あるツイートでTECUMが紹介されていました.TECUMは,昨年『数学の二つの心』を読んで知ったのですが,1年経ってどう変わっているのだろうかと思い,http://www.tecum.world/を経て,TECUM論文投稿規程、査読規定―論文としての論理と倫理を読みました.タイトルの直後の日付(改訂履歴)について,本記事執筆時点の最終行は「2018年9月27日 投稿論文形式要件の緩和」です.またTECUMのトップページでリンクされている公開フォルダーによると,"Discipline.pdf 27-Sep-2018 22:30 246K"となっています.
内容にツッコミを入れていきます.何度か改訂されているのは分かりますが,本文には「著者の過半数は一般会員出なければならない」「件k風解開催」といった誤記があります(出→で,件k風解→研究会 と思われます).
3ページ目の著作権規程では,「著作権の存在する他の著作物からの無断の引用」と「TECUM会員でない著者(たち)との共著」を,TECUMへのすべての投稿に対し,原則として禁じています.いくつかの点で,ぎょっとします.
まず単純に,「無断の引用」という表記について,ここ数年の知見は,「無断引用」という表現はやめよう|Colorless Green Ideasより読むことができます.無断引用とは - はてなキーワードでも整理されています.
それと別に,2つの禁止事項について,同じ文書(Discipline.pdf)の投稿規程との整合性チェックがなされていないように見えるのです.投稿規程で「引用」を含む文は「また論文には典拠を示さない引用が論述の中心的根拠として含まれてはならない。」ですが,そこを含む,内容的な留意点を読む限り,論文ではなく論考であれば引用してよいと判断できます.これについて,「著作権の存在する他の著作物からの無断の引用」は「原則として」禁ずるのだから,差し支えないというのであれば,こういうところに入会して研究発表はしたくないなあ,というのが正直なところです*1.
共著に関しては「TECUM会員でない著者(たち)との共著」の禁止と,上で誤記を指摘した「共著による論文の作成を認めるが、著者の過半数は一般会員出なければならない」の両方を満たそうとすると,結局共著はみなTECUM会員となり,「著者の過半数は一般会員出なければならない」は書き換えるべきとなります(あるいはここでも,原則なのだというのであれば,「TECUM会員でない著者(たち)との共著」の方を書き換えるべきだろうと思います.).なお会員種別はhttp://www.tecum.world/Membership.pdfより読むことができ,研究発表できるのは一般会員のみです.
といったわけで,理事会や機関誌委員会のチェックがなされていないようです*2.残念に思います.
(同月追記)会員でもなく,会員になりたくもないところの文書に「噛みついた」理由を自分なりに振り返っておくと,「引用(citation/quotation)」「共著」について,算数・数学教育に対して提言をする際にはどうあるべきかということを,当該プロジェクトに距離を置きつつ検討しておきたかったというのがあります.
主にブログに綴ってきた経験に基づくと,quotationは不可欠で,それによって昔からの算数(ときには戦前の算術)や,海外文献を含めた関連情報との照合がしやすくなります.それぞれの立場や経験が異なる者どうしによる共著は,積極的に認めるべきであり,学協会への寄稿にあたり会員は「少なくとも1名」か「過半数(または半数以上)」か「全員」のいずれにするかは,メリット・デメリットに注意しながらそれぞれの学協会で決めるべきことと言えます.
ともあれ自分自身,論文や歴史資料,また他の人のブログ記事やツイートに影響を受けつつも,積極的なコラボレーションをすることなく単独で,算数教育関連の記事を取りまとめてきました.「かけ算の順序」「正方形は長方形」「みはじ(はじき,くもわ)」などに関しては,現在,サブブログと表記することもある,かけ算の順序の昔話にて記事をリリースしています.サブブログでは書き手自身の属人的なことは書かないようにし*3,良し悪しの表現も控えめにしていますが,算数教育を批判する文章には,ネガティブな評価を明示することもあります*4.
かけ算の順序批判あるいは算数教育批判をなさってきた方々,そこまでいかなくてもその種の批判に同調されてきた方々には,批判・主張において「信頼性を保証できているか(他人に委ねようとしていないか)」についてだけでも,気に留めていただければと思います.
*1:自分が書いたり,学生の原稿を添削したり,学会で査読依頼を受け読んだりする論文では,引用元の内容を,必要に応じて引用者がパラフレーズし,文献番号をつけて引用(citation)するのが一般的ですが,TECUM論文投稿規程では引用元の記載をそのまま書き出すこと(quotation)を念頭に置いているものと推測します.
*2:「ようです」は,TECUM Letter 創刊準備 第0号 http://www.tecum.world/ForPublic/TECUMletter000.pdfで長岡亮介氏が「ハジキの公式」を批判的に述べる際に「速さの概念が分かっていない子どもでも速さ問題に「正しく」答えられるようにするという「教育」手法が普及しているようです。ハ,ジ,キはそれぞれ,速さ,時間,距離の先頭の発音に基づくようですが」と,2度,使用しています.なおサブブログの http://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2018/09/18/062209 では,海外文献より見ることのできる同様の図や,ハジキで解ける/解けない出題例を紹介しています.
*3:例えば本記事の最初の脚注は,サブブログの執筆方針にそぐわないものです.
*4:例えば,http://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2017/10/14/235735, http://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2018/03/02/062640