わさっきhb

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構造,全体と部分の関係

 以下のようにコメントをつけてブックマークしたところ,何人かの方からスターをいただきました.

takehikom 『「全体感」と「土地勘」という例え』/ある分野の書籍その他を多読して学んだのは、「構造」「全体と部分の関係」

 個人的なはてブコメントのルールとして,本文の記述を抜き出してコメントに入れる際には,『 』で囲っています.
 スラッシュの直後に書いた「ある分野」というのは,算数・数学教育です.「著者名(出版年)」で出典を示すなら,Vergnaud (1983, 1988)には章題にStructuresが入っていますし,中島(2015)の本文に出現するのは「かけ算の本質(構造)」です.Greer (1992)で示された乗除算モデルの一つに,Part/wholeがあります.

 ところで,「構造をつかむ」あるいは「構造を見抜く」といった表現を,見かけることがあります.対象は算数・数学に限りません.いま検索してみると,英文読解でよく使われます.与えられた対象から,要素(部分)を抽出し,機能的な関連に基づいて全体像を認識することです.以前に見たものと,表記は異なっていても,全体と部分の関係が同一であることを発見できたら,「同じ構造」と呼ばれます.
 「同じ構造」で思い浮かんだ一つの例を挙げて,詳しく見ていきます.『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編』のp.111には,以下の説明と図があります.

 図だけを見て,思い浮かぶのは,A+B=Cという等式です.次に,(「かけ算の順序」「たし算の順序」を想起して)「この図をB+A=Cと表してよいのか?」という問題意識を持ったとすると,図のすぐ上の行に「A+B=CやB+A=Cとなる。」と書かれていまして,「表してよい」で,話が終わってしまいます.
 洋書に,加法と減法の相互関係に基づく文章題と,児童の発言があります.

 問題文を書き出して私訳を添えます.

Fred had 13 raisins. He ate some of them and had 5 raisins left. How many raisins did Fred eat?
(フレッドはレーズンを13粒持っていました.そのうちいくつかを食べると,残りは5粒になりました.フレッドは何粒食べましたか.)

 出典は,以下の文献のp.142です.

  • Moser, J. M.: "Arithmetic Operations on Whole Numbers: Addition and Subtraction", in Post, T.R. (ed.): "Teaching Mathematics in Grades K-8: Research Based Methods", Allyn and Bacon, pp.111-145 (1988). [asin:0205110762]*1

 児童の吹き出しの左には,WHOLE-PART-PARTの図が,また右には,上段に13,下段の左は空欄で右は5が書かれた図が,それぞれ付けられています.空欄が「何粒食べましたか」の数になります.何粒食べたかと,残った5粒を合わせれば,13粒で,全体と部分の関係(そして加減算の関係)から,式は13-5,答えは8粒です.図の右下には,13-5を求めるための筆算もあります.
 日本の算数で,この種の文章題を学習するのかというと,YESです.『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編』では,先ほどのABCの図の次のページ(p.112)に,以下のように書かれていました.

③ 減法の減数が未知のとき,その減数を求めるのに減法を用いる場合
 例えば,「はじめにリンゴが12個あって,幾つか食べたので残りは7個になった。幾つ食べたか」を求めるような場合である。

 この問題も,テープ図,またはWHOLE-PART-PARTの図をかき,数を割り当てることで,「12-7=5 答え5個」と求めることができます.
 求めたい数を□とし,文章題の流れに沿って式を立てると,レーズンの件は13-□=5,リンゴについては12-□=5です.「減法の減数が未知のとき,その減数を求めるのに減法を用いる場合」,これを縮めて「減法逆の減法」のもとで(またはそのような用語を知らなくても,図にするか,中学1年の一次方程式の知識を活用することで),□=13-5,□=12-5により,それぞれの未知数を求めることができます.
 ここで「③」という番号に着目します.前のページには,「このような加法と減法との相互関係について,次の①,②,③のような場面を取り上げて指導する。」と書かれており,その3番目(そして最後の番号)ということです.これは,加法と減法の相互関係として,第2学年で学ぶべきであり,かつ,3つ*2の中で最も難しいタイプの問題であることを示唆します.
 Moser (1988)においても,「pp.111-145」が一つの章で,p.142ですから,Addition and Subtraction(加法と減法)の内容の大詰めのところです.こういう問題も,児童は自力解決できるようになってほしい,と読み取ることができます.

*1:本書は,https://takehikom.hateblo.jp/entry/20121222/1356112738で取り上げています.2012年に取り寄せて,かけ算の章をしっかり読んでから,他の章にも目をやると,今回取り上げた図が興味深かったのでした.

*2:前二者も書き出しておくと,「① 数量の関係表現は減法の形であるが,計算は加法を用いることになる場合」「② 数量の関係表現は加法の形であるが,計算は減法を用いることになる場合」で,それぞれ「減法逆の加法」「加法逆の減法」です.「加法逆の加法」というのはありません.