序章のあと,第1章と終章を読んで,内容に重なりが多いなと思いながら執筆者を見ると,第1章と終章は同じ人(北野秋男)でした.
第1章の出だしのいくつかの段落で,「ハイステイクス・テスト(high-stakes test)」と「ローステイクス・テスト(low-stakes test)」が書かれています.米国のハイステイクス・テストは,テスト結果に伴ってその責任を追及する「制裁措置(sanction)」を伴います.日本の全国学テは制裁措置がなく,ローステイスク・テストに近いとした上で,この章で示しているのは,「米国型のハイステイクス・テストへと接近しつつある」(p.19)ということです.
さかのぼってp.18から,ハイステイクス・テストの特色を抜き出すと「トップ・ダウン的な教育管理政策」であり,より具体的には,テスト結果に基づく「学区・学校のランキング化」「教員評価」「教員のテニュア制の廃止」「高校卒業要件」「学校の統廃合」「教育行財政改革」が,カギカッコつきで列挙されています.
また別の切り口で,ハイステイクス・テストの特徴が,終章のp.227の一つの段落に記述されていました.
世界の学力テストの現状を鑑みると、全児童・生徒を対象に悉皆調査という方法で学力テストを実施している国は、本書で取り上げたように、それほど多くない。テストの実施方法としては、特定学年における児童生徒を対象としながらも、それを「悉皆調査」「抽出調査」「希望調査」のいずれかの方法で行うことによって、その意味内容は全く異なるものとなる。「悉皆調査」は、全数調査であるから強制力を伴い、テスト結果に基づくランキング化も可能となる。一方、「抽出調査」や「希望調査」は学力の実態把握を目的とし、実施は任意か何らかの基準で一定数選ばれた児童生徒が対象となる。一般的には、学力テストにおけるハイステイクス性は「悉皆調査」で認められ、「抽出調査」や「希望調査」では認められない。
「一般的には」に注意しつつも,悉皆調査による日本の全国学力・学習状況調査がハイステイクス・テストの性質を帯びていることを,指摘しているように読めます.
ところで本書は,日本や他国でどのような制度のもとナショナル・テストが実施されているかを取りまとめたものです.国主体でないローカル・テストへの言及は少ないですし,どのような出題がなされているかというのも,ほとんど関心が払われていません.
なのですが第1章で,埼玉県が実施するテストで,「学力の伸び」を測定評価していること,そして具体的な出題例が,示されています(pp.31-32).
ただし、米国と異なる点は「学力の伸び」がテストの点数結果の比較ではなく、①学年が上がることで新たな知識を身に付けたこと、②以前と比較して、より難易度の高い問題に正答できる力を身に付けることである(略)。事例説明としては、小3で12×6=72という「整数のかけ算」を正答し、小4で91÷7=13という「整数の割り算」や0.5+21.5×6=129.5という「小数のかけ算と足し算」が混合した問題に正解すれば、「新たな知識」を見つけ、「難易度の高い問題」に正解したとして、「学力の伸び」が見られたというものである(略)。
「足し算」「かけ算」「割り算」の表記は原文ママです.0.5+21.5×6を計算するにあたり,(0.5+21.5)×6=22×6=132とやっては,いけません.乗除先行により,21.5×6=129を先に求めます.0.5と129の和を求める際には位取りに注意します.21.5×6=129.0(小数点以下はあえて消さない)の筆算の下に0.5を加える筆算をすれば,ミスの可能性を少なくできます.とはいえこの種の計算問題で,問われているのは,乗除先行や筆算といった求め方を(各児童が答案において)明らかにすることではなく,129.5という計算結果だけのはずです.
他の情報源を見ておきます.全国学力テストを批判的に取り上げる本の中でも,算数の出題が紹介されており,https://twitter.com/takehikom/status/1303912151023665152にてツイートしました*1.もう一つ気になったのは,東京都算数教育研究会が平成30年度まで実施してきた学力実態調査(http://tosanken.main.jp/data.html)で,調査人数=解答者数からすると,参加校のレベルでは希望調査,そして校内においては悉皆調査と推定できます(ローステイクス・テストかつローカル・テストになると思われますが).
*1:対象の書籍は,『世界のテスト・ガバナンス』の第1章で参考文献に書かれています.ツイートのあと,増刷により修正されたかどうかは,把握していません.