わさっきhb

大学(教育研究)とか ,親馬鹿とか,和歌山とか,とか,とか.

小学校算数における乗法の導入問題

論文もPDFで読むことができます.
大学生を対象に,2種類の調査を実施しています.調査1では,「かけ算の導入問題としてふさわしいと思う問題を作成してください」という課題を与えたところ,結果は次のようになりました.

  • 「2つのおかしが入った袋が3つあります。おかしは全部でいくつですか。」のような,1当たり量が前半(先)にくる問題(順行問題)の出現率は,63.1%
  • 「4人の友だちに、チョコレートを5つずつ配ります。チョコレートはいくついりますか。」のような,1当たり量が後半(後)にくる問題(逆行問題)の出現率は,29.8%
  • 「学校の靴箱は、縦に5つ、横に6つ並んでいます。全部でいくつの靴箱がありますか。」のような,1当たり量が交換可能な問題(中立問題)の出現率は,1.2%
  • その他,課題意図の取違えは,6.0%

「順行問題」「逆行問題」「中立問題」の用語は見慣れませんが,文脈からそれらの意味(そして効果)は理解できます*1
調査2では,「5人の友達にチョコレートを3つずつ配ります。全部でいくつでしょうか。」という問題を提示し,それに対する立式の考えを5択で回答してもらいました.選択肢とそれぞれの割合は次のとおりです.

  • A「式は5×3であり、3×5は間違いである」:16.3%
  • B「式は5×3であるが、3×5でもよい」:28.8%
  • C「式は3×5であり、5×3は間違いである」:15.0%
  • D「式は3×5であるが、5×3でもよい」:30.0%
  • E「式は5×3でも、3×5でもよい」:10.0%

結果とともに著者見解も書かれており,Aは「現行の指導方法から最も遠い考え方」です.なのでCが「現行の指導方法」であることを前提として,学生の実態調査を実施したと見られます(論文の冒頭にも書かれていますが).著者の推しはEであり,「意味を理解していれば認められるべき」が添えられています.
以上は,HTMLの概要とPDFの論文を取り出して整理したものですが,この内容でポスター発表をされていて,もし自分がその場にいたら,どんな質問をしていたでしょうか.…
真っ先に尋ねたいのは,各調査で解答した学生の素性です.教員養成系か否か,学年,そして小学校算数の乗法(かけ算)指導に関して,どのくらい知識を持っているかです.*2
ただ,解答者の予備知識については,質問をしなくても想像はついていて,おそらく予備知識なしです.もし大学の授業を通じて学んで(学び直して)いたら,調査1で逆行問題を答える割合が,これほどまで高くならないと考えられるからです.
もう一つ,質問すべきなのは,この結果を,大げさに言えば大学生の実態を,算数教育にどのように反映させるべきか,でしょうか.
回答してもらった学生をそのまま教育実習に行かせたり,授業や指導を通じて,Eに導かせるような学習指導案を作らせたりすることは,意図されていないはずです.
小学校の算数では,1当たり量が先だとか,かけ算の順序をしっかり指導している(らしい)けれども,大学生の認識はこんなもんだ,という事例になるというのであれば,動機は好きではないけれど,結果は受け入れないといけません*3
あるいはこの調査を,事前テストの結果とし,算数の指導法を教えたあとに,事後テストを実施して変容を探る,というのなら,ちょっとは面白そうですが,「かけ算の順序」についてそこまでコストをかけるのが---指導ではEすなわち「どちらでもいい」へ持って行くとしても---いいのかどうかもわかりません.
悶々としていると,別の違和感がおこりました.調査1では「かけ算の導入問題」と明示していますが,調査2の文章題が,導入段階での可否を問うものとなっていないのです.
調査2について,(いまの)自分自身が回答者だったら,「2〜3年ではC,4年以降ではE」*4だとか「導入段階ではふさわしくない」*5といった答え方をしたいのですが…その他扱いでしょうか.


ちなみに今回取り上げた件の発表者(著者)は,武蔵野大学 教育学部 児童教育学科の教授であり,教育学研究科長・教育学部長とのことです*6
2011年5月のトレインメッセージで,お顔と経歴,関心を見ることができます.「総合学習」に肯定から入っているのと,「そうじ」の国際比較が,興味深い内容でした.

*1:「逆行問題」の代わりに,「基準量が後に示された問題」という表現を用いて,情報収集をしてきました:http://www49.atwiki.jp/learnfromx/pages/103.html

*2:例えばhttp://ci.nii.ac.jp/naid/110004614978でオープンアクセスとなっている論文には,「和歌山大学教育学部の1993年度の算数教材研究法の履修生102名,滋賀大学教育学部の1993年度後期の算数教材研究の履修生37名を調査対象とした。いずれも乗法の意味の内容を授業で扱う前に調査を行った。」と明記されています.とはいえこれは紀要論文なのに対し,1ページによる発表では,記載に限りがある点にも,留意しないといけないのですが.

*3:小学2年のかけ算問題に対する大学生の理解度調査といえば,http://ci.nii.ac.jp/naid/40016569351の文献が思い浮かびます.調査方式は異なりますが,年齢が上がるにつれ「かけられる数×かける数」の順序にこだわらなくなる(あるいはその順序を忘れてしまう)傾向にあるのは,共通しています.

*4:低学年と高学年との違いについて:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20120602/1338582441, http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20130214/1360776013#%E5%B0%8F%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E6%8C%87%E5%B0%8E%E6%B3%95%20%E7%AE%97%E6%95%B0, http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20140924/1411511070

*5:3年で取り上げる意義は,あると思っています.逆思考(除法逆の乗法)です:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20140131/1391118525

*6:http://gyoseki.musashino-u.ac.jp/msuhp/KgApp?kyoinId=ymiygmgmggy, http://www.musashino-u.ac.jp/guide/information/research_funds.html