捉えている子が多くいるということです。つまり、「1mの代金×長さ=代金」と思っている子どもです。本当の意味は、長さが○倍になれば、代金も○倍になるから「1mの代金×○倍=代金」でしょう。

 その授業で,最初に提示された問題は,「1m80円のリボンがあります。代金を求める式が,80×2.5になるリボンはどれだけでしょうか?」(p.55)です.黒板に1mの長さを引いてから,別に1本を伸ばして,2.5(m)のところで子どもたちにストップの声をかけるよう指示していました.
 引用の「1mの代金×長さ=代金」が誤りというのには,大人モードで,違和感を持ちました.数学教育協議会が検討・実践してきた意味づけのほか,Vergnaud (1983)からも,この形の式は認められるべきだと思ったからです.
 読み進めていくと,値を変えた問題が出てきました.これもp.57です.

「4mで320円のリボンがあります。320×2.5のリボンの長さはどれくらいですか?」

 その次のページでは,1mのときと同様に,4mの長さをまず引き,別の1本を伸ばしていってストップさせると,子どもたちに2種類の声が上がるとしています.2.5mのところ*3と,10mのところです.
 とはいえ,320円×2.5mにせよ320円/4m×2.5mにせよ,その場面に合った式ではありません.「1より大きな2.5をかけているのに、長さがもとの4mより短くなるのは不自然だからです」(p.59)を経て,教師=著者のねらいとなる「「×2.5の単位が2.5mだと、おかしいよね」と立ち止まって考える場面を仕掛けます」(同)が,これまた太字になっています.
 これでやっと,著者のいう,小数のかけ算における2.5の意味が見えてきました.文字の式で表すと,「基準量amでx円のリボンがあるとき,am×bの長さの代金はx×b円である」です.
 これは,「b倍」の意味だけでなく,「比例関係」(proportional relationshipあるいはproportional reasoning)をも表しています.「単位量(1m)でx円のリボンがあるとき,bmの長さの代金はx×b円である」では見えてこない関係です.
 それとは別に,4mの2.5倍は2.5mじゃないよという話は,割合分数と量分数の違いを連想しました.2mの3分の2となる長さは,2/3mと区別しないといけません*4.授業は小数のかけ算ということだったし,割合分数・量分数なんてのも,教師によっては取り扱うべきでない用語・概念だったりするかもしれないので,本文で言及なしなのは妥当なところですが,b倍あるいは×bの意味や使われ方を検討する際には,配慮したいところです.

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(略)3番目のは,3×4=12と求めてもかまいませんが,横の長さはもとの\frac23,縦の長さはもとの\frac34なので,つくった長方形の面積=もとの長方形の面積\times\frac23\times\frac34=もとの長方形の面積\times\frac12 と書けば,小学校の分数のかけ算と関連づけることもできます.

半分の面積の図形を描く

*1:mではなくcmで統一しておければ,小数のわり算も不要となります.

*2:誤記も気になりました.p.47の1行目の「錯覚」は「錯角」です.p.170の最初の4行の問題では,「2m伸ばす」と「50cm伸ばす」の文の間に,「その1年後には、記録を1m伸ばすことができました。」が抜けており,そのためp.172の表と整合性がとれていません.

*3:ここでストップを言わせるよう,4mのほうでは1mごとに区切りを入れておき,「先生、ずるい!」の抗議を受けて区切りを消し,それによって「4mを1と見ることができ」るようになるというところまでが「仕掛け」(p.60)とのこと.この種の,本質を浮かび上がらせるための仕掛けは,授業のスライドやプログラミング科目の実演で,うまく取り入れたいものです.

*4:もちろん,1mの3分の2となる長さは,2/3mです.これは,「1mでx円のリボンがあるとき,1m×bの長さだとx×b円となる」が「1mでx円のリボンがあるとき,bmの長さだとx×b円となる」に置き換えられることと関連しています.