Teaching Mathematics in Grades K-8: Research Based Methods
- 作者: Thomas R. Post
- 出版社/メーカー: Longman Higher Education
- 発売日: 1988/01
- メディア: ハードカバー
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かけ算の話は,この中の第6章です.
- Anghileri, J. and Johnson, D.C.: "Arithmetic Operations on Whole Numbers: Multiplication and Division", pp.146-189.
2人の著者は,ロンドンの別々のCollegeに所属しています.なお,編集者Postを含む多くの章の著者は米国に所属していました.
飛ばし読みをしていって,「3×4と4×3は違う」という主張を見つけました.
When considering how the symbolic expression 3×4 is interpreted by adults and children, we find the most common expressions are "3 multiplied by 4," "3 times 4," and "3 fours." Some people will use the expressions quite interchangeably on the understanding that all three are equivalent; in the domain of mathematics this may be acceptable but in real life there is an important distinction between these different interpretations. On one hand "3 times 4" and "3 fours" usually relate to three sets of four objects and are consistent with "3 lots of 4."
For children, three lots of four and four lots of three are fundamentally different. They think in concrete terms---three children each having four candies are luckier than four children each having three candies although the total number of candies is the same.
(3×4という式が何なのか,大人と子どもが説明すると,たいてい「3に4をかける」「3倍の4」「3つの4*1」のいずれかとなる.これら3つの解釈を同じものとして理解し,どれを使っても変わりがないように,3×4という式を使う人もいる.数学的には,その扱いで問題ないかもしれないが,日常生活においては,これらの解釈には大きな違いがある*2.「3倍の4」と「3つの4」は普通,4つのモノからなる集合が3つある状態に関連づけられ,「4が3つ」に対応する.
子どもたちにとって,「4が3つ」と「3が4つ」は基本的に別物である.具体物で考えると---4つずつキャンディを持っている3人の子どもは,3つずつキャンディを持っている4人の子どもよりも,運がいい.キャンディの総数は同じなのだけれども.)
(p.157)
a×bとb×a,積は同じだけど意味が違うという説明で,「luckier」には,驚きました.しかしこの単語によって,場面に出てくる子どもたちの気持ちまで想像できて,なるほどうまいなあと思いました.
次のページには,練習問題が入っていました.「式が4×5になる文章題をつくりましょう」よりも,高度になっています.
Exercises
1. Give some real-life examples of situations in which a multiplication product a×b (for example, 5×6) is not the same as b×a (6×5).
(練習問題.1. a×bとb×a(例えば,5×6と6×5)が同じでないような,日常生活の例を挙げなさい.)
(p.158)
思い出すのは『オトナのための算数・数学やりなおしドリル』です.そのp.14では,「ペアシートが3席」と「3人用シートが2席ある」を示していました.
さらにページを進めます.「かけ算の順序」でよく持ち出される,交換法則は,次のようになっていました.
The balance or symmetry in the multiplication square relates to a very important property called the commutative property of multiplication, which states that for any two numbers a and b, a×b=b×a (for example, 3×4=4×3). Note that this is a property of numbers. While it is true that 3×4 is equal to 4×3, 3×4 may not be the same as 4×3 in a real-life situation.
(かけ算の表*3の釣り合いや対称性は,乗法の交換法則と呼ばれる重要な性質に関連している.すなわち,任意の2つの数aおよびbに対して,a×b=b×aである.例えば3×4=4×3となる.注意しないといけないのは,これは数の性質ということである.3×4が4×3と等しいのは事実だが,日常生活においてそれらが同じであるというわけではない.)
(p.177.強調は原文では斜体)
「数学的には,交換しても積は等しいけれど,意味が異なる」とのこと.表現や,シチュエーションは違えど,VergnaudやGreerのものにも書かれていました.
Vergnaudが書いたのは1983年,今回取り上げたのは1988年,Greerは1992年です.これら3つの間で,より新しい解説は,より古い解説を引用しています.といっても「つるんでいる」わけではなく,フランス・北アイルランド(ベルファスト)・イングランド(ロンドン)で,各著者が子どもたちと関わって得たことを,整理しているのでしょう.なお,各書籍のeditorは,米国の大学の人です.内容も,ヨーロッパ特有の話があるわけではないので,いずれも,欧米の算数そしてかけ算の指導の共通点と思って良さそうです.
少し言い方を変えると,「交換法則をはじめ,かけ算の数学的な性質を,小学校の算数の指導に単純に入れていいものではなく,配慮が必要だ」といったところでしょうか.
これは,しばしば「かけ算の順序」批判に見られる,「交換法則が成り立つんだから,式は3×4でも4×3でもいいじゃないか」という主張や考え方と,真っ向から対立しています.
国際的な観点で,批判者の主張が勝てるようには思えませんが,ともあれ情報収集と読み込み,そして整理を続けていくとします.
以降は,この本を読んで気になった箇所です.
- p.147:Equal groupingではかけ算の式が一つ.p.149:Arrayではかけ算の式が2つ.
- p.147:トランプ配りは「Sharing」.Greerの絵と同じ? …と思って確かめると,配置はほぼ同じで,Greerのほうは「・」ではなく「●」.
- p.151ほか:「3」「4」「12」が,正三角形の頂点になるように配置し,円で囲っている.このうち1つを「?」にして出題し,かけ算またはわり算でそれを求めてねという図.数学図鑑の「〜の公式トライアングル」と同等か?
- p.156:McIntosh (1979)の調査.9〜11歳の子どもたちに「6×3の式で表されるおはなし
文章題*4を作りなさい」と指示したところ, - pp.155-156:わり算は2種類.等分除(ニコニコわり算,トランプ配り)は説明しやすいが,包含除(ドキドキわり算*6)は累減で説明している.
- p.167:「×」や「÷」を使った式で表される場面は多岐にわたる.そこでそれらの記号を子どもたちに教える前に,かけ算・わり算のいろいろな場面を経験させてあげたい.
- p.178-179:分配法則は,アレイ図を,結合法則は,キューブの3次元配列を,それぞれの説明に使用している.
(最終更新:2012-12-24 朝)
*1:日本の算数だと,「4が3つ」に相当します.
*2:「"3 multiplied by 4"」と「"3 times 4,"と"3 fours."」の間の違いと思われます.ただし,"3 multiplied by 4"への検討は,後ろを読んだものの見当たりませんでした.
*3:九九の表,と言いたいところですが,その前のページにある表は,かけられる数・かける数とも0から10までの範囲をとります.
*4:12月25日訂正.原文は"a number story"
*5:英辞郎にMargが載っていなかったのですが,Margaretの愛称でしょうね.TimはTimothyの略称でしたか.
*6:"The second problem may not be solved by sharing because the number of children is not known."(p.156)