今月の,全国学力テスト関連の新聞記事を目にしていく中で,いくつかの議会の意見書に気づきました.「悉皆調査の継続」です.まあこの時期に,抽出調査に賛成をする意見書というのが出たり,悉皆調査の継続を求めた意見書案が否決されたりしても,新聞にも議会録にも,なかなか載らないでしょうけど.
個人的には40%だとか,それを減らして30%台にするだとかいった,いま文部科学省が計画していて,その一部が報道されているような方式の抽出調査には,賛成できません.じゃあどういう抽出率ならいいのかについては,そもそも全体設計から見直すべきではないかとか,率よりも選び方が大事じゃないかとかを挙げておく程度にとどめて,本日は,過去3年間の実施方法をベースとする,意見書に焦点を当てたいと思います.
さっとGoogleで*1,一部議会サイトに入って検索して,見つかったものを,新しくなる順に並べてみました.
- 熊本県議会:全国学力・学習状況調査の継続とさらなる充実を求める意見書(PDF) (2009.10.08)
- 東京都豊島区議会:悉皆方式による全国学力・学習状況調査の継続を求める意見書 (2009.12.11)
- 香川県議会:悉皆方式による全国学力テストの継続実施とさらなる充実を求める意見書 (2009.12.15)
- 徳島県議会:悉皆方式による全国学力・学習状況調査の継続を求める意見書 (2009.12.16)
- 福岡県苅田町議会:全国学力テスト:全員対象で継続を 苅田町議会、意見書採択 /福岡 (2009.12.21)
5つを読んで,まず気になるのは,表現の共通性です.複数で取り上げられているフレーズなどを,抽出してみます.
- 川端達夫文部科学大臣は…抽出方式に変更する方針を表明
- 調査規模がさらに縮小される可能性.都道府県や自治体間の学力比較ができなくなり,地域間格差を是正する実効性が失われるおそれ
- 来年は,3年前に小学6年生だった児童が中学3年生.3年間の学習の成果を定点観測により検証できる初めての機会
- 保護者からの声が数多くある.子供の相対的な学力を知ることができる
- 希望利用方式は,著しく不公平
- 悉皆調査であるからこそ,子供一人一人の課題などが把握でき,高度な分析・検証に関する調査研究も可能となる
- 世界最高水準の義務教育を実現するために
- その調査結果を最大限活用するなど,さらなる充実を図られることを強く求める
大学のレポートなら,時間的余裕があれば提出した学生を呼び寄せたいくらいに,似通っているのですが,様々な自治体の議会が意見書を出し,おそらくそれが集計されて,新聞記事だとか,国会への陳情,あるいは国会の中で取り上げられることを,期待しているわけなので,これくらいのオーバーラップに目くじらを立てては,いけないのでしょう.
しかしそれでも,各自治体の地域性が見えてこないのは,少々気がかりです.
記述内容について疑問を挙げることで,これら意見書について,私自身は賛成できないことを明確にしておきたいと思います.
- 悉皆か抽出か以外のところで,全国学力テスト全体の設計や運用について,まずいと思っていないのでしょうか.とくに,都道府県単位(市町村単位でも)で平均点が公表され,そこから順位が求められるという現在の結果公表のあり方に,疑問を持つ方はいないのでしょうか.
- 事業仕分けでは,「地域比較より経年比較」という意見が出てきました.問題を公表する限り,経年比較ができないという指摘もありました.これらについて,反論することなく,過去3年間と同じ方式を希望するのでしょうか?
- 悉皆か抽出かの議論は,2007年の全国学力テスト実施以前からなされています.統計や分析・検証の観点で,悉皆を望む人や,説得力のある意見は,存在するのでしょうか? 「高度な分析・検証に関する調査研究」についての,見通しはあるのでしょうか?
- 過去3年間の調査で,「子供一人一人の課題が把握」できた事例があるのでしょうか?*2 結果が学校や担任,子供一人一人に,どのような形態(情報)で送られているか,ご存知なのでしょうか?
*1:google:全国学力テスト 意見書で検索すると,上位に日弁連による,これまでの方式への反対意見となる意見書も出てきますが,今年のものではありません.
*2:プラスの面の事例として,http://mainichi.jp/select/opinion/eye/news/20091218k0000m070145000c.htmlという記事を見つけましたが,内容を読む限り,「自治体比較の結果から,その地域の課題が把握できた事例」であり,子供一人一人の課題とは読み取れません.